ラーレが人間に敵対したくない理由がわかりました
「ちょっと昔にね、あのラーレと戦った事があるんだ。その時は、僕が圧倒して悪さをしないようにする事、人間をできるだけ襲わないようにする事、って約束したんだよ。まぁ、言葉が通じないから、一方的にだけどね? んー……タクミ君には、魔境があった頃に周辺の魔物を取りまとめていた……って言えばわかるかな?」
「あー……成る程」
国を作るよりも以前の話だったか、今平穏に過ごしているこの国の土地は、それ以前は魔物が跋扈して魔境と呼ばれ、強力な魔物がひしめき合っていた地域らしい。
どの国も、誰も手出しができず、時折魔境から来る魔物から自分達を守るのが精一杯だったらしいのだけど、それをユートさんがギフトの能力を使って、魔物を減らし、平定させたとかなんとか。
正直なところ、話を聞くだけだとよくわからないし、それはもう危険があったり壮大な話で一つの物語が書けてしまいそうな程で、魔物はいても基本的に平和なラクトス周辺を見ていると、本当にそんな事があったのかと疑う程だ。
エッケンハルトさんだけでなく、ルグレッタさんも歴史的事実として言っていたから、信じるしかないんだけどね……ユートさんだけだったら信用できなかっただろう、壮大な話なのに軽い言い方だったし。
「ワフゥ……」
情けない……とでも言うように溜め息を吐きながら、首を振るレオ。
まぁ、昔の事とはいえ、戦って負けたんじゃ怯えるのも無理はないから、仕方ない事だと思う。
魔物の世界は弱肉強食で、負けるという事は死につながっているだろうからな……。
「あ、こっち見た。……本当にユートさんに怯えているようだなぁ」
「でしょ? ちょーっとしばらく飛べなくなるくらい痛めつけただけなのに、怯えなくてもいいと思うだけどなぁ?」
「それは、怯えるのも当然なのでは?」
「ラーレ……かわいそうです」
ラーレが悪いのか、ユートさんが悪いのか……いや、どちらが悪いという事でもないか。
ともあれ、飛べないくらいというのは相当な事だろうから、それだけやられたらユートさんに怯えるのも当然だろうな……ティルラちゃんが心配そうにラーレを見る気持ちはよくわかる。
「本当に怯えている様子ですね。もしかしたら、人間と争いたくない……というラーレの考えは、その時の事があったからなのかもしれませんね……」
「そうだね。大抵の人間はラーレに敵わないだろうけど、ユートさんみたいな人がいたらと考えると、積極的に争いたいとは思わないか。自分の経験は忘れられないだろうから」
「さらに、シルバーフェンリルまで人間と一緒にいるとわかれば……」
「尚更、敵対しようとは考えない。ラーレも焦っただろうなぁ……」
ユートさんが近くに来たのを気付き、子供達と一緒にいながらもチラチラとこちらを見ているラーレからは、確かに怯えているような雰囲気が伝わってくる。
そんなラーレを見てクレアさんと確かめながら、森で空から様子を見ていた時の事を思い出す。
もしかしたら自分がやられたように、特別強い人間がいるかもしれないうえ、絶対に敵わないシルバーフェンリルなんていたら気が気じゃないだろう。
山でおとなしくしていれば、いずれ自分の住処が危険かもしれないから、どこか別の場所に逃げるか、とりあえず様子を見るしかできなかったのかもしれない。
実際に様子を見ていたら、レオの魔法で叩き落されたわけだけど……ラーレにとっては災難続きだが、恐怖の記憶が掘り起こされるのを除けば、ティルラちゃんの従魔になれて良かったのかもな。
人を乗せて飛ぶのは楽しそうだからな……あの時誰かを乗せたい、と言っていたのは嘘をついているようには見えなかったから、元々温和な性格なのかもしれない。
……ユートさんにやられてそうなったのか、生まれつきなのかはわからないが。
「へぇ~ハンバーグかぁ。もう味も思い出せないくらいだけど、美味しいものだってのは何となく覚えているよ」
ラーレが怯えている原因を知った後は、また薬草畑の予定地を見たり、ティルラちゃんがユートさんを連れてラーレと話したりして、夕食の用意をする時間。
今日はランジ村の人達のために、俺がハンバーグを振る舞う事になっている……とは言っても、人数が多いのでリーザやライラさんだけでなく、他の使用人さんや村の人達にも手伝ってもらっているけど。
今もそうだけど、薬草畑の事でお世話になるからというのもあるけど、ユートさんからのリクエストでもあって、コソッと言われたけど、久しぶりに日本食が食べたいそうだ。
とは言え、俺が和食らしい和食を作れるわけもなく、この世界にあると知っている食材も少ないので、無難にハンバーグを作る事にした、もちろんハンバーガーもだ。
ハンバーグやハンバーガーは洋食だろ、というツッコミは考えない事にした……俺が知っているのは日本人の舌に合う物だし、広く食べられていたので、ほぼ日本食と言っていいだろう、きっと。
ちなみに、ラーレはユートさんから話しかけられて空へ飛んで逃げようとまでしていたけど、レオが吠えて直立不動にさせていた……かわいそうに。
ただ、お互い敵意がない事や、楽しく過ごせればと話が付いたようで、最後の方には怯える素振りはほとんどなくなっていた。
とはいえ、まだ無意識かで恐れているのか、ユートさんから声をかけられると体をビクッとさせる事もあるみたいだが、それは追々慣れて行けばいいだろう。
……ラーレにトラウマを植え付けるって、よっぽど怖かったんだろうなぁ、戦った時のユートさん。
「誰か作ってくれる人とか、自分で作ったりは?」
「しなかったねぇ。料理できないし……した事もなかったから。会う人も、ハンバーグは知っていても作る人はいなかったね。というか、最近はともかく昔はそんな余裕なかったし」
「まぁ、話を聞く限りでは、色々大変な事が多かったみたいだからなぁ」
魔境だとか、国を作ったり戦争だとかな。
まだ俺に対して秘密にされてたり、未発見なだけとかでなければ、現状ではこの国にユートさんと俺以外の日本人というか、異世界人はいない……ギフトを持っている人が他にいないというのは、そういう事だろう。
あれ? でも以前ラクトスで食事をした時に……。
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