ラーレが怯える原因はとある人物でした
「でも、なんとなくなんですけど、時折体を震わせたり首を引っ込めたりするんです……」
「首を……」
鳩がよくやるあれだろうか……? 寒いからそうしているんだと俺は見ていたけど、何かに怖がっている時もやるのかな?
鳥に詳しくないが、怯えたり驚いたりすると鳥類の場合は空へ飛んで逃げるとばかり……あ、いや、近くにティルラちゃんとかがいるから、いきなり飛んだりしないのかもしれないけども。
「うーん……どうしてなんでしょう。レオ様は何も危険を感じていないようなので、本当に危ないという事はないと思うのですけど……」
「そうですね。向こうで一緒に遊んでいるシェリーも、何かを感じ取っている様子はないですし、楽しそうです。いや、あれは楽しそうというより、ラーレに遊ばれているのかな?」
シェリーも子供達と一緒にいるんだが、そちらはラーレに向かって体当たりをしたりしていた……オークと戦っている時に近い動きだから、シェリーはそれなりに本気のようだけど、ラーレは翼を器用に操ってペシッとはたき落としている。
小さくてまだ子供とはいえ、フェンリルであるシェリーの突進を軽くあしらうのは、さすがだな。
……オークにも似たような感じだったのは、シェリーの名誉のために考えないでおこう。
「でも、本当にそう感じるんです! 嘘は言っていません!」
「大丈夫だよ、ティルラちゃん。嘘だなんて思っていないから」
「私もタクミさんもレオ様も、ティルラが嘘を言っているだなんて思っていないわよ。安心して?」
「ワフ」
「うぅ、はい……」
俺達が首を傾げているのを見て、自分が信用されていないと思ったのか、ティルラちゃんは真剣な表情で主張。
まぁ、このくらいの年齢だったら、大人達に微妙な反応をされたら嘘をついているとか思われる……なんて考えても仕方ないか。
でも、クレアさんも言っているように、俺やレオも嘘だと思ってはいないと伝えるため、手を伸ばして俯いているティルラちゃんの頭を優しく撫でる。
クレアさんは落ち着かせるように背中に手を当て、ゆっくりと動かして撫で、レオは鼻先をティルラちゃんに近付けていた。
「もしかしたら、従魔契約をしているからこそわかる事があるかもしれないからね。ラーレの言葉がティルラちゃんにわかるようにね?」
「そうよ、ティルラ。大丈夫、私達は疑ったりしていないわ。レオ様やシェリーには皆慣れたけど、まだラーレは従魔になったばかりでしょ? 私達にはわからない何かがあるのかもしれないわ」
「はい……でも、どうして怯えたりするんでしょうか?」
「そうだね……レオもいるし他の皆もいる。ここには何も脅威がないんだから、怯える必要はないはずなんだよね。それこそ、少々の魔物が襲って来ても大丈夫そうだし」
「ワウワウー!」
ティルラちゃんい理解を示し、疑っていない事をクレアさんと伝えるとともに、どうしてラーレが怯えているのかを考える。
レオは、少々どころじゃなく、どれだけ多くても蹴散らしてやる! といった意気込みだが、ランジ村は以前にもオークをけしかけられた事があるため、村の人達の精神的安寧のために、多くの魔物が来るのは勘弁して欲しい。
それはともかく、オークに限らず、トロルドやそれこそ多少強いくらいの魔物が近くに来たんだとしても、ラーレには敵わないだろうし、そもそもレオがいるからな。
「うーん……考えてもわからないなぁ」
「そうですね。カッパーイーグルが怯えるとなると、相当な事なのでしょうけど……」
「それは多分、僕がいるからだと思うよー」
「……ユートさん?」
「ユート様?」
「あははは、仲良く話していたから、離れて聞かせてもらったよ」
「立ち聞きは、お行儀が悪いですよ、閣下?」
味方のレオ相手に怯える事はないだろうからと思いながら、理由を考えていた俺達に、いつの間にか近付いていたユートさんから声をかけられた。
相変わらずルグレッタさんは、ユートさんを冷たい目で見ながら冷静にツッコミというか、冷たい言葉をかけているが、これは趣味らしいので気にしないでおこう。
「別に、聞かれて困る話をしていたわけじゃないからいいんだけど……どうしてユートさんがいたらラーレが怯えるんだ? ここに来て、初めて会ったんだと思ってたけど」
「いやー、僕は忘れていたんだけど、どうやら昔にあった事があるみたいでねー」
「昔?」
「そう、昔。まぁ、いつ頃かっていうのはまた今度ね」
「あ、成る程……そういう……」
チラリとクレアさんに視線をやって誤魔化すユートさん。
多分、ユート自身の身の上というか、不老だとかなんだとかの話になるからだろう、一応まだクレアさんには内緒になっているはずだから。
という事は、少なくとも数年前とかではなく数十年、場合によっては数百年前に会ったという事だろう……それだけ昔の記憶なら、忘れていてもおかしくはないのかもしれないかな。
「でも、どうしてユートさんに? ラーレはカッパーイーグルと言って、かなり強力な魔物らしいんだけど……」
「あぁ、そうだね。多分本気になれば、この国を一体で滅ぼす事もできるかもしれないくらいだと思うよ。僕が関わらなければ、だけどね?」
「その言い方ですと、ユート様ならラーレを止められる……いえ、それどころか倒せるとも言っているように聞こえます」
「ユート様、ラーレより強いんですか?」
「そうそう、ラーレだっけ? あのカッパーイーグルより強いよー?」
「そんな簡単に……」
「ワウ!」
「ごめん、さすがにレオちゃんには敵わないよ。うん、今度また遊ぼうね?」
「ワウー」
「閣下、得物に手を置いてシルバーフェンリルに聞くのは危険なので、おやめ下さい」
また遊ぶと言いながら、刀を振り回してレオに向かっていくのをにおわせるユートさん。
クレアさんやティルラちゃんの問いに対して、簡単そうにラーレより強いと言い切ったのは、おそらくギフトのおかげだろう。
確か『魔導制御』だったか……あらゆる魔法を使えて無限に近い魔力があるから、ラーレに勝てるんだと、話を聞いていた俺ならわかる。
クレアさんとティルラちゃんは、ユートさんがギフトを使えるとは知らないから、半信半疑だろうけど……いや、ティルラちゃんは信じてそうな表情だ……そのまま純粋に育って欲しいと思うのと、悪い大人に騙されないよう気を付けないとなぁ、という気持ちが沸いたが、今はどうでもいいか――。
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