お仕置きはお約束の方法でした
「そもそもですね……」
その後、約二時間近くに渡って俺の説教が続いたとか続かなかったとか……喋り過ぎて、喉乾いたなぁ。
ちなみに三人は、正座をして座っており、慣れないエッケンハルトさんやルグレッタさんはもとより、久しぶりに経験するユートさんも、足が痺れて説教後もまともに動けなかった。
「……ふふふ。リーザ、面白い事があるから、ちょっとだけ遊ぶか?」
「パパと? やったー!」
「た、タクミ殿……? な、なんとなくやりたそうな事はわかるんだが……ほ、本気か?」
「ちょっとタクミ君? それはさすがにひどい仕打ちだと、僕は思うんだよね……」
「……敗者はただ、この境遇を受け入れるのみです。……できれば、手加減してもらえると……」
「ふっふっふ……やるぞ、リーザ?」
「うん、わかったー!」
「「「ぎゃー!!」」」
「ワフッ……」
足が痺れて動けない三人に、ニヤリと笑って両手を挙げ、にじり寄る俺とリーザ。
もちろん、女性であるルグレッタさんの担当はリーザにお願いしたが、俺と違って遊びのつもりで手加減する事はなかったようで、ちょっと悪い事をしたかもしれない……一番反省していたはずなのに。
歓迎会で周囲が騒がしい中、三人の悲鳴とレオの溜め息が夜空に響き渡った気がした――。
―――――――――――――――
「タクミさん……昨夜は本当に申し訳ありませんでした! お恥ずかしい姿を……気を付けていたのに……」
翌朝、顔を合わせたクレアさんから、すぐに謝罪された。
まぁ、もう少し気を付けておいて欲しかった……とは思うけど、ランジ村のワインが美味しいから、仕方ないと考えている。
エッケンハルトさん達と違って、お酒に強いわけでもなく、深く酔った風を装っていたとかではないんだし、そもそも俺が原因でクレアさんが溜め込む事になってしまったのだから。
「気にしなくていいよ、クレア」
「は……タクミさん、今なんと?」
「気にしなくていい?」
「いえ、その後に……」
「クレア、かな?」
クレアさん……いや、クレアから謝らなくていいよ、と伝えたつもりだったんだけど、本人はそれよりも気になる事があったみたいだ。
昨日は、あんなに自分から詰め寄って来ていたのになぁ。
俺が呼び捨てにした事に気付いて、ボッと音が出そうなくらい、急に顔を真っ赤にさせたクレア。
さすがに、いきなり呼び捨てというのは、やり過ぎたかな……?
「っ! 以前から、その名で呼ばれていますが……タクミさんから呼び捨てにされるなんて……」
「えっと、今までと同じ方が良かった……かな?」
「いいえ! いいえ! そんな事はありません! そのままでお願いします!!」
「は、はい……じゃなかった、うん……わかったよ」
「はぁ……タクミさんから呼ばれる事が、こんなにも……」
昨日今日で急にというのは、失礼かな? と思ったら、クレアは顔をぶんぶんと横に振って、否定された。
あまりに勢いが良かったので、思わず以前のように敬語が出かけたが、途中で訂正……やっぱり、敬語を使う方が自然なくらい慣れてしまっているから、もう少し練習が必要かな?
ともあれ、クレアは喜んでくれたようで、両手で自分の頬を包み込んで何やら呟いていた。
クレアがいいと言うなら、問題はないだろう……セバスチャンさんあたりから、楽しそうに追及されてしまいそうだが、嬉しそうな姿を見ていると、それもいいかと思えるな。
「ワン! キャン!」
「お? 昨日のマルチーズか。よっと……」
「マルチーズというのですか?」
「あぁいや、犬種がそうなだけで、名前では……」
クレアと話していると、足元に吠えながら駆け寄ってくる白い影……昨日も見たマルチーズだ。
前足を俺の足にかけ、尻尾をブンブン振りながら後ろ足でジャンプしているから、構って欲しいとか抱いて欲しいという事だろう、レオが小さかった時もよくやっていて懐かしい。
両手で抱き上げていると、クレアが首を傾げる……どうやら、犬という認識はあるみたいだが、犬種としての認識はないみたいだ。
犬種とかは、以前の世界での事だからな。
「それにしても、白くて綺麗な毛並ですね……少し短いですが、伸びるとふわふわそうです」
「そうだね。今は確か……サマーカットだったかな? 短く切り揃えられているけど、伸びると柔らかな毛で撫でている方も気持ちいいよ」
レオなんて、俺が仕事にかまけていた時に毛が伸び放題で、地面に付くくらいの時もあった。
長く伸びる前に、抜けて生え変わる犬種もいるが、マルチーズはそうではなく結構長く伸びてしまうからなぁ……あの時風呂に入れると、急に痩せたようにも見えてそれはそれで面白いんだが、それは今もそうか。
抱いているマルチーズは、ちゃんと綺麗に切り揃えられているから、ランジ村の人達はちゃんとお世話をしているんだろうというのが、一目でわかる。
毛が伸びたマルチーズは上品な印象もあるから、その状態でクレアが抱いていたら絵になるだろうなぁ。
「そうなのですね……」
「キャン!」
「……怒られました」
「ははは、警戒心が強いのかも。元々、小さい犬は臆病だったりするから……レオに対してもそうだったし。だからといって、飛びかかるのは度胸があるんだろうけど」
シェリーと同じように、撫でて可愛がりたかったんだろう、クレアが手を伸ばして近付けた瞬間、威嚇するようにマルチーズが吠えた。
同じ犬種でも、性格の違いはあるけど……小型犬は臆病な事が多いと俺は考えている。
レオなんて、拾って来てすぐは俺以外の誰にも懐いたりしなかったからな……成長して、少しずつ慣れて行くうちに、子供と遊ぶのが大好きになって人懐っこくなったんだったな。
まぁ、臆病でも人間どころではない大きなレオに向かって、飛びかかっていたのはそれがどんな理由であれ、すごい度胸があるんだろう。
もしかすると、このマルチーズは警戒心が強いだけで、実は勇敢なのかもしれないな。
「そうなのですね。でも、タクミさんには最初から懐いていたようですけど?」
「それは……どうしてでしょうね? 何か感じるものがあったとかかな?」
そう言えば、昨日初めて会った時から懐かれていたっけな……もしかすると、以前は同じマルチーズのレオと一緒にいたからとか? でも、それを知る術はないし、匂いでもわからないだろう。
むしろ、犬は馴染みのない他の犬の匂いがしたら、警戒したり嫉妬したりする事があったりも――。
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