落ち着いた後は説教のお時間になりました
「さて……」
「パパ、何するの?」
「うん? あぁ、今から悪い大人達を叱らないといけないからなぁ。つまらないだろうから、ティルラちゃんとかと遊んでていいんだぞ?」
「ううん、見てるー」
「そうか。まぁ、小さい子供に見られているのも、反省を促すにはいいかな」
「ワフゥ……」
「「「……」」」
何かが限界に達し、寝入ってしまったクレアさんをヨハンナさんとライラさんに任せ、俺は俺で煽った人達を座らせて前に立ち、腕を組んでいる。
隣ではレオがやれやれと言った風で、溜め息を吐きながら見張っているのは俺が頼んだからだ……こうしたら、皆逃げられないだろうからな。
背中に乗ったリーザとマルチーズが不思議そうにしていたので、簡単に説明する。
リーザに見せるものではないと思うが、子供が見ていれば大人として反省してくれるかもしれないな……そのくらいの分別はあって欲しい。
「……タクミ殿? 先程はすまなかったが、これはやり過ぎではないか? レオ様に見張られていると、恐いのだが……」
「もちろん、逃がさないためですからね。それよりも、さっきまではお酒に酔っていたように見えましたが、やっぱり見せかけていただけのようですね?」
「う、む……クレアとは違って、酒には強いと自負しているから……あ、いや、もちろん今も酔っているぞ? ほら、座っていてもふらふらするような……」
「下手な演技は、やるだけ不利になりますよ?」
「むぅ……」
エッケンハルトさんが申し訳なさそうにしながらも、レオに見張らせているのは卑怯だと主張。
その様子は先程までと違い、酔っている様子は見られなかったので突っ込むと、やはり意識はしっかりとしているようだ……以前、ロゼワインを飲みながら話していた時も、結構な量を飲んでいたのに様子が変わったりはしなかったからな。
気分が良くなってとか、一切酔っていないというわけではないんだろうが、まだまだ自分で判断できる状態と言っていいだろう。
まぁ、酔っていたからとか、面白そうだからといって、さっきのようにクレアさんをけしかけるのはどうかと思うが……もしかしなくても、エッケンハルトさんが以前覗いていた時に、クレアさんが怒っていたのは今の俺と同じような心境だったのかもしれない。
「タクミ君? その……今日会ったばかりなのに、これはちょっと。もう少し話し合う余地はあるんじゃないかな?」
「会ったばかりなのに、エッケンハルトさんと一緒になってというのは、もっと悪いのではないですか? 立場的にはエッケンハルトさんを止める側に回らなければいけなかったと思いますよ?」
「……敬語になってる、よ?」
「今は面倒なのでこれで。エッケンハルトさんもいますし、わざわざ人によって使い分けるのは気を使いますから」
「……そ、そう。えっと、僕はタクミ君の事を考えて、だね?」
「本当にそうなら、お酒の勢いに任せるのはいかがなものかと……。人によってはそれで後悔する人だっていますからね。それは、ユートさんもわかっているのでは?」
「まぁ……それで失敗する人を見た事はあるし、話しに聞いた事もあるよ。僕もだけどね」
「であるなら、尚更先程のやり方はいけないでしょう……」
ユートさんも、エッケンハルトさんと同じようにあまり酔っていないようで、レオからは逃げられないながらも抗議をするように言われた。
こっちはこっちで、身分だとか長年生きているとかに関係なく……いや、だからこそもう少し考えた方がいいんじゃないかと思う。
さっきのは、エッケンハルトさん達も含めてどこかの学生のようなノリだったからな。
いい大人がお酒を飲んだからといって、やるような行動じゃない……と思う。
「……」
「ルグレッタさんは、おとなしいですね?」
「閣下やリーベルト卿につられてとはいえ、先程の行動の反省はしております。申し訳ありません、タクミ殿」
「そうですか……」
「煮え切らない男に対して、常日頃やきもきしている女性……という事で、私もつい熱が入ってしまいました」
「う……」
「男がはっきりさせればいいのに、こちらは気を引きたい一心でいつもいっぱいいぱいなのに……などとは考えていません。ええ、考えていませんとも」
「……そ、そうですか」
抗議も主張もせず、粛々と座って俯いているルグレッタさんは、反省しているようでこちらはあまり追及しなくても良さそうだ。
……と思っていたら、逆に俺が追及されてしまった。
チラチラと、ユートさんの方を盗み見している様子もある事から、この人もこの人で何か溜め込んでいるものがありそうだ。
それはいいんだが……俺にとって若干痛いところを突かれてしまった……やりにくい。
「んんっ! とにかくですね? お酒を飲む事は構いません、ランジ村のワインは美味しいですから。ついつい飲み過ぎてしまう事もあるでしょう」
「そ、そうなのだ。ついつい飲み過ぎてしまってな?」
「本当に美味しいよね。色んな場所でお酒を飲んだけど、その中でも上位なんじゃないかな? そりゃ、飲み過ぎても……」
ルグレッタさんにこれ以上言われないよう、咳払いをして気を取り直し、説教を開始する……主に、エッケンハルトさんとユートさんにだが。
決して、ルグレッタさんを叱ろうとすると、しっぺ返しがありそうなんて考えたわけじゃないぞ?
ユートさん達は、ランジ村のワインが美味しいから飲み過ぎて……という方向にしたいらしいが、二人共そこまで酔ってませんよね?
「ですが! 酔っていたという口実にして、男女をけしかけるのはいかがなものかと思うんです!」
「……ワフ」
「はい、申し訳ありません!」
「ごめんなさい!?」
「……反省しております」
言い訳しようとする言葉を遮り、少し声を大きくしてエッケンハルトさん達に対して言い放つ。
座っている三人の横では、レオが小さく鳴いていたが……何を言ったかわからない三人は、勘違いをして深々と頭を下げて謝った。
エッケンハルトさん達は、レオも同じく怒っているように感じたのかもしれないが、本当は早く番えば……なんてため息交じりに言っただけだったりする。
……リーザの教育に悪いから、そういうことはあまり言わないようにしような、レオ?
とにかく、レオも怒っていると勘違いした今がチャンスと、さらに三人へ反省を促すように言い募る。
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