ユートさんの話はあまり理解できませんでした
「マルチーズがシルバーフェンリル……うーん、笑えばいいのか、驚けばいいのか……」
「俺は驚きましたけど……」
「そりゃ、一緒に暮らしてたマルチーズがそうなったら……ん? そうなのか、そういう事か……?」
「え?」
「タクミ君、これは仮説なんだけどね……僕達のように、異世界から来た人間がギフトを持っている理由について」
「ギフトを持つ理由?」
レオが元々小型犬のマルチーズだった事実に、悩んでいるユートさんは、何か思い当たる事があったらしい。
だけど突然、ギフトの話に戻った……何か関係があるのだろうか?
「仮説だから、正しいとは限らないけどね。ともかく、僕達異世界から来た人間は、この世界で馴染む必要がある。魔力や魔法もそうだし、言語なんかもそうだ。この世界に来て、言葉や文字がわからなかった事はなかったと思うけど、不思議には思わなかったかい?」
「それは、時折考えていたかな。結局、なんでだろうと思うだけで済ませてた。誰かに聞いても、わかる事とは思えなかったし」
「そうだね。まぁ、僕が考えたのは、この世界に来る際に、一度僕らの体は再構成されているんじゃないかって事」
「再構成……」
「つまり、適応するために言語や文字だけでなく、この世界の人間として構成されるんだ。どうやってだとか、誰がとかは、考えてもわからないんだけどね。そして、異世界……この場合は元いた日本がある世界だけど、そちらの世界とこちらでは、次元が違うのではないかという事。まぁ、実際に魔力があるから、別世界なのは間違いないけど……」
少し難しいが、ユートさんの言っている事はなんとなく理解できる。
この世界に来て、発音や言葉の響きに少し違和感を感じる事はあっても、正しく意味を理解できるし、文字もそうだ。
それどころか、日本語で書くつもりで文字を書いても、この世界の文字で書かれていたりもして……無理矢理というのは正しいかはわからないけど、体をいじって言語を理解できるようにされた、というのなら納得はできるか……一応は、だけども。
しかし、次元が違うというのは、それによってどうなるのか一切理解できない。
うーん……宇宙的な話は得意じゃないんだよなぁ……次元イコール宇宙と考える、俺の知識もどうかと思うけど。
「とにかく、日本のあった世界が高次元で、こちらが低次元と考えると、体が再構成される際に余剰なエネルギーのようなものが残るんだ。そして、そのエネルギーをどうにか体に押し込めようとして、ギフトという能力に変化するんじゃないかと……」
「えーと、はぁ……うん……」
相槌を打って、ユートさんの話を聞くが……正直なところ、半分も理解できている気がしない。
とにかく、仮定としての考えで、世界間を移動して来る際に体を作り替えられていて、この世界に適応できるようになっている。
魔力も備わっているし、言葉や文字も理解できるようになって、さらには異世界から来る原因や、誰かがやった事なのかまではわからない……という事がわかったかな、うん。
……結局何もわかってないじゃないか、というのは明後日の方向に全力で投げ捨てよう。
「そこで、タクミ君の飼っていたマルチーズだよ。同じように移動してきたために、同じように体が再構成された結果、シルバーフェンリルになったんじゃないかなと思うんだ。どうかな?」
「どうかな、と言われても……」
俺にそれがわかるわけはない。
セバスチャンさんのように、朗々考えを説明してくれたが、内容は荒唐無稽というかなんというか……。
いや、実際に日本とは違う場所に来て、魔法だのギフトだの、さらには魔物だのといった事がある以上、全てが荒唐無稽というわけじゃないんだけども。
「そうだ、もう一つ聞きたい事があったんだ。タクミ君がいた時の日本は、いつ頃だったのかな?」
「いつ頃って? えっと、寝て起きたらこちらにいたから……多分夜だったかなぁ?」
「あー、ごめん勘違いさせちゃったか。えーとなんだったっけ……せいなんとかだよ。年代を示す言葉?」
「もしかして、西暦の事?」
「あーそうそう、それだよ。いやーこっちにいるのが長いと、随分忘れる事が多くてねぇ……」
いつ頃と聞かれたので、こちらの世界に来た時間帯の事かと思ったら、西暦の事だったらしい。
考えてみれば、ユートさんはこちらの世界に来てどれだけ過ごしているんだろう?
俺も、長い間こちらで過ごしていたら、日本での事は忘れてしまうのだろうか……忘れたい事の方が、多いような気もするけど。
「「西暦?」」
エッケンハルトさんとルグレッタさんは、聞き覚えのない単語に声を揃えて首を傾げていた。
とりあえず、簡単にだが二人には説明しておく。
「それで、タクミ君はいつ頃こっちに?」
「えっと、二千……」
俺が日本にいた時の西暦、年月をユートさんに教える。
日にちについては、仕事ばかりでぼんやりとしか覚えていなかったため、何月かという事くらいだ。
「成る程ねぇ。それじゃ、俺がこちらへ来た約二年後くらいかな」
「二年後……それくらいで、西暦って忘れるものかなぁ?」
西暦に限らず、二年程度で色々と忘れるというのはあまり考えられないような気がする。
多少忘れる事や、懐かしく思う事は増えるくらいかな?
実際俺はこちらに来てまだ二年も経っていないから、わからないだけかもしれないが。
「あぁ、日本からこっちに来たのが、西暦で言うと二年でも、こちらではもっと長い時間が経っているからね」
「え!?」
「えーと……簡単に説明すると、あっちの世界とこっちの世界では、時間の流れが違うみたいなんだ。例えば、僕が世界間を移動した数日後に来た人もいたんだけど……こちらの世界では、十年くらい経ってたよ。逆に、数カ月後に移動した別の人は、二十年も経っていなかったかな?」
「数日で、十年……でも、数カ月で二十年だとすると、法則がよくわからない……」
「定期的にこちらの世界へ人が来ると決まっているわけじゃないし、あちらでの時間がこちらでどれくらいかは法則性はよくわからない。もちろん、原因や理由もね。時空のズレだとか、次元がどうの……というのは考えられるけど、証明できる事じゃないからね。だから、時間に関してはズレているというだけしか認識していないかな」
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