ギフトの話を聞きました
「うん、それだね。ギフトと関係のある別の効果の事を、副効果と呼んでいるんだけど……結局使うのはギフトを持った本人だからね。ギフトを過剰使用……使い過ぎたりした事はあるかな?」
使い過ぎというのは、もしかして以前クレアさん達の目の前で意識を失った時の事だろうか?
あの時は、シェリーの怪我を治すための薬草を使ったのが原因だったけど……。
「一度だけ……自覚はあまりないけど、意識を失ったんだ。他に思い当たる原因がなかったから、ギフトが理由だと……」
「意識はなんの前触れもなく、急に?」
「目の前が真っ白になったとか、なくはなかったけど……それまで体調に変化はなかったから、急にだった」
「間違いないね。僕も、経験があるからわかるけど……急に目の前が真っ白になって、倒れていたって事が何度も。大体、数時間から一日で目が覚めるくらいだけど、やり過ぎると数日意識を失ったままという事もあるね。……僕ではないけど、無理をし過ぎてそのまま……という人だっていたよ」
やっぱり、あれはギフトが原因だったのか。
数時間から一日なら、ちょっと長く寝た程度で済ませられるかもしれないが、二日間丸々寝ていた俺は、結構危なかったのかもしれない。
瀕死のシェリーを治して元気にするくらいだから、特別力を使ったという事なんだろうけど……今までもそうだったが、これからは特に気をよう。
気付かずに無理をして、そのまま意識が戻らないなんてごめんだからな……レオを残してなんてしたくないから。
「おかげで、副効果で魔力が無限だったり、なんでも魔法が使えると言ったって、やり過ぎると倒れちゃうからねぇ……手加減は覚えないといけなかったよ」
「あぁ、だから魔力がほとんど無限、なんだ」
「そういう事。結局制限がある以上、無限ではないんだよ。はぁ……シルバーフェンリルのようにはいかないか……」
「え、シルバーフェンリルのように……っていうのは?」
「シルバーフェンリルは、最強の魔物に恥じない能力だからね。ギフトがあろうとなかろうと敵わない……どころか、あっちは本当に無限の魔力を持っているよ。魔法で体力や疲れを癒したりもできるし……ほんと、反則だね」
シルバーフェンリルが無限の魔力……? うーん、実際にレオがどれだけ魔力を持っているかとか、俺にはわからないし、魔法に関するギフトを持っているユートさんの言う事だから、嘘ではないんだろう。
体力を魔法でというのは、レオがやっているのを見た事はないが、無限の魔力が本当なら、いくらでも疲れを癒せるという事か……まぁ、俺の『雑草栽培』で作った疲労回復薬草を、魔法で代替できると考えればいいかな。
それでなくとも、人間が敵うはずのない身体能力なのに、疲れる事がないなんて……聞けば聞く程、シルバーフェンリルが最強であるという事に、納得してしまう。
……シルバーフェンリルがどうであれ、レオが可愛い相棒だというのは、変わりないから気にする必要はあまりないか。
「そんなシルバーフェンリルに、魔法も使わず挑む命知らずが、この方です」
「酷い言い方だなぁ……」
「ですが、適当です」
「そうだけどさ……だって、シルバーフェンリルに魔法で挑んでも勝てないのは、昔に経験しているし、そんな事をしたら周囲の影響が強すぎるんだよ。それこそ、この村からラクトスまでの範囲で、全て更地になってもおかしくない。だから単純な身体能力の剣で挑んでいるんだけどなぁ……」
「そもそも、その身体能力自体、人間が敵う事がないのがシルバーフェンリルです。というより、フェンリルにすら敵う事はないでしょう」
「それをなんとかしてこそ、やり込みだと思わない?」
「いつも言われる、そのやり込みがなんなのかはわかりませんが、私はそう思いません」
「理解されない……」
「あはははは……」
ルグレッタさんとユートさんの掛け合いに、俺は苦笑するだけだ。
エッケンハルトさんは話しに参加しないよう、黙って腕を組んで目を閉じている……偉い人だから、敵わないと言うのも失礼だし、かといってレオと模擬戦をやったりもしているから、本当に敵わないと実感しているからだろうなぁ。
ルグレッタさんは、やり込みという言葉が理解できないようだが、俺にはなんとなくわかる。
ゲームを好きな人が、一つのゲームを隅々まで楽しんだりと、徹底的に遊びつくす事だな。
俺はやり込み系のゲーマーではなかったが、学生の頃に知り合いがそういう話しで盛り上がっていたのを覚えている。
人によっては、負けイベントとされる場合でも、あらゆる手を駆使して勝利してみたりという事もあるみたいだったかな……。
この場合は、絶対に勝てないであろうシルバーフェンリルとの戦いが、負けイベントであり、勝つためのやり込みなんだろう。
ゲーム的に楽しむのはどうかと思うが、冗談の部分が大きい言い方だったから、大きな問題ではないだろうな……本気で命を狙っているとまでではなさそうだし。
「あ、そうだ! シルバーフェンリルで思い出したけど、タクミ君!」
「え、はい?」
「あのシルバーフェンリルとは、どこで仲良くなったのさ! 本来人間には自分から近付こうとはしないあの魔物が、人間と一緒にいるだけでなく、おとなしく他の人間と戯れているなんて! いや、さっき見た時は、犬と戯れていたけど……」
急に大きな声を出すユートさん。
異世界だとか、王家だとか、ギフトだとかよりも、俺がシルバーフェンリルと一緒にいるのが重要だと言わんばかりだが……いや、実際重要なのか。
さっきまでの話の通りなら、ギフトがあろうと人間が敵う相手じゃないみたいだしな。
「えっと……レオは、最初からシルバーフェンリルだったわけじゃなくて……」
「何それ? ゲームみたいに進化でもしたって事? そんなの聞いた事ないけど」
「いや、そうじゃなくて……えっと……」
ユートさんに、俺がこの世界に来た時の事を説明する。
気付いたら森の中にいて、元々マルチーズだったレオがあの通りの巨体で、シルバーフェンリルになっていた事を。
「……マルチーズ? それって、あのマルチーズ?」
「他にマルチーズがいるのか知らないけど、あのマルチーズ……」
マルチーズと言われて、犬種としてのマルチーズ以外にあるのかを、俺は知らない。
繰り返して聞いて来るユートさんに、頷いて答える。
ルグレッタさんとエッケンハルトさんは、マルチーズがなんなのかわからないのか、不思議そうに話す俺達を見ているだけだった――。
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