閣下と呼ばれる人物と話し始めました
「閣下……」
「うん、わかっているよ。そうだねぇ……ハルト、どこか邪魔されずに話せる場所はあるかな?」
「は、先程まで私もいましたが、村長の家が適当かと。――村長、しばらくの間借りるが、良いか?」
「あ、は、はい! 畏まりました、いくらでも使って下さい!」
「いくらでもは使わないよー、あはははは。とりあえず、ハルトとタクミ君でいいかな?」
「多くの者ではなく、少数に留めるべきかと」
「わかった。それじゃ悪いんだけど、ハルト……お願いできるかな?」
「はっ、仰せのままに」
「……えっと……?」
「ワフ?」
先程ユート様の頭をはたいて止めた女性が歩み寄り、小さな声で話す。
何がなんだかわからないけど、とりあえず目の前の男性と女性、それとエッケンハルトさんの四人で話をする事になったようだ……どうして俺も混じっているのか、よくわからない。
というか、エッケンハルトさんがハルトと呼ばれるのが新鮮で、そちらにばかり意識が行ってしまっていた――。
「それじゃ、何から話そうかなぁ?」
「まず、確認からかと……」
「そうだね」
ハンネスさんに許可を取り、先程まで話していた場所にて、四人で話を始める。
俺とその向かいにはユート様が座っており、エッケンハルトさんはその間、家に入る前に名乗った女性はルグレッタさんというらしく、ユート様の斜め後ろ……よくセバスチャンさんや執事さんが控える位置に立っている。
ルグレッタさんは、両手で持っても重そうな大きな剣を抜き身で背負っていて、お尻まで届きそうな長い髪が剣身を少し隠している。
身長はクレアさんより高い……というより俺と同じくらいで、女性としては高身長と言えるだろうか、フィリップさん達のように金属製の鎧が顔以外の全身を覆っている事から、護衛の役割が大きいんだろう。
ただ、その金属の鎧が真っ黒に染まっていて、一種異様な雰囲気を醸しているんだが……あまり気にしない方が良さそうだ、鋭い目で睨まれたし……威圧感が凄かった。
男性、ユート様の方は革で作られた物で、部分的に覆っているだけの軽装で、腰に刀を下げていること以外は確かに旅の者としか見られないだろう。
ただ、俺を見る目は黒く、短く切りそろえた髪の色も黒で、俺より少し年上のような感じがするうえ、なんとなく懐かしさを感じるのが不思議だった。
あと、少しだけ気になるのはその話し方だ。
他の人とは違って、耳馴染みがいいというか……言葉が通じる通じないとかではなく、なんとなく薄紙一枚を隔てているように聞こえる他の人とは違い、ユート様からはなぜかそういった事を感じなかった。
「とりあえず、タクミ君」
「はい」
「緊張しなくてもいいからね? 取って食べたりはしないから……って、それはシルバーフェンリルと一緒にいる君が言う方か。とりあえず、僕の事は気軽にユートさん、とでも呼んでくれればいいから。まぁ、それはともかく……タクミ君は、異世界から来たんだね?」
「え……? なんでそれを?」
「私は、何も伝えてはいないぞ」
エッケンハルトさんからでなければ、一体どこから?
一応、荒唐無稽な話だろうから、ギフトを持っているとは教えても、異世界からというのは話していないのに……。
屋敷でも、一部の使用人さんしか知らないはずだし、それこそリーザにだって言っていない事だ。
……リーザにはそのうち話すつもりだが、理解できないだろうというよりは、環境が変わってさらに混乱させないように、と考えているからだ。
しかし……エッケンハルトさんが話していなければ、一体どこから……?
屋敷の誰かが話して、というのは考えにくいしなぁ。
「誰から聞いたわけでもなくてね、ただタクミ君を見てそう思ったからだよ。わかった理由の大半は、僕も異世界から来たから……だね」
「えぇ!?」
「そりゃ驚くかぁ……この国には今、他に異世界から来た人間はいないからね。ちなみにこの事は、ハルトとか一部の人間くらいしか知らないんだけどねー」
「……私が、タクミ殿の話を聞いて、すぐに信用した理由がこれだ。すでに、異世界からという人間がいたからだな」
「そ……そうなんですか……」
「異世界から来た人間っていうのは、実際それなりにいるんだよ……多いとは言えないけどね。あ、これは国の一部、貴族家の当主くらいしか知らない事だから、あまり他の人に言わないでね?」
「正確には、侯爵以上の貴族家当主です。リーベルト卿のように、公爵家の当主であれば知らされますが、それは当主になっているから。当然、一族であっても当主以外には知らされませんし、その使用人にも教える事は禁じています」
「まぁ、異世界から来た本人、この場合は僕とかタクミ君が自分で言うのは禁じられていないから、教えてもいいという程、信頼できる人がいれば、特に止める理由はないよ。それこそ、僕の事は関係なくタクミ君だけ異世界から来たと話すのなら、何も問題はないから」
「……狙われる可能性は増えますが」
「だから、僕たちには特別な力がある、そうだろ?」
「確かにその通りですね。有効に使えれば、強力な能力があるはずです。それに、だれかれ構わずというわけでなければ、問題なく過ごせるでしょう」
次から次へと、驚きの話を聞かされてまともに反応ができない状態が続く。
俺と同じように、異世界から来た人間がいたというのは凄く驚いた。
ユート様……さんから感じていた、懐かしさのようなものはそのためだったんだろう。
そうかぁ、俺以外にもいたのかぁ……同じ境遇の人がいるのが、なんだか嬉しい。
「うん? どうしたのタクミ君、笑っているようだけど?」
「いえ、自分と同じ異世界からという人がいて、嬉しいなと……」
「へぇ~、面白いね。よくあるのは、自分だけが特別じゃないとわかって、嫌悪感を出したりする人もいたのに……」
「場合によっては、こちらを排除しようとする人もいたようですが?」
「あぁ、いたいた。まぁ、僕の方がこの世界にいるのが長かったから、その時はさっさと逃げて追いかけられなくしたけどね」
「そんな事があったんですね……」
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