表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

667/1996

女性が乱入して止めてくれました



「くの! この! くそう!」

「とにかく、あれを止めねばな。――閣下……そろそろ諦めてはいかがでしょうか?」

「む、聞いた事のある声。くぅ……せっかくシルバーフェンリルを見つけたというのに、負けを認めるのは……!」

「いえ、認める以前に、最初から負けています」

「なんと言う事を! 僕は絶対に負け……」

「ん?」

「ワウ?」

「いい加減にしてください閣下!」

「おふっ!」


 レオの前足で前に進む事すらできず、ジタバタと刀や腕を振り回しているだけの男性。

 その男性に、エッケンハルトさんが近付きながら声をかける……閣下?

 あー、目上の人にいう敬称で、そんな呼び方があったっけ、エッケンハルトさんより上の立場という人が少ないから、珍しくて思わず首を傾げてしまった。

 だが、エッケンハルトさんの声に反応はしても、ジタバタするのを止めない男性。


 すると横からツカツカと、これまた初めて見る女性が近付き、男性の頭をはたいて止めた。

 結構痛そうだったなぁ……というか、刀を持って暴れている男性に近寄るというのも、中々度胸がある人のようだ。


「失礼致しました、リーベルト卿。お久しぶりでございます」

「む、うむ。しかし相変わらずの扱いなのだな……閣下は大丈夫なのか?」

「これくらいしないと、閣下は止まりませんでしたから。丈夫なので問題はありません。このように扱われるのが閣下の好みなので」

「そ、そうか……」

「うぐぐ……丈夫って言われても、痛いんだよ? 好みなのは確かだけどね、いてて……」

「閣下が、リーベルト卿の制止すら聞かなかったからです。悪いのは閣下です」

「そうだけどさー。まぁ、いいか……」


 いいのか……。

 あれだけ暴れていたのに、女性から厳しいツッコミをされただけでおとなしくなる男性。

 女性の方も、エッケンハルトさんと顔見知りだったようで、閣下と呼ばれる男性をはたき倒した後、声をかけながら礼をしていた。

 頭をはたかれ、地面に転がった男性は何処かを痛めた様子もなく、すんなり立ち上がる。


「やー、ごめんごめん。ちょっとシルバーフェンリルの気配を感じたら、いてもたってもいられなくなってねー」

「はぁ、閣下……レオ様が相手だったから良かったものを、他のシルバーフェンリルが相手だったら、反撃で命が危なかったのですよ?」

「それはそれ。どうせ僕は、余生を過ごしているようなものだからねぇ。やられても、志半ばというわけでもないから、いいんじゃない?」

「よくありませんよ、閣下。御身は一応国にとって重要なのですから、気軽に死んでもらっては困ります」

「一応って……中々ひどいね」

「ワウ……ワフ?」

「いやレオ、俺もどうしていいかわからないんだけどな?」


 頭を掻きながら、軽く謝る男性にエッケンハルトさんが溜め息を吐きながら、苦言を呈する。

 確かに、レオは人間相手には手加減をするし、基本的に強く反撃をしないから大丈夫だったが、これが他のシルバーフェンリルが全力で反撃した場合……思い浮かんだのは森でレオが倒したオークで、あれと似たような事になっていた可能性が高い。

 本人は生きる事に無頓着な様子を見せているし、レオが困った様子で前足を上げたまま、俺にどうしようかと顔を向けて鳴かれても、俺だってどうしていいかわからない。

 しかし……いつもは、クレアさんやセバスチャンさんが溜め息を吐く事が多いのに、今はエッケンハルトさんが溜め息を吐く側とは……ある意味一筋縄ではいかない人物なのかもしれないな。


 そのクレアさん達は、俺やレオと似たような感じでどうしたらいいのかわからないらしく、呆然としたままエッケンハルトさん達の様子を見ていた。

 まぁ、レオに突っかかって行ったと思ったら、エッケンハルトさんが静止の声をかけ、さらに女性が頭をはたいて止めるなんて状況、すぐに理解しろと言われても無理か。

 あと、エッケンハルトさんが閣下と言って、相手を上に見ている様子なのも一因か……ハンネスさんの話を聞いていた俺やセバスチャンさんならともかく、クレアさん達はこの男性がどういう人物なのか全くわからないだろうからなぁ。


「ん? もしかして君が、このシルバーフェンリルの飼い主かい?」

「え、あ……はぁ。一応?」

「ワフ!」


 こちらに背を向けていた男性が急にくるりと振り返ったのは、俺とレオが話していたのに気付いたからだろう。

 今のレオを相手に、飼い主というのは少し抵抗感があったんだが、とりあえず頷いておく。

 レオの方は、その通りだ! と言うようにはっきりと頷いて鳴いた……それで良かったんだな。


「そうかそうかぁ。いやぁすまない事をしたね。ちょっと興奮しちゃって……あぁ、シルバーフェンリルが嫌いだとか、どうにかしようなんて事は考えていないから安心して? 僕はユート、君は?」

「あ、タクミ……です。こいつはレオ」

「タクミ君ね、覚えた。それにしてもレオか……いい名前だなぁ。格好良いし、雄々しいって言うのかな? ぴったりだね!」

「ワウ!」


 軽薄な感じとはちょっと違うんだけど、明るく飄々と話す人のようで、王家というイメージやエッケンハルトさんのような少し尊大さを感じる喋り方ではないようで、親しみを感じる。

 まぁ、エッケンハルトさんの方は、威厳を出すためなのかなんなのか、わざとそういう話し方にしているようにも感じられるけど。

 ユートさん……様? は、レオの名前を聞いて笑みを浮かべ、褒めながら体を撫で始めた。

 さっきまでの様子はどこへ行ったのかわからなくなるくらいだが、敵意を隠している感じはしないし、レオも褒められて満足そうだからいいんだけど……。


「えっと、すみません。レオは雌で女の子なので、雄々しいというのはちょっと……」

「え、女の子? ……あー、うー……うん、とってもいい名前だね!」


 雄々しいという言い方が、レオにとっては誉め言葉になるのかもしれなくとも、ちょっと気になったので訂正だけはしておく。

 いっその事、ネーミングセンスがないと言われた方が楽だったと思えるくらい、空々しい誉め言葉に、内心落ち込む。

 自分で付けた名前だから、仕方ない事なんだけどな。

 だけどどうしてだろう……この世界に来て、レオが雌でもその名前で誰かから微妙な反応はされた事はないのに、この人だけは違った。

 なんというか、不思議な人だな……黒髪はライラさんもそうだし、珍しくないはずだけど、黒目というどこか懐かしさも感じる見た目だからなのかもしれない――。



読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。


面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。

また、ブックマークも是非お願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍版 第7巻 8月29日発売】

■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻口絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


■7巻挿絵■ mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


詳細ページはこちらから↓
GCノベルズ書籍紹介ページ


【コミカライズ好評連載中!】
コミックライド

【コミックス6巻8月28日発売!】
詳細ページはこちらから↓
コミックス6巻情報



作者X(旧Twitter)ページはこちら


連載作品も引き続き更新していきますのでよろしくお願いします。
神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移


完結しました!
勇者パーティを追放された万能勇者、魔王のもとで働く事を決意する~おかしな魔王とおかしな部下と管理職~

申し訳ありません、更新停止中です。
夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~


― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……この気持ちをなんと表現するのだろう?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ