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ヨハンナさんが思わぬ主張をしました



「その帽子、似合っているんですから、自信を持っていいんですよ?」

「自信は……タクミさんがそう言って下さるので、いいのですけど。でも、やっぱり恥ずかしいですよ……タクミさんはどうなのでしょう?」

「俺は、もう慣れました。知っている人達しかいない今とは違って、街の人達から見られましたからね……ある意味、吹っ切れましたよ」

「それは……確かに慣れてしまいそうですね。私も、多くの人に見られたら慣れるのかしら……?」

「それは駄目ですよ、クレアお嬢様。このようなお姿を見せてしまうと、不届き者が増えかねません!」

「ヨハンナ……?」


 クレアさんが耳付き帽子に慣れる方法を考えて首を傾げていると、横に座っていたヨハンナさんから激しい主張。

 確かに、公爵家の令嬢とは思えない親しみやすさと気安さに加えて、帽子を被っている事で、さらにそれが増しているのはわかるから、不届き者が増えるというのはそうだと思うけど、急にどうしたんだろう……?


「クレアお嬢様のかわいらしい姿……私は以前からよく見ておりました。お嬢様が、コッソリ剣を持ち出して旦那様の真似事をしようとしていた時も……」

「ちょ、ちょっとヨハンナ? 落ち着いて?」

「落ち着いてなんていられません! あの時、重さに耐えかねて地面に打ち付けてしまい、手を痺れさせたり……私達に苦労をかけないよう、自分も旦那様のように強くなると仰っていた事は、今でも昨日の事のように思い出せます!」

「えっとね、ヨハンナ。もういいから、そのあたりで……」

「いいえ、クレアお嬢様のかわいらしさは、この程度ではありません! 走っていて転んだ時も、痛みを我慢して必死に強がっていましたし、自分に剣の才能……体を動かす事全般が不向きな事を理解して、悔し涙を浮かべていた時も、私はそっと見守っておりました! そんな健気でかわいらしいお嬢様を、多くの者達に見せてしまえば、良からぬことを考える者達が殺到するでしょう!」


 何がどうしてスイッチが入ったのか、急にクレアさんを称えるように熱く語り始めるヨハンナさんは、 拳を握りしめてまでの熱弁だ。

 ……クレアさんが、耳付き帽子を被ったままの姿で大衆の目に触れる……という想像からかな? 確かに似合っててかわいいと思うけど。

 俺もそうだが、横にいるクレアさんも急なヨハンナさんの変貌に、驚いていまいち止める事が出来ないでいる。

 というかクレアさんって、昔はそんな事をしていたのか……エッケンハルトさんの娘だし、好奇心旺盛なティルラちゃんを見ていると、妙に納得してしまうな。


「いえ……そこまでの事にはさすがに……というかヨハンナ? 私はまだ、諦めたわけではないわよ?」

「……え? あれで、ですか?」

「もちろんよ」

「あの、馬に駆け寄ろうとして、顔から地面に滑り込んでもですか?」

「当然よ」

「年齢の近い孤児院の子供達と駆けっこをして、いつも本を見ているような子にすら置いて行かれて、泣いてしまっても?」

「あ、あの時は、ちょっと体調が悪かったのよ……」

「泥団子を投げ合って、お互い受け止める遊びをした時は、顔で受け止めたのに……ですか?」

「……その時、ヨハンナはいなかったわよね? 誰から……あぁ、お父様が話しそうね……」

「えぇ、旦那様が楽しそうに話していました。あの時は、そんなかわいらしいお嬢様の護衛になれるよう、訓練を始めたばかりでしたが……」


 クレアさんの言葉で、ぴたりと動きを止めるヨハンナさん。

 これまで見てきたという、クレアさんが運動に向いていない場面を挙げながら、まだ諦めていない事に驚いている様子だ。

 それはともかくクレアさん、昔はそんな事をしていたんだなぁ……確かに、その場面を見れば頑張っている姿を見てかわいらしいと思うかもしれない。

 でも、森に入った時、最初はすぐに疲れてしまっていたけど、二度目の時はアンネさんを引っ張るくらいだったのに、運動は苦手なのか。


 エッケンハルトさんからの遺伝で、体力はあるんだろうな。

 体の動かし方や使い方が、いまいち上手くいかないだけで。


「そんな事より、どうしてヨハンナがいきなり怒り出すの?」

「いえ……クレアお嬢様が、今のようなかわいらしい姿を見せるのは、不届き者が増えそうで……」

「不届き者?」

「当然、何処の馬の骨ともわからない男達に決まっています! クレアお嬢様の可憐なお姿を見れば、どのような男でもイチコロですから!」


 ヨハンナさんの言い分は、クレアさんに近付く有象無象の男を警戒しての事らしい。

 ……気持ちはわかる……わかるんだけど……本来そういう事は、父親であるエッケンハルトさんが言いそうだろうになぁ。

 まぁ、あっちはお見合いの事があって、ある程度覚悟が決まってしまっていたから、ヨハンナさんのような事は言わないんだろうけど。

 クレアさんの事を、過保護気味に見ているヨハンナさんは、ずっと見守って来たお姉さんのような心境なのかもしれない……というのは俺の予想だ。


「はぁ……どういう事かと驚いたけれど、そんな事なのね? 心配ないわ、私にそういった事はないでしょうから。それに、公爵家の力を求める者達が、近付いて来るかもしれないというのは、既にわかっている事よ? だから、突然誰かが近付いてきても、問題ないわ」

「それは……近付いて来る者達は、私達護衛が対処してクレアお嬢様へ指一本触れさせませんが……」

「でしょう?」


 クレアさん、自分が美人という事には結構無頓着なのかな?

 アンネさん程とまではいかなくても、もう少し男が近寄って来る可能性に対して、自信を持っても良さそうなんだけど……。

 まぁ、美貌を誇らしげに自慢しているクレアさんは、想像できないしそれはもはや別人のように思えるな。

 あと、公爵家の力を求めるというのは、この世界でもあるようだ。


 権力を持つ者にすり寄り、自分のものにしたいと考える野心家とも言える人間は、何処にでもいるんだなぁ。

 クレアさんを始め、ヨハンナさんや公爵家の皆はわかっていて、権力を目的に近寄って来るような者は、歯牙にもかけないようだけど。

 問題ないと言うクレアさんからは、護衛さんや使用人さん達への信頼が窺えた――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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