お土産は耳付き帽子を買う事にしました
「セバスチャン、ラーレから降りてすぐに動けなかったんです! 軟弱です!」
「……ティルラお嬢様……申し訳ありません」
「あー……まぁ、まだ慣れていないみたいですから、仕方ないですよね……ははは」
「ワフ」
首を傾げている俺に、告げ口をするティルラちゃん。
街を迂回して東門に降りるだけだから、乗っている時間はそこまで多くないはずだが、それでも乗り物酔いに近い状態になってしまったんだろう。
ラーレが調子に乗ったとは思わないが……もしかすると体を斜めにしたり、急旋回のような動きをしたのかもな。
ラクトスを迂回するには、山か森の上空を飛ばないといけないしな。
バレてしまっては仕方がないと、謝って頭を下げるセバスチャンさん。
一応、街の中を歩いて顔色は良くなったようで、今は大丈夫そうだ。
疲労回復の薬草は渡したが、それで全て解決するわけじゃない……酔い止めの薬草とか、作ってみようかな?
「いらっしゃいませ! おぉ、これはタクミ様にティルラお嬢様。ようこそお越し下さいました!」
「ハルトンさん、お久しぶりです」
「お久しぶりです」
レオを触ろうと集まっていた人達に断り、ティルラちゃん達とハルトンさんの店の中へ。
ニコラさんや護衛さんが、外でレオを見ていてくれるついでに、集まりつつあった人達へ対応してくれるようだ。
とりあえず、あまり群がらずにゆっくり撫でるくらいにしておいてくれとは、伝えてあるから、あちらは大丈夫だろう。
店の中では、ハルトンさんが他の店員と話していたようで、入って来た俺達に気付いて迎えてくれる。
「リーザ様、その帽子を使ってくれているのですな、ありがとうございます」
「うん、とってもかわいいから!」
「お客様に喜ばれているのがわかるのは、いいものですな。それで、本日はどうされたので?」
「えっと、このリーザと同じ帽子って、ありますか?」
「はい、ございますよ。前回タクミ様方が来られてから、いくつか作っておきましたので」
ハルトンさんは、リーザが今も被っている帽子に気付いたようで、嬉しそうにしていた。
自分達が作って売った物が、しっかり使われて気に入られているというのがわかると、商売をする側としては嬉しいだろうな。
リーザから目を離し、俺やセバスチャンさんへと視線を向けて用件を聞かれる。
今日仕立て屋に来た理由は、リーザと同じ帽子。
この帽子、ランジ村の村長さんの孫、ロザリーちゃんが気に入っていたからな。
少し前に屋敷へ来た時、帰りに買っていただろうから、もしかすると村の子供達の間で評判になっているかもしれない。
その事もあって、ハルトンさんがいくつか作っているだろうと見込んでここに来た、というのもあるけども。
予想通りで良かった。
「ランジ村の子供達に、お土産として持って行きたいので……買わせて下さい」
「ほぉ、子供達に。わかりました、すぐに用意させます」
「あと……リーザの帽子が少しくたびれてきているので、修繕とかってできますか?」
「もちろん、すぐにできます」
「良かった。それじゃあ、お願いします。ほら、リーザ?」
「うん、よろしくお願いします!」
「はい、畏まりました。少々お待ち下さいね」
ランジ村の子供達は、レオと一緒に楽しそうに遊んでいたし、ロザリーちゃんが帽子を買ったのなら、それを羨ましく思っているかもしれない。
向こうに行って、リーザと友達になって欲しいし、ポイント稼ぎというかなんというか……皆で耳付き帽子を被るのも面白そうだと思った。
まぁ、一番の理由はそうする事で獣人のリーザとの間に、違いを少なくして無意識にでも差別する意識を減らそうという、浅はかな考えなんだが……。
尻尾はともかく、帽子で耳を同じような見た目にしたら、リーザが子供達の仲間入りするのも早くなるかな? と思っての事でもある。
……薬草畑を開始するのはまだ先の事だが、今のうちにやれる事はやっておきたいからな。
「わぁ、綺麗になったー!」
「よかったな、リーザ?」
「うん。ありがとうございます」
「いえいえ、大事に使って下さる事が、我々にとって何よりのご褒美でございます」
ハルトンさんに渡した、リーザの帽子はものの数分で綻びなどが直されて戻って来た。
洗濯したわけじゃないから、まだ汚れている部分はあるが、それでも先程までのくたびれた様子はなくなっていた……さすがだ。
帽子を見て喜び、頭に被って折り目正しくハルトンさんにお礼をするリーザ。
ちゃんと礼儀正しくお礼できたな、偉いぞ。
……両手を体の前で重ねて、深々とお辞儀するなんて教えていないが……多分ライラさんとかの所作を見て、覚えたんだろう。
お辞儀をすると尻尾が上に来るが、喜んでいるのを示すようにゆらゆらと揺れているのがかわいらしい。
「はい、ティルラちゃん」
「私にもですか?」
「うん。リーザの帽子、羨ましそうに見てたでしょ? 森でも頑張ったからね、ご褒美だ」
「タクミさんにはバレていました。森で頑張ったのは、私だけではないと思いますが……でも、ありがとうございます!」
「ティルラお姉ちゃん、お揃い!」
「そうですね、お揃いですねー」
ハルトンさんから、帽子が大量に入った袋を受け取り、中から一つ取り出してティルラちゃんへ。
リーザの帽子を見て、時折ロザリーちゃんと同じように羨ましそうにしていた事もあるし、森では頑張ってオークを倒していた。
確かに頑張ったのはティルラちゃんだけじゃないけど、小さいながら恐怖や緊張に打ち勝ったから特別にご褒美だ。
お礼を言いながら、俺から受け取った帽子を被り、リーザとお揃いになった事を嬉しそうにしながら顔を見合わせて喜ぶ二人。
うんうん、二人共楽しそうで何よりだ。
「パパも、お揃いになろー?」
「……え?」
「セバスチャンも、お揃いになるのです」
「……は?」
「「……」」
楽しそうにしていた二人、リーザが俺を見上げ、ティルラちゃんがセバスチャンを見上げて、示し合わせたように言い放った。
一瞬、何を言われたのか理解できなかった……。
俺やセバスチャンさんが、リーザやティルラちゃんのような、耳が付いた帽子を被ると……?
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