久しぶりにレオと鍛錬をしました
「ワウー、ワフワフー」
「あー、そうだな。久々にそれもいいかもしれないな」
「タクミさん、レオ様はなんと?」
抱き着いたリーザを鼻先でくすぐりながら、鳴くレオ。
最近はエッケンハルトさんがいたから、やらなくなっていた鍛錬をまたやりたいという事だ。
以前は、エッケンハルトさんの代わり……というわけでもないが、レオに剣を当てられるようにという鍛錬をやっていたからな。
俺一人で納得していてもいけないので、ティルラちゃんにも伝える。
レオにとって、あれは軽く運動をして遊ぶような感覚で、楽しかったんだろう。
久々に試してみるのもいいかもしれないな……実戦経験も積んだ事だし、あれからできるだけ怠らないように鍛錬をしてきた。
以前のように軽々と避けられたりは……森での活躍を見ていると、当てられる気はしないが……。
「パパとママ、喧嘩なの?」
「ははは、違うよリーザ。こう言うのも情けないけど、レオには絶対敵いそうにないからね……。それとは別に、レオへ剣を当てられるようなら、一人前以上だろうっていう鍛錬なんだ。エッケンハルトさんがいないから、代わりにレオが俺とティルラちゃんの事を見てくれるってわけだね」
「へぇ~、そうなんだー」
「ワフ!」
「タクミさん……私、オークを倒したりはできるようになりましたけど、全然レオ様に敵う気がしません……」
「まぁ、それは俺も同じだよ……」
勘違いをしているリーザに説明しつつ、自信のなさそうなティルラちゃんに同意する。
背中に乗っているリーザやクレアさんを、落とさないようにしながらも目では追えない程の速度で、オークを倒したりもしていたからな。
本当に敵う気は全くしない。
とはいえ、お試しの模擬戦のような事をエッケンハルトさんがした時は、何度か剣を当てていたから、絶対に当たらないというわけではないだろう。
……レオが手加減していたのは、俺だけでなくエッケンハルトさんもわかっていたようだけど。
とにかく、以前よりも成長しているのだと、余裕そうに、遊べると思って舌を出して楽しそうなレオに、掠るくらいでも剣を当てたいなぁ。
「面白そうだから、私もやる!」
「え……リーザもか?」
「うん。私もママと遊ぶの!」
「いや、これは鍛錬であって……遊びじゃないんだけどな……」
「ワフ、ワフ~」
「まぁ、レオがいいならいいのか」
体を動かすのが好きなリーザだから、鍛錬も遊びに思えるのかもしれない。
レオは気軽に大丈夫、と鼻歌を歌うかのように鳴いているから、まぁいいか。
もし剣やナイフが当たっても、レオは怪我をしないようだしな。
「それじゃ、皆でやろう」
「わーい!」
「はい、頑張ります!」
「ワフゥ~」
リーザも混じる事になり、レオと向かい合って三人で並ぶ。
エッケンハルトさんのように、一対一でやって当てたいところだが、力の差は歴然としているので、まずは三人同時だ。
まぁ、これもレオが気軽に大丈夫と許可したからなんだが……。
俺だけでなくティルラちゃんも成長しているし、リーザもいるんだ、余裕でいられるのも今のうちかもしれないぞ、レオ?
「そ、それでは……は、始め!」
「っ!」
「行きます!」
「ママー、行くよー!」
「ワウ!」
その場にいたのがゲルダさんだけだったので、慣れないだろうけどお願いして合図をしてもらい、俺とティルラちゃんとリーザの三人は、余裕を感じさせて立っているレオに向かって駆けだす。
やっぱり、こうして対峙するとよくわかるが、シルバーフェンリルの迫力は凄いな。
これで全然敵意を向けていないどころか、遊ぶだけのような感覚なんだから、本気で睨まれたらどうなるんだろう?
なんて、今までレオが倒してきた魔物や、抑えつけた人間の事を考えながら、木剣を振る。
「ワッフフ~」
「くっ! こなくそ!」
「当たって下さい!」
「ママ速ーい! それー!」
俺が剣を振り下ろし、ティルラちゃんが横に振る。
さらにリーザが速さを活かして、俺とティルラちゃんの攻撃を避けたレオに追撃をかける。
だが、それも難なく躱すレオの動きは、何をどうして当たらないのか見当も付かない程だ。
というより、唯一リーザだけが、レオの速さに付いて行っているような……?
「ワフ」
「はぁ……はぁ……くっ!」
「レオ様……はぁ……ふぅ……やっぱり当たりませんでした……はぁ……」
数分後、俺やティルラちゃんが息を切らして、いったん終了となる。
手加減はしていてもそれなりに動けたからか、上機嫌なまま、膝に手を付いて呼吸を整える俺の肩に、ポンと慰めるように右前足を乗せるのが悔しい。
結局、俺だけでなくティルラちゃんやリーザも、掠める事すらできなかった……。
動きが速いだけでなく、俺達がどう動くのかを予測して回避しているようで、とてもじゃないが当たる気配すら感じない。
予測は、鋭い感覚でなんとなくわかってしまうんだろうなぁ……エッケンハルトさんのように、鋭く速い動きを目指すか、それこそ搦め手を使わなければいけないんだろう。
はぁ……当てられる自信があったわけじゃないが、これだけ簡単に避けられると、もはや悔しさも沸かない。
いや、やっぱり悔しいな……相手がシルバーフェンリルで、人間が敵うような相手じゃないと分かっていても……。
「ママ凄い凄い! 全然当たらなかった! リーザ頑張ったのに!」
「ワフワフー」
全力で動いていたはずなのに、リーザは疲れたり息を切らせる様子もなく、手を上げて一度もナイフが当たらなかった事を喜んでいる。
レオの方は、お座りしながらも胸を張って誇らし気だ。
昨夜の情けない姿を見られたのを、少し気にしてたな?
今回、レオ自身の凄さを見せられて、威厳を取り戻した気になっているのかもしれないな。
「はぁふぅ……リーザちゃん、全然疲れてないんですね……?」
「うん、これくらいなら大丈夫!」
「そういえば、リーザはレオやシェリーに混じって、延々走っていたしてたなぁ」
息を整えながら、ティルラちゃんの質問に元気よく答えるリーザ。
その様子は、やせ我慢とか無理をしている様子は微塵もなく、本当に疲れを感じていないようだ。
レオに対してナイフを振っていた時、俺やティルラちゃんより素早く動いていたのに……もしかすると、リーザは俺達より強いのかもしれない――。
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