レオを思いっきり構ってやる事にしました
「ラーレはティルラの従魔になった。そのティルラも一緒に乗っているのだ、滅多な事はないはず。そして、経験は書物だけで知識を得るよりも勝る事が常だ……」
ティルラちゃんが乗っている以上、ラーレも無茶な事はしない……と思う、レオも見張っているから。
さらに、エッケンハルトさんが言っているのは「百聞は一見にしかず」ということわざにも通じる事だ。
経験という意味では、確かに得難い機会なのは間違いないな。
「旦那様の仰る事はわかります。そうですな……私も、書物ばかりで知識を得られるとも思っておりません」
「ほぉ?」
「……わかりました、ラーレに乗れるようであれば、私が乗りましょう」
「そうか、乗ってくれるか。ありがたい! ふっふっふ……」
「お父様、邪悪な笑いが漏れていますよ?」
「邪悪とは失礼な。セバスチャンが受けてくれた事を、喜んでいる笑いだぞ?」
「はぁ……まったく……」
「あはははは……」
結局、エッケンハルトさんの押しの強さに負けたセバスチャンさんは、ティルラちゃんと一緒にラ―レに乗る事を承諾してしまった。
まぁ、仕えている相手にあそこまで言われたら、断れないか。
もっとおかしな理由だったら、クレアさんが突っ込んだり、セバスチャンさんも断れたんだろうけどなぁ。
セバスチャンさんに承諾されて、ほくそ笑むエッケンハルトさんには、クレアさんから突っ込みが入ったけど……。
確かに今のは、邪悪と言われても無理はない表情だった……口の端が不自然に吊り上がっていたからな。
ともあれ、本当にラーレに乗るのは鞍が完成して取り付けてからとなり、夕食となる。
俺達が料理を頂いている間、言いくるめられた事で食堂の隅で肩を落とし、落ち込んでいるセバスチャンさんと、ポンポンと肩を叩いて慰めているゲルダさん、というシュールな光景の見られる食卓だった。
セバスチャンさんは失敗とは言えないが、ドジを踏んで失敗して落ち込む事の多いゲルダだから、なんとなく同情的な気分になったんだろう。
屋敷の周辺を少しだけとかならまだしも、ランジ村までの長距離を飛んで移動するなんて、飛行機もない世界ではある種の覚悟がいりそうだな……。
「レオ、もう少ししたらまた、ランジ村に行くけど……頼んだぞ?」
「ワウ!」
「ママー、頼んだ―」
「ワウー」
夕食後、薬酒だのダンデリーオン茶だのを飲んでティータイムも終わり、部屋へと戻って来た。
明日はエッケンハルトさんが出立する日なので、疲れを残さないよう夜の鍛錬はなし。
ゆっくり休む事になった。
あと、クレアさんは準備万端らしいけど、エッケンハルトさんの方はまだ少しだけ準備が残っているというのもあったか。
昼の鍛錬は、やる事を放り出してだったんだろうなぁ……昨日もそうだったし。
風呂から上がり、温まった体を休ませるようにベッドへ座りながら、レオへ声をかける。
森やラクトスへ行く時よりも、長距離の移動になるからな。
さらに今回は、ラーレの事も見ておかなきゃいけない。
前回ランジ村に行った時のレオは、特に疲れた様子を見せなかったから大丈夫だろうけど、一応な。
力強く頷くレオに、俺の真似をするリーザ。
ここ最近、リーザが俺の言った事を真似する事が増えたのは、それだけ心を許してくれている証だろう……かわいい。
ただ、子供にとって悪影響な事を言って真似されないように、普段の言動には気を付けておかないとな。
「タクミ様、リーザ様のお風呂を……」
「あ、はい。お願いします。――リーザ、行っておいで?」
「うん! ライラお姉さん、お願いします!」
「はい。今日もしっかり綺麗になりましょうね?」
ノックをして入って来たライラさんは、リーザのお風呂のお世話のため。
リーザに促すと、トテテ……と俺の隣からライラさんの前に移動し、手を後ろに伸ばしながら礼をした。
ペンギンみたいな礼の仕方だな……どこで覚えたんだろう?
微笑みながらリーザを連れて、風呂へと向かうライラさんを見送りながら、ふとした疑問。
俺はあんな礼をしたりしないし、誰かを真似しているわけでもないのか?
戻って来たら、礼の仕方を教えるべきか……と一瞬だけ悩んで止めた。
クレアさんやティルラちゃんにお願いした方が、女の子として正しい礼を教えてくれそうだったのと、可愛かったからな。
あの礼を人の集まっている所でやったら、かわいくて人気者になる事間違いなしだ。
「ワフ、ワフ」
「ん、どうしたレオ?」
リーザの事を考えていると、レオからの主張。
座っている俺の太ももに、前足の先を乗せているから、構って欲しいのかもしれない。
「ワフワフ」
尻尾をフリフリ、期待をしているような目で俺を見る。
そういえば、最近はリーザと一緒だったりした事もあって、レオの事をあまり構ってやれていなかったな。
リーザが風呂から上がるのもまだかかるだろうし、今のうちに遊んでやるのも悪くないな。
「よーしよし、レオ寂しかったかー?」
「ワフー。ワフワフ」
「そうか? 強がりは良くないぞ?」
前足の肉球を触りながら、寂しかったかと聞くと、心外だと言わんばかりに首を振って否定。
ただ、尻尾を振る速度が若干速くなったから、構ってもらえて喜んでいるのは間違いない。
わかりやすくて、ちょっと面白いな。
リーザもそうだが、レオやシェリーも、感情がダイレクトに尻尾に出るからなぁ、そこがかわいいとも言える。
アンネさんにも尻尾が付いていたら、もっとわかりやすかったのだろうか……いや、あの人はあの人で縦ロールがあるから、ある意味わかりやすいか。
「よーしレオ、森でも頑張ってくれたし、リーザやラーレ……フェンリル達も見てくれてたな。今日は思いっきり甘えていいぞー?」
「ワ、ワフ!? ワフ、ワウワウ……」
「はっはっは、そうは言っても尻尾の勢いが増しているぞ? あ、でも、もう少し押さえてくれると助かる。尻尾に当たると俺が弾き飛ばされそうだ……」
「ワゥ……」
ご褒美に、レオを甘えさせようとすると、そんな事をしたいわけじゃない! と口では言っているようだったが、尻尾は素直だった。
ただ、尻尾の勢いが凄すぎて、当たったら体ごと弾かれそうで少し怖い。
残像が見える程の速さで尻尾を振るって、どうなんだ……? それだけ喜んでいるという事なんだろうけど。
尻尾を動かし過ぎている事に気付いたレオは、肩ではなく鼻先を落として、尻尾の勢いを緩めてくれた――。
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