アンネさんは微復活したようでした
「これ、私が作ったのー。すごいでしょー!」
「ワフー」
「ふふふ、リーザちゃん頑張ったのね」
「リーザちゃん凄いですねー!」
用意している間に、クレアさんやティルラちゃん、アンネさんも裏庭に来てテーブルにつく。
リーザが嬉しそうに、レオの前に山盛りで積んであるハンバーグのいくつか……手が小さいために、他のよりも小さく作られたハンバーグを、皆に自慢していた。
クレアさんとティルラちゃんにレオは、リーザが頑張ったと褒めて微笑ましそうなんだが、アンネさんは静かだな。
「……アンネさん?」
「っ! ど、どうしたんですの、タクミさん? 何か私に言いたい事でも?」
「いえ、そういうわけじゃないんですが……」
いつもなら、レオはともかくシェリーやフェン達を見たり、料理に関して何か言ってもおかしくないのだが、黙っているのが不思議だなと思って声をかけた。
するとアンネさん、座っている体をビクッとさせ、一瞬で顔を真っ赤にさせてしまった。
うーん……これは、昨日の爆弾発言をまだ気にしているようだな。
クレアさんが言うには、今朝も恥ずかしさのあまり身悶えていたようだから、完全に吹っ切れたわけではなさそうだ。
よく見れば、いつもは綺麗に整っている縦ロールが乱れていた。
ベッドの上で転がって悶えたり……なんてやっていたのかもしれない。
やっぱりアンネさんは、縦ロールを見るのが一番調子がわかりやすいな。
まぁ、昼食には部屋を出て来てくれたようだから、あまり触れないでおこう。
「皆に行き渡ったか? それでは、タクミ殿……」
「ワフ」
俺達が持って来た料理の他にも、ヘレーナさん達が追加で運んで来た料理が、皆の前に配膳された事を確認し、ソワソワした様子を隠せないエッケンハルトさん。
同じくソワソワして早く食べたそうにしているレオと共に、促された。
主導して料理を作ったのは俺だから、まずは説明を……という事らしい。
とはいえ、ここで長々と説明しても冷めてしまうしな、トロトロで挟まれている具材の間から垂れそうになっていたチーズも、そろそろ固まってきているみたいだし。
とりあえずさっさと食べられるようにするから、涎はしまっておこうなレオ?
「はい。えーと、クレアさん達の前にあるのはハンバーガーと言って、焼いた肉などの具材をパンで挟んだ物です。レオやラーレ、シェリーの前にあるのは、ハンバーグです。ハンバーガーの中にも入っていますが、ソーセージに使う肉を捏ねて焼いたものです。まぁ、説明を長々とするのもいけないので、冷めないうちに食べて下さい。続きは、食べながらでいいでしょうから」
「……うむ、そうだな。では、頂こう」
「はい。タクミさん、頂きますね」
「タクミさん、ありがとうございます!」
「頂きますわ……」
「ワフーワフー!」
「パパ、作ってくれてありがとー!」
「はい、どうぞ。――リーザは手伝ってくれて、一緒に作っただろ? ありがとうな、俺も頂くよ……頂きます」
「えへへー! 私も食べるー!」
簡単に料理の呼び名とかを説明し、冷めないうちにと促す。
エッケンハルトさんが合図を行うように言い、それぞれからお礼を言われた。
アンネさんだけは、昨日の事が尾を引いているせいで、言葉は少なかったが、軽く会釈のように頭を下げられたので、感謝されていないという事ではなさそうだ。
まぁ、感謝されるためとかではなく、皆が(特にレオだが)喜んでくれれば、それが一番だ。
手伝ってくれたリーザに感謝を伝えつつ、俺も食べ始めるため、ハンバーガーへと手を伸ばした。
「んぐ……やっぱり、同じ味とは言えないけど……こっちもこっちで美味しいなぁ」
ハンバーガーに使われている食材がそもそも違うのだから、味が違うのは当然だろう。
でも、近い味だし、なんとなく懐かしい気分。
オークの肉だけでなく、合い挽き肉にはいい肉が使われていたためか、むしろ俺が覚えている懐かしい味よりも、高級感があるくらいだ。
これは俺が作ったのとは関係なく、ヘレーナさんが選んだ食材の質がいいためだろう。
貴族家の食事に使う食材だし、プロの料理人さんが選んで使う食材なのだから、質がいいのも当たり前か。
「美味しいよ、パパ!」
「リーザが頑張って手伝ってくれたおかげだな」
「ガフ! ガフ!」
俺とほぼ同時に、大きなハンバーガーを口いっぱいに頬張ったリーザと、笑い合う。
レオは感想を言うどころではなく、がつがつと食べる事に夢中になっているので、お気に召したようだな。
不味いとか言われなくて良かった……。
少しハンバーグを大きく作り過ぎたかなと思いつつ、大きめのパンと一緒に具材に齧り付いて堪能していると、なぜか手を止めて俺の様子を窺っている人が二人……いや、三人か。
「えっと……どうかしましたか?」
「いえ、その……あまりそんな風に食べた事がなくて……」
ハンバーガーに手を付けていないので、どうしたのかと思って聞いてみると、どうやら手づかみで食べる食事には慣れていない様子。
クレアさんの言葉に、アンネさんが頷いている。
貴族のお嬢さんだから、手で掴んで食べるという事をあまりした事がないのかもなぁ……そういえば、いつも食卓に出て来るパンは、一口サイズだったし、大きければナイフとフォークを使って切り分けて食べてたっけか。
ティルラちゃんは、俺の真似をして食べてもいいのかどうか、クレアさんの様子もうかがっている様子だから、こちらは慣れていないというより、怒られないかを気にしているみたいだが。
「なんふぁ? たふぇなふぃのふぁ?」
「お父様……せめてちゃんと飲み込んでから、話して下さい……」
「ん……んぐ! なんだ、食べないのか?」
「いえ……食べたくはあるのですけれど……」
「公爵様のように、吹っ切れませんわ」
クレアさん達の様子を不思議に思ったエッケンハルトさんは、ハンバーガーを食べてモグモグしながら俺と同じように聞いたのだけど……物が入っているせいで上手く喋れてない。
当然クレアさんには注意されたけど、本人はあまり気にしていないみたいだ。
それだけ夢中になって食べてくれて嬉しい。
エッケンハルトさんの方は、クレアさん達と違って手で掴んで食べるという事を気にした風はなく、むしろ両手にそれぞれハンバーガーを持って食べていた――。
豪快だなぁ……大雑把な人なのはすでによく知っている事だけど、そこまでしなくとも料理は逃げないのに……。
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