リーザにも手伝ってもらいました
「すみません、卵はありますか?」
「はい。……どうぞ」
「ありがとうございます。おぉ、見た事があるというか、知っているそのままの物だ……」
「タクミ様?」
「あぁ、すみません。では、この卵をこの中に入れて……っと」
「殻はこちらに」
大豆やこんにゃくのように、呼び名が違う可能性もあったが、とりあえず卵と言って聞いてみると、俺が知っている形そのままの物を料理人さんが取り出した。
若干大きいような気もするが、ニワトリの卵だって大きさに多少の違いはあったからな。
白い楕円形のよく見た卵を片手で割り、中身を器に入れて殻入れを持って来てくれた器に……卵の中身もよく知っている物だ。
「こねこねこね……と……よし、まとまって来たかな?」
「パパ、リーザ手伝うよー?」
「ちょっと待っててくれー。もう少しで、リーザが手伝えるようになるからな?」
「うん、わかったー。ワクワク……」
卵を入れた後は、まとまりが出るまでひたすら捏ねる。
俺の手伝いをしようと意気込んでいたリーザは、すこし痺れを切らしているようだが、俺の言葉に素直に頷いた。
ワクワクと口で言いながら、尻尾をフリフリしている……可愛い。
「よーし、できた。……ヘレーナさん」
「はい、なんでしょう」
「これと同じ物を……そうですね、できるだけ多く作ってもらえますか? 食べる人が多いので……レオやフェンリル達もいますし」
「ラーレもー!」
「そうだな、ラーレも一緒だ」
「畏まりました。やりますよー」
「「「はい!!」」」
ヘレーナさんに頼んで、俺が見本を見せた通りの物を作ってもらう。
俺が今作ったのは、大体ニ、三人分くらいしかないため、屋敷の人達だけで考えても足らないからな。
エッケンハルトさんやレオという、大量に食べるのがいるので、多く作ってもらうようお願いする。
特にレオやフェンリル達は、今お腹を空かせるように運動中だから、いつもより食べそうだしな……。
リーザの言葉に同意しつつ、大量に用意する必要があるとわかったヘレーナさんが、他の料理人さん達に声をかけて作業を開始する。
複数の大人が集まって、器に入った合い挽き肉を捏ねる姿は、多少シュールにも感じたが……飲食店とかではよく見られる光景なのかもしれない。
「それじゃ、次はリーザに手伝ってもらおう」
「やったー、パパのお手伝い!」
女の子って、こんなに手伝いをしたがるものなのかな?
とはいえ、楽しそうに手伝いをしてくれるリーザはとても微笑ましい。
思わず頭を撫でたくなったが、今は肉を捏ねた後なのでリーザの髪を汚してはいけないと、我慢する。
……ライラさんとかが、最初の頃レオを撫でたそうにして我慢してたのって、こんな気持ちなのかな……微妙に違うか。
ちなみに捏ねる時もこれからも、できるだけ冷えた状態にしておいた方がいいので、氷水……は冷たすぎるからとりあえず水を用意してもらって、手を冷やしている。
リーザにも同じように水に手を浸けて、低めの温度で形を作るようにしてもらった。
氷水にしなくて良かった、リーザの手を必要以上に冷やすのは気が引けるからな。
「リーザ、こうやって手の平くらいの大きさ程度、捏ねた肉を取るんだ。それからこうして……右手と左手の間を行ったり来たりさせるんだ」
「えーと……こう、かな?」
「んー、もう少し小さくてもいいかな?」
「うん! なんだか変な感触ー」
リーザに見本を見せるようにしながら、捏ねた合い挽き肉から手の平に収まる程度の塊を取り、左右の手を行き来させながら、徐々に形を作っていく。
初めてのリーザは、俺のを見て同じような量をと思ったんだろう、小さな手には余るほどの肉を取っていたので、少しだけ減らす。
こういう物の手作りって、作る人によって大きさとか形が微妙に違うのが、醍醐味でもあるよな。
全部同一の大きさや形というのは、プロの料理人に任せればいい。
俺を見習って、左右の手を往復させながら空気を抜いて形を作っていくリーザは、捏ねた合い挽き肉の感触に不思議そうにしていた。
挽き肉なんて、料理でもしないとそうそう触る事もないだろうし、初めての感触ながら楽しそうにするリーザは微笑ましいな。
「最後に、ちゃんと平らになっているかを確認して……そうしないと、焼く時に火の通りが変わってくるからな」
「うん。えーと……大丈夫!」
「大丈夫そうだな。それから最後に……これが美味しくするための秘訣だ!」
「おー! パパの少しへこんでるー!」
「ふっふっふ、これが俺の編み出した調理法! すごいだろう?」
「すごいすごいー! パパすごーい!」
「そうだろう、そうだろう」
うーん、あまりにもリーザが素直に褒めてくれるもんだから、調子に乗ってしまった。
料理を全く知らなくて、見た目通り幼いリーザだから、初めて見る物は全て新鮮で凄いと感じるんだろう。
実際には特に難しい事もなく、指で押してへこませただけなんだけどな。
これだけ褒められたら、料理に目覚めてしまいそうだ……というのは調子に乗り過ぎか。
「よーし、リーザにもこの技を伝授しよう」
「伝授―!」
「こうして平らになった肉の塊に、この指で少しだけ押してやるんだ。そうすると……」
「へこんだ―!」
「これでリーザも、この技を使えるようになったな! ほら、もう一回やってみるか?」
「うん! パパから教えてもらった技―! 手に取ってー、パチパチお手ての間を行ったり来たりー、平らになったら指で押すー!」
「おぉ、上手いぞー」
リーザは成型の仕方を一度教えただけで、もう全部覚えたようだ……子供の吸収力って凄いな。
まぁ、簡単な作業だからというのもあるだろうが。
なんというか、子供番組のお兄さんになった気分で、自然と頬が緩んでしまう。
お兄さんだぞ、決してオジサンではない。
そうして、リーザに手伝ってもらいながら、ヘレーナさん達が次々と捏ねて作る合い挽き肉を使って、成型して行く。
俺の作った物よりもリーザの作った物は小さめだが、これはこれでかわいくて良さそうだ。
そもそもに、手の大きさが違うのだから、大きさが違うのは仕方ないしこれも個性だろう。
俺とリーザが協力して作っている物……楕円形で平ら、真ん中に少しだけへこみがある状態にして、あとは焼くだけ。
ここまでしたら、俺が何の料理を作ろうとしているか、わかる人にはわかるだろう。
多くの場合、玉ねぎを使う事も多いだろうが、元が犬のレオも食べるため、今回は使わないようにした。
シルバーフェンリルだから、犬と違って大丈夫なのかもしれないが、念のため。
それに、玉ねぎがそのままの呼び名であるかもわからないしな――。
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