大豆を使う事を提案しました
「味付けですか? ソーイに味付けを?」
「いえ、そのまま食べられなくもないですけど、味を付けた方が美味しいでしょう?」
「……ふむ、成る程。確かにそうかもしれません。タクミ様に言われるまで、食べた事のある味気ないソーイの事しか浮かびませんでした……」
「ただ炒っただけ……熱しただけでは、さすがに美味しいとは言えないでしょうね……」
好きな人は好きな味かもしれないが、俺としては味付けをしてくれた方が好みだ。
「ソーイ……タクミ様が仰られるなら、素晴らしい食材なのでしょう。確か、国の偉い人が発見し、作物として利用し始めた……という物だったと思います。さすがタクミ様ですな、初めて発見した方と同じような慧眼を持っておられる!」
「いや……そこまで持ち上げられても困りますけど……」
国の偉い人かぁ……もしかしたらその人、俺と同じく日本から来て大豆の事を知っていたから、作物にしようと考えた……とかかな?
俺以外に日本や異世界から来た人なんて、いるかどうかわからないが。
ともあれ、実は大豆と言い出したのは一つ理由がある。
それは、ラクトスの屋台で食べたうどんもどきだ。
麺はともかく、あれには微かにだが醤油の味がしたような気がする。
醤油と言えば大豆から作り出される、日本人が作った素晴らしい調味料だ。
もし本当に微かに感じた味が、本当に醤油が使われていたのだとしたら、大豆があるのは間違いないからな。
……まぁ、掛け声のような呼び名だとは思わなかったが。
「しかしソーイがあったとしても、それが太らない食材なのでしょうか?」
「んー、そこまで詳しいとは言えないんですけど……大豆……じゃない、ソーイには食物繊維が豊富に含まれていて、他の栄養も豊富な食材らしいです」
「食物繊維……とはなんですか?」
「えっと……体の余分な物を排泄するための栄養価……ですかね? えっと……」
食物繊維という単語は、ヘレーナさんも初めて聞いた事らしい。
説明しようにも、栄養素について詳しくないから、どう説明したらいいのかわからないな。
とりあえず、排泄する事に対していい働きをする事を説明し、食べ過ぎは逆効果だけど適量ならば体にも良くて、万能とも言える食材だと力説しておいた。
……もう少し、食に関する知識を勉強していれば良かったなぁ、と今更ながらに思う。
「つまり、体に良く、腹持ちも良いので食べ過ぎて太る心配は少ない、という事ですね?」
「まぁ、そんな感じですね。とはいえ、なんにしても食べすぎてしまえば太ってしまいます。なので、太りにくい食材を使って、ヘルシーな料理を作るのがいいかと……」
「ヘルシー? よくわかりませんが、そうですね……タクミ様の仰る通り、太りにくい食材というのもあるのでしょう。そういった物を探して料理に生かしてみたいと思います。ご助言、ありがとうございます!」
「いえいえ、ぼんやりした知識なので、はっきりした事は言えませんでしたけど……」
「いいえ! 料理ではなく食材そのものに目を向ける、という観点は私達にはあまりないものでした。それだけでも、タクミ殿に相談させて頂いた価値があると思っています! もちろん、今までも食材の良し悪しというのは見てはいましたけど、食材の持っている味以外の部分にも、注目すべきでした」
ダイエットに適していると言っても、食べ過ぎれば太るのは当然の事。
ただ、太りにくい食材という事なら、ソーイは適していると言えるだろう。
この世界ではまだ、食材の栄養価に注目する意識がなく、味に関する追求ばかりのようだ。
美味しければそれでいい……というのはわからなくもないが、栄養の方も気にしないと健康にはなれないからな。
一応、体の調子を整えるように色んな食材を使ったりするくらいか。
「あ、そうだ。ソーイとは別に、タンポポ茶というのもいいかもしれません」
「タンポポ茶、ですか? それはどのような……?」
「タンポポという植物の根で、お茶を作って飲む……それだけの物ですね。一応、体に良い作用があるので……」
ふと思い浮かんだ物、タンポポ茶だが……コーヒーの方を提案した方が良かったかもしれない。
ここの屋敷で出されるお茶は、紅茶のような香りと味わいで、十分に美味しいんだが、たまには違う物をと考えての提案だ。
まぁ、コーヒーの場合は豆の厳選やらブレンド、焙煎の方法とかで味や効能が変わってしまうから、タンポポ茶の方がわかりやすいだろうと思う。
カフェインを含まないので、副作用というか、悪影響がかなり少ない飲み物だしな。
「植物の根……それこそ、ソーイに火を通さず食べるような、毒はないのですか?」
「タンポポには毒はないはずですよ。……そうですね、多分これは作物として作られている物ではないと思うので、後でちょっと作ってみます」
「後で作ってみる、とは?」
「『雑草栽培』ですよ。雑草として分類されて人の手が入っているような物でなければ、作れるはずですから。……もし作れなかったら、諦めるしかありませんけど」
「タクミ様の能力ですね。作物ではないという事は、まだ未発見とも言える物。そこから新しく食せる物まで作ってしまうとは……」
「できるかは、試してみないとわかりませんが……雑草と言われていても、薬草以外に有用な物ってのは、あると思いますよ」
確か、タンポポはそれそのものに毒性はなく、花まで食べられる物だったはず
食べ方はしっかり調理をしないと、味は良くなかったはずだが、ソーイと同じく体に良い物なのは間違いないはずだ……きっと。
ソーイの方は作物として栽培されているようなので、『雑草栽培』では作れないだろうが、タンポポの方は作れると思う。
もしかしたら、ソーイのように違う呼び名で既に存在している可能性はあるが、作物として栽培はされてなさそうだ。
薬草以外の物を作ってギフトを活用するのは、初めての事だが……こういう使い方もありだろう。
薬草を作るだけの能力なら、薬草栽培というギフト名でいいだろうしな。
雑草……分類としては曖昧だが、それでも有用となる植物は探せば多くあるだろう。
薬草だけでなく、ギフトの使用法として新しい方向性も模索するべきだな――。
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