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618/1996

なぜか見慣れた魔物がいました



「今朝は、ティルラがはしゃいでいましたからね。楽しそうなのはいい事ですが……きっと、昨日レオ様をお風呂に入れて、ラーレとももっと一緒にいたいと思ったのでしょう」

「姉様、それは内緒です!」

「あら、そうだったかしら……?」

「……私なんて、寝ている体に飛び乗ってきたからな。ある意味、ご褒美とも言えるが……ワインを飲み過ぎた翌日の朝としては、中々辛いぞ」

「あははは……まぁ、それはそうでしょうね……」


 どうやら、ラーレに朝の挨拶をしたティルラちゃんが、外で朝食を頂くというのを考えたらしい。

 ラーレと一緒にいられると、嬉しくてはしゃいでしまったんだろうな……その時の様子が頭に浮かんで笑みが漏れる。

 ただ、エッケンハルトさんの方は、二日酔いの朝に突撃されて散々だったらしい。

 ご褒美というのは、娘に飛びつかれて父親として嬉しい……という方向で解釈しておこうと思う。

 決して、我々の世界では……というわけではないと思いたい。


「まぁ、ティルラちゃんが嬉しそうだから、外で食べるのはいいんですけど……えっと……」

「あれの事ですね……?」

「あれだな……」


 すぐ横にラーレがいる事で、ニコニコしているティルラちゃんは構わない。

 楽しそうにしている子供を見るのは、朗らかな気持ちになれるものだしな。

 それはともかく、俺は裏庭の一角に視線を投げかけつつ、どう言おうかと悩む。

 俺の視線を追うように、クレアさんとエッケンハルトさんもそちらへと顔を向けた。


「……どうして、ここにフェンとリルルがいるんでしょうか? 森の中で別れたはずですけど……」

「うむ……セバスチャン、説明してくれ。私達は一応、タクミ殿が来るまでに聞いたがな」

「畏まりました。えー、夜が明けた頃の事です。屋敷を警備している兵士から、緊急の報告がありましてな? フェンリルが二体、屋敷の門の前に座っている……と」

「門の前にですか?」


 意を決して、疑問を口にする。

 俺達の視線の先では、森で別れたはずのフェンとリルルが、お腹を出して転がっており、使用人さん達に撫でられている。

 その姿は、魔物だとかフェンリルだとか、野生やらを一切感じない……いや、かわいいけど。

 俺達が裏庭に来る前に、エッケンハルトさんは説明を受けたらしいが、ちゃんと俺にも説明してくれるようで、促されたセバスチャンさんは目を輝かせながら、話し始めた。

 朝一で説明できる機会を得るとは……今日はセバスチャンさんにとって、良い一日と言えるのかもしれない。


「はい。門の前で、座っていたのです。報告を受けて私も駆け付けましたが……今のレオ様のような格好でしたな」

「ワフ?」


 俺の隣でお座りして、行儀よく食事の開始を待っているレオ。

 皆の注目を浴びて、首を傾げているがその口からは涎が垂れてしまいそうになっていた。

 今日も美味しそうな料理が目の前にあるからな、仕方ない。


「レオ様申し訳ございません。食べながらに致しましょう」

「そうですね」

「レオ様も待ちきれないようだからな。では、頂くとしよう」

「はい」

「キィー!」

「キャゥ!」

「ワウー!」


 今すぐにでも、食べたそうなレオに気付いたセバスチャンさんが促し、食事を始める俺達。

 人間側はまだしも、レオだけでなくラーレやシェリーも待ち遠しかったらしく、嬉しそうな声を上げてすぐに食べ始めた。

 ラーレは昨日肉が好きだと聞いた通りに、調理された肉をついばむようにして食べている

 猛禽類だから、もっとがっついて食べるかと思ったが、違ったらしい……森の中でもそうだったが、大きな鳥が肉を食べるというのは、それでもやっぱり迫力があるな。


「では、話の続きを……フェンとリルルが門の前で座っているところでしたな。幸い、屋敷の者達には森での事を話していたので、フェンリルを見ても慌てて攻撃をするような事はありませんでした。ただ、初めて見た者も多く、多少の混乱はありましたな」

「それはそうでしょうね……」

「手を出して反撃していたら、今頃屋敷は無事ではなかっただろうなぁ……」

「がつがつがつ……! バフ!」

「レオ、行儀が悪いから、食べるのに集中しなさい」

「ガフ!」


 フェンとリルルは、こちらが敵意を示さなければ攻撃しないと約束してくれたから、おとなしくお座りしていたらしい。

 それでも、思わず攻撃したりしないだけ、この屋敷の兵士さん達は褒めるべきだろうと思う。

 まぁ、日頃さらに大きなシルバーフェンリルのレオを見ているから、というのが大きい気がするが。

 それでも、突然門の前にフェンリルが二体いたのだから、混乱するのも仕方ないだろうなぁ。


 がつがつと料理を食べながら、口に物が入ったまま、その時はお仕置きする! とでも言って、エッケンハルトさんに答えるように吠えるレオ。

 さすがにそれは影響が大きそうだし、フェンやリルルがかわいそうな事になるだろうから、実際に起こらなくて良かったと思いつつ、注意をする。


「まぁ、手を出せなかった理由は、それだけでなく……オークを口に咥えていたから、というのも大きかったようです」

「オークを?」

「はい。なんでも……」


 朝食を頂きながら、フェンやリルルがここにいる理由を、セバスチャンさんに説明される。

 フェンやリルルは、獲物を獲ってきた猟犬のように、オークを口に咥えて持って来たらしい。

 セバスチャンを見たフェン達は、それを差し出すように置いて、さらにお腹を鳴らした……との事だ。

 お腹が空いているのなら、目の前にあるオークを食べれば……と考えたセバスチャンさんだが、そう伝えても二体が口を付ける事はなかったらしい。


 その後、少し時間をおいてクレアさんとシェリーが起き出してくる。

 フェンとリルルの事を伝え、シェリーに通訳してもらったところ、調理したオーク肉が食べたいという事だった。

 もしかしなくとも、森の中でライラさんが調理した料理の味が忘れられなくて、この屋敷まで食べに来たらしい。

 ちなみに屋敷の位置は、俺達が帰りに通った場所の残り香を追う事と、レオやラーレの大きな気配のようなものを追って、簡単に見つけられたと。

 そのあたりは、フェンリルだからそれくらい簡単だろうと納得しておいた。


 なんというか、お腹を空かせている野良犬に、餌を上げたら延々と付いて来るようになってしまった……とかそういう気分だな。

 結局のところ、せっかく来たのだからという事と、ティルラちゃんがタイミング良くラーレと外で一緒に食事を、という提案もあって、裏庭へ連れて来て今に至る……となったみたいだ。

 使用人さん達に慣れさせるために、代わるがわる挨拶させていたらしいのだが、ここでも森の中で味を占めた二体が、お腹を撫でろと言わんばかりに、仰向けに転がったと……それでいいのか野生――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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