公爵家のお気に入りになっていたようでした
結局のところ、当主になるかどうかは血が繋がっていれば大丈夫で、現当主が次代の当主を指名すると。
それなら、もしかしてティルラちゃんへと急に次期当主の重圧が……とも思ったが、それも決まっているわけではないらしい。
クレアさんとの子供……と考えるのは気恥ずかしいし、気が早いが、それならティルラちゃんの事を気にし過ぎなくてもいいのか……実際にどうなるかはともかくな。
「バースラーの方は、既に決めているようだが、あちらは娘一人しかおらんからな。早めに決めておくに越した事はなかったんだろう」
アンネさんは一人っ子だから、嫁に出る云々よりも先に決められてしまったんだろう。
エッケンハルトさん達公爵家の人々とは違って、貴族の特権階級意識が強そうだから、嫁に出すとかではなく婿入りしか考えていない……とかもありそうだ。
「タクミ殿がアンネリーゼのところへ行くのは、避けねばならんからな……」
「え、何かあるんですか……? アンネさんに」
「いや……その……」
俺がアンネさんと一緒になる……というのはエッケンハルトさんにとって避けたい事態らしい。
アンネさんから結婚の申し出と言える言葉は受けているが、それは一方的なものなんだけど……。
いや、やっぱり俺も男だし、アンネさんも美人だから嬉しくないわけじゃないけどな?
それでも、それだけで申し出を受けるというのは、誠実さに欠ける。
軽い気持ちで結婚の申し出を受けるなんて、後々俺もアンネさんも両方不幸になるかもしれないしな。
……絶対とは言えないが。
「言いにくそうですけど、何か問題があるんですか? まぁ、伯爵家はこれから大変でしょうけど」
「そういう事ではなくてだな……うぅむ……」
「タクミ様、旦那様はタクミ様が離れるのが嫌なのですよ。ほっほっほ……」
「セバスチャン!」
「離れるのが嫌って……俺、男性を好きになるような趣味はしていませんよ?」
「それはわかっている! 私だって、男性を……とは考えたりはしないぞ!」
「でも、セバスチャンさんが離れるのが……って……」
口ごもっているエッケンハルトさんを見て、業を煮やしたのかなんなのか、セバスチャンさんが代わりに教えてくれる。
でも離れるのが嫌って言われてもな……いい年したオジサンに、そんな事を思われていても対処に困る。
そういう趣味というか、考えを否定するわけじゃないが、俺は女性が好きだから……というと、女好きのように聞こえて微妙だが。
とりあえず、慌てて否定しているエッケンハルトさんと比べて、セバスチャンさんの楽しそうな表情……。
夕食後の混乱といい、ほんとこういう話が好きだな。
「……レオ様がアンネリーゼの所へ行くのは、公爵家として問題にならないわけがないだろう? その、初代当主様から続くシルバーフェンリルの伝説も含めてな」
「あー、公爵家から、伯爵家にシルバーフェンリルが鞍替えした様に見える……とかですか?」
「そのようなものだ……うむ……」
初代当主様は、シルバーフェンリルと対等に接していたという伝説。
シルバーフェンリルの助けで、公爵という地位を授かる程の功績を残したとかだったか。
敬うのが義務……というのもあったな。
公爵家の成り立ちにも関わっていて、家紋を象ったレリーフにまでなっているくらいだし、俺に付いてレオが伯爵家に行ってしまうと、口さがない人達はシルバーフェンリルが公爵家を見限ったとか、妙な噂をし始めそうではある。
国の紋章にもなっているから、公爵家とシルバーフェンリルの関係だとか、重要性を知っている人は他にもいるんだろうし。
だけどなぁ……なんとなく、エッケンハルトさんの言い方に少々違和感がある気がした。
どちらかというと、自信がある物言いをするのがエッケンハルトさんなのに、今はそれが感じられない。
しかも若干目が泳いでいるし……嘘ではないんだろうけど……。
「で……」
「む?」
「……本音は?」
「バレバレですよ旦那様?」
「くっ! やはりワインを飲み過ぎたか!」
「いや……お酒のせいにされても……」
「旦那様は嘘が付けない性分ですからな。そこが、領民からも好かれるところでもあるのですが……本邸の執事達はフォローが大変です……」
俺とセバスチャンさんの追撃で、ロゼワインのせいにするエッケンハルトさん。
セバスチャンさんは肩を竦めながら、溜め息を吐くように言っている。
お酒のせいでもなんでもなく、ただエッケンハルトさんが嘘を吐けない性格なだけなのは明白だからなぁ。
長いとは言えないが、これまでの付き合いでそれくらいはわかるつもりだ。
表面を取り繕ったりしないのは、俺にとっては好ましく思えるが、貴族とか上流階級の付き合いとかでは大変だろうなと思う。
商売でも、嘘とまでは行かないが、そういった事が重要になったりもするだろうし……本邸にいる人達は確かに大変かも……。
でも、そういうエッケンハルトさんだからこそ、周囲の人物達が従ってくれるんだろうし、悪い事ではないかな。
「……はぁ……その、だな? 私と対等に話ができる者、というのが久しくいなくてな? もちろん、先程言ったレオ様がというのも嘘ではないのだ。だが……やはりな……領内であるならまだしも、伯爵家となれば、話す機会がなくなってしまうだろうからな……うむ……」
「タクミ様、私の言った通りでございましたでしょう?」
「ははは、そうですね」
「うん? タクミ殿、セバスチャンと何を話していたのだ?」
「いえいえ、他愛もない事ですよ。気にしないで下さい」
「むぅ……」
照れ隠しなのか、俺から顔を反らして話すエッケンハルトさん。
女性同士だとわからないが、男同士で面と向かってはっきり言うのは照れ臭いのはよくわかる。
セバスチャンさんが朗らかな笑みで、焚き火を前に話した事の確認をするように言い、思わず笑って納得した。
対等、というと俺は一応公爵家の当主様と思って話していたが、エッケンハルトさんにとってはそうではなかったんだろう
まぁ、敬語を使うくらいで、貴族相手にしては失礼な事を言ったりやったりしていた、というのは間違いないだろうしな……俺、上流階級に対するマナーとかわからないしなぁ――。
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