父親としての質問をされました
「さて……タクミ殿……」
「……はい」
グラスに注がれていくロゼワインを見ながら、真剣な表情……というより深刻にも見える表情で語り掛けるエッケンハルトさん。
食堂の空気そのものが少し重くなったようにも感じて、警戒しながら頷く俺。
……何が始まるんだ?
「……」
「……」
「ク……」
「……ク?」
「クレアとの仲を、どうするつもりなのだ、タクミ殿ぉ!?」
「うぇ!?」
「ワフ!?」
少しの沈黙の後、口を開くエッケンハルトさん。
深刻で重い空気の中、いきなり叫んだ言葉に、驚くしかできなかった。
えっと……クレアさんの話なのか、これ?
一緒にレオも驚いていた……そりゃ、いきなりクレアさんの名前を出して叫んだら、驚くよなぁ。
「んんっ! 旦那様……?」
「む……取り乱してしまったか、すまないな」
「いえ……」
「ワフゥ……」
セバスチャンさんがわざとらしく咳ばらいをし、声をかけられてハッとなったエッケンハルトさんはすぐに謝ってくれた。
急に叫ぶなんて、結構酔っているのかな? と思わなくもないが、多分クレアさんに関係する話だからだろう。
レオは、なんだその話か……とでも言うように鳴きながら溜め息を吐いていた。
「ふぅ……ん……それでだな、タクミ殿」
「はい」
一度落ち着くために、またグラスを煽るエッケンハルトさん。
それはいいんだが、ちょっとペース早すぎないかな?
何も言わず、また追加を注いでいるセバスチャンさんを見るに、大丈夫だとは思うんだけど。
「クレアの事だが……タクミ殿はどうするつもりなのだ?」
「えっと、どうすると言われても……。とりあえず、ランジ村での薬草畑は一緒にやる事になっていますけど……」
「それは問題ない。私も許可を出したしな。タクミ殿の考えは良いな……貴族家の者が雇われるわけではなく、共に運営する事で管理や監視しているようにも見せられるからな。いや、そうではなくてだな……」
「まぁ、その場の思い付きでもあったんですけど……他に何かあるんですか?」
「あれだ、あれ……その……クレアとだな? 悪くない雰囲気になっているところだ」
「……あー……えっと……」
クレアさんの事だから、薬草畑の事かと思ったが違ったみたいだ。
やたら歯切れ悪くしゃべるエッケンハルトさんは、俺とクレアさんの距離感というか、単純に男女の関係としてどうなのかを聞きたいらしい。
勢い込んで叫んでしまったり、ロゼワインを飲むペースが速いのは、気を紛らわせようとしているからかもしれないな。
「もちろん、クレアの気持ちも大事なのだから、タクミ殿一人に聞いても仕方ない事だとは思っている。もしそれで、二人がそういう方向を目指す事を選んだのであれば、私も当然見守るつもりだ。だが、少々じれったくてなぁ……」
「旦那様は、早く孫の顔が見たいと仰っています」
「孫!?」
「セバスチャン! そうは言ってないだろう!?」
「そうでしたか? タクミ様を後押ししているようにも聞こえましたが……?」
「いや、後押しとまでは……」
微妙に曖昧な言い方なのは、父親として微妙な気持ちもあって複雑だからだろう。
以前は、覚悟を決めていると言っていた事もあったような気もするが、そこは父親。
どうしても複雑な心境になってしまうものなのかもしれない。
それはともかく、いきなりセバスチャンさんが飛躍した事を言うので、エッケンハルトさんと一緒に驚いてしまった。
孫って……そんな……まだ特に付き合っていると言えるような関係ですらないのに……。
まぁ、セバスチャンさんの言うように、言葉を受けた俺自身も、エッケンハルトさんは微妙な心境ながら、後押ししているように聞こえなくもなかったけど。
「えーと……つまり、俺がクレアさんの事を好きかどうか……というのを聞きたいんですね?」
「……うむ。さっきからそう聞いているではないか……」
いや、遠回しというか、微妙な表現ではっきりそうとは言っていなかったと思うが……まぁ、意味としては似たような事なのかもしれない。
「タクミ殿がクレアの事を憎からず思っているのは、傍から見ていてもよくわかる。それはクレア自身もわかっているだろう。だが、それが男女の仲と言える想いなのか、いまいちわからなくてな……」
傍から見ていてわかるという事は、エッケンハルトさん以外もわかっているという事か……?
セバスチャンさんだけでなく、レオでさえも頷いているから、わかりやすかったんだろう。
そりゃ、最初に助けたのは俺……いやレオだけど、そこから屋敷に住まわせてくれて、お世話になりっぱなしだ。
知らないこの世界の事を教えてくれたりもするし(説明はセバスチャンさんだが)、人物としても貴族らしからぬ気さくさで接してくれているから、好ましく思っている。
というか、これまでの事を考えてクレアさんを嫌うなんて事は、あり得ないだろう。
ただ……。
「……すみません、どう思っているかという問いに、答える事はできません」
「なんだと……? それはつまり、クレアからの好意を知っていて、もてあそんでいるとでも言うつもりか?」
「旦那様……こちらを……」
「いやいやいや、そんなつもりは一切ありません! というかセバスチャンさん、いきなり刀を渡さないで下さい! どこから取り出したんですか!?」
ちょっと思うところがあって、答えられないと言った途端、エッケンハルトさんはギロリと俺を睨む。
怖いですから、その目は止めて下さい!
剣の腕でも敵わないうえ、いつもとは違って迫力のある眼力に、焦って否定する。
エッケンハルトさんの後ろでは、セバスチャンさんがどこからか取り出した刀を渡そうとしているし……いきなり無礼打ちとか、笑い話にもなりませんから!
エッケンハルトさんだけでなく、屋敷の人達は皆クレアさんを慕っているから、危険過ぎて下手な事を言ったりしたりはできないな……するつもりは一切ないけど。
「……いえ、もしもの時にはと思いましてな?」
「もしもって……そんな事はないですから!」
「本当か?」
「はい!」
「しかし、クレアの事を好きかどうかという事に答えられないと……つまり、もてあそんでいるという事ではないのか?」
なんとか刀を収めてくれたセバスチャンさん……どこにしまったんだろう?
あっちは気にするだけ無駄だろうから、放っておくとしてだ、どうして答えられなかったらもてあそぶという事に思考が飛躍してしまうのか……。
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