心を落ち着かせるために裏庭へ出ました
「……レオ、洗ったばかりだが、ちょっと外に出ようか」
「ワフ」
少し頭を冷やす必要があるかもと思い、レオを連れて裏庭へ向かう俺。
レオの方も、何か察しているのか、おとなしくついて来てくれた。
……顔を合わせるのが恥ずかしい、人間の機微とか、理解しているのだろうか?
ふと気になったが、今更レオがそういう事を理解できても不思議じゃないなと思い直し、夜中でひっそりとしている屋敷の廊下を通って、裏庭へ出た。
「ん、やっぱり夜中だからか、少しひんやりして気持ちいいな……」
裏庭に出て、ゆっくりと吹いている風に身を晒すと、長めにお湯へ浸かったおかげで火照った体に気持ちいい。
断じて、クレアさん達を見て火照ったとかではないので、誤解しないで欲しい。
「あ、お構いなくー」
俺が裏庭に出てきた事で、簡易薬草畑の様子を見てくれている使用人さんが気付いて、どこからかティーセットを取り出そうとしていたので、こちらに構わなくても大丈夫と言って戻ってもらった。
きっと、俺が夕涼み……というより夜涼み? に出てきたと思ったのだろう。
湯上りなのは、まだ湿っている髪を見ればわかるしな。
「キィー」
「お、ラーレか?」
「ワウ」
体を冷やし過ぎてもいけないが、今の俺には心地よい風を感じていると、屋敷よりさらに上……暗い夜空から聞き覚えのある声と姿。
レオが隣でお座りをしながら、呟いた俺の声に肯定するように鳴いた。
「キィー……キィ?」
「こんばんは、ラーレ。ごめんな、ティルラちゃんはもう休んでるんだ」
「キィ」
俺とレオの前に降り立ったラーレは、挨拶するように鳴きながら、首をキョロキョロとして何かを探すような仕草。
俺やレオが来たから、一緒にティルラちゃんも来たと思ったんだろう。
ラーレに謝ると、承知したというように短い返事と共に、右翼を上げた。
レオもそうだし、フェンやリルルもそうだが、この世界の魔物って細かい仕草をよくするよなぁ。
「あ、そういえば……ちょっと聞いていいか、ラーレ?」
「キィ?」
せっかくラーレが来たんだから、ただこのまま涼んでるだけというのも……と思って、一つだけ疑問に思っていた事を尋ねる事にした。
幸い、レオも一緒だから通訳もできるしな。
あと、話して気を紛らわせた方が、火照りも早く収まりそうだったから。
「鳥の事は詳しく知らないんだが……鳥目って言うんだっけ? その、夜だと目が見えないんじゃないか?」
「キィ……キィ? キィキィー、キィ」
「ワフ。ワフワフ、ワーウ」
「え? そうなのか……」
俺の質問を受けて、何それとでも言うように首を傾げたラーレ。
続いて何か伝えるように声を出したのを、レオが簡単に通訳してくれた。
それによると、鳥目というのはよく知らないが、鳥も人間と同じく夜でも目が見えるらしい。
当然、光が少ないせいで昼よりは見えないらしいが、それは人間も変わらない。
そうか……鳥って夜でも目が見えたんだな。
あ、フクロウとか夜行性の猛禽類もいるんだから、見えてもおかしくないか。
単純に、俺が勘違いしてたみたいだな。
「キィー、キィキィ」
「ワウー、ワフワウ」
「ん、そうなのか?」
「キィ。キィー!」
「ワウー!」
「いや、お肉の鳥とは違うって……そりゃラーレは、そこらの鳥とは違うんだろうけどな……」
さらに何かを伝えるように鳴くラーレ。
レオの通訳によると、食べる鳥の方は夜見えない……と言っているみたいだが、食べる鳥ってニワトリの事か?
そりゃラーレは強力な魔物だし、家畜とも言えるニワトリとは違うんだろうが……というか、この世界にニワトリはいるんだろうか?
鶏肉というのは、今までヘレーナさんの料理で出てきたと思うが、それがニワトリなのかはわからない。
意外と、オークみたいにニワトリっぽい魔物がいたりして……。
そうだったら、どんな姿をしているのか。
ラーレが巨大な鷲の形をしているから、オークとは違ってちゃんとした鳥の形何だろうとは思うけども。
でもそうなると……牛もそうだな……牛肉、どうなってるんだろう?
機会があれば、セバスチャンさんに……いや、ヘレーナさんの方が食材に関しては詳しそうだから、そっちに聞いてみようか。
説明したがるセバスチャンさんには、少し悪い気もするが。
「ありがとうラーレ、一つ勉強になったよ」
「キィッ!」
「ワウ」
「完全に、レオには逆らえないんだなぁ……舎弟とか子分みたいになってないか?」
「キィ、キィ!」
「ワウワウ」
「逆らったら一瞬で鶏肉にされるから、逆らえない……? まぁ、強さとしてはそうかもしれないが……」
ラーレにお礼を言うと、お安い御用だとでも言うように手……というか翼を上げて一鳴き。
それを見てレオが鷹揚に頷いていた。
ティルラちゃんとは違って、俺にそうやって接するのはレオがいる影響なんだろうが、ある意味訓練されているようにも見える。
空を飛んでいる時のラーレを、魔法で叩き落した時の事を考えると、確かにレオに逆らえないのはわからないでもない。
……あの臆病で小さかったマルチーズの頃から、随分と変わったもんだ。
人間の大声には、まだ弱いみたいだけどな。
「というか、ラーレも鶏肉って食べるのか? 魔物だから同種……とは言わないが、それでもなんというか……」
「キィ? キィキィ!」
「ワフ、ワウー」
「そうか……ただの食糧、なんだな」
食べる鳥とか言うから、共食いとは言えないかもしれないが、ちょっと気になって聞いてみたら、割と気楽な返事が返ってきた。
そこから追加で聞いてみたが、肉全般が好物と言うラーレにとって、似た形の鳥であっても気にせず食べる対象らしい。
カラスや鳩が鶏肉を見ると、怖がって逃げる……みたいな事は聞いた事があるんだが、ラーレには当てはまらなかったようだ。
まぁ、鳥型魔物の頂点とも言える魔物だから、そういう事は気にしないのかもしれないと、結論付けておいた。
「タクミ様、こちらにいらっしゃいましたか」
「ゲルダさん?」
「ワフ?」
あれから、ラーレと少しだけ雑談をして、心を落ち着かせたり涼んだ後、屋敷へと入り部屋に戻っている途中の廊下で、ゲルダさんに声をかけられた。
どうやら俺を探していたようだけど、何かあったのかな?
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