全員が濡れて大変な状況になりました
体を震わせてすぐ、俺達を見て首を傾げたレオは、すぐにやってしまった……! という表情になり、注意する俺や皆に対してすまなさそうに頭を垂れた。
時間もかかったし、ほとんど無意識に体が動いたんだろうと思うが、もう少しだけ我慢して離れてからやって欲しかった……。
俺はレオから視線を外し、びしょ濡れのクレアさんとライラさんへと声をかける。
リーザとティルラちゃんは、元々びしょ濡れだったし、あっちは元気良さそうに笑ってるから大丈夫そうだ。
「驚きました……シェリーも時折やるので、慣れていると思っていましたが、体が大きいとこれだけ勢いも違うんですね……」
「だ、大丈夫です。驚きはしましたが、濡れるのは覚悟していましたから。……ここまでとは思っていませんでしたけど」
「ママすごーい!」
「すごいですねー。皆びしょ濡れですよー」
「まぁ、毛が濡れて張り付くのが気持ち悪い、とかなのかもしれませんけど……っ!」
「……どうしました、タクミさん?」
「タクミ様、お顔が赤く……?」
「ワフ?」
驚いた様子ながらも、微笑んでいるクレアさんとライラさん。
二人共全身びしょ濡れで、髪まで濡れているのにあまり気にした様子がないのは、元々ある程度濡れる事を覚悟していたためだろう。
レオが水気を飛ばす勢いが、あそこまでとは思っていなかったようだけども。
リーザとティルラちゃんがはしゃぐ声を聞きながら、仕方ない……と話していると、二人の様子に気付いた、気付いてしまった。
思わずバッ! という音が出せてしまいそうな程の勢いで、顔を背ける。
そんな俺の様子に、どうしたのかと心配そうなクレアさんとライラさんの声。
いやあの……あまり覗き込もうとしないで……というか、あまり近付かない方が……えっと、俺やクレアさん達のためにもいいと思うんだけど……。
「あの……その……ちょ、ちょっと離れて下さい!」
「どうされたのですか? ……何か、私は失礼な事を……?」
「……タクミ様? ……はっ! く、クレアお嬢様!」
「どうしたというの、ライラまで慌てて……」
「濡れて、お洋服が……」
「え!? あ……こ、これは失礼なものをお見せしました……! ライラもよ!」
「っ!」
「あー……いえ……結構なお手前で……? でいいのかな……」
近寄って、俺の背けた顔の前へと回り込もうとする、クレアさんとライラさん。
慌てて二人を遠ざけるように言って、体ごと背けたが、クレアさんは何かに俺が怒っているように受け取ってしまったようだ。
落ち込んだような声色で尋ねられるが、それに俺がどう答えるべきか……何となく、男の俺から指摘するのは憚られる気がした。
その時、クレアさんの様子にそちらを見たのか、ライラさんが気付いたようで、大きな声を出して慌て始めた。
うん……その、濡れてもいい服ではあるけど、それは別に水着だとかそういう物じゃないからな。
二人共簡素な服を着ているが、水が滴る程濡れてしまえば当然、肌に張り付いてしまう。
先程俺の目に入って来たのは、張り付いて体のラインがはっきりと見えてしまっている、二人の艶めかしい姿だった。
服の布が薄いせいもあるのか、部分的に透けて見えてたような気すらする……すぐに目を逸らしたから、決定的に見てはいけない部分は見てないはずだが……。
ライラさんの言葉で、自分がどういう状態になっているのか理解したクレアさんは、サッと俺から離れたような気配と共に、恥じ入るような声で何故か俺へと謝った。
いや、謝るのは俺の方……レオかな? ともかく、クレアさんに言われてライラさんも気付いたのか、二人共体を背けた俺に近寄る動きはなくなった。
というか……結構なお手前って……俺もやっぱり混乱しているな。
「と、とりあえず、そのままだといけないので、先にここから出て……下さい」
「は、はい! わかりました!」
「し、失礼しました!」
「んー、どうしたんだろう……クレアお姉ちゃんとライラお姉さんは?」
「濡れたから、寒かったんですかね?」
「ワフ……」
振り向きたいと、本能が火を噴きながら叫んでいる気がするのを抑えつけ、なんとか二人に外へ向かうよう促す。
……惜しいとか、もっと見たいとか、そんな事は考えていないんだからね!!
二人共、スタイルいいなぁ……というのは、浴場の入り口が開いて閉まる音と共に、打ち消した。
リーザとティルラちゃんは、どうしてクレアさん達が慌てているのかわからず、不思議そうにしていた……二人共、そのまま純粋に育ってくれ……。
原因を作ったレオは、いつもなら女性に慣れない俺の様子に溜め息を吐くところだったが、今回だけはすまなさそうに声を漏らしていた。
「……リーザ、ティルラちゃんも、濡れたままだと体に悪いから、クレアさん達の所へ行って着替えるか拭くかしておいで?」
「うん、わかったー! ティルラお姉ちゃん、いこー」
「はい、わかりました!」
「はぁ……」
「ワフ?」
「少し、落ち着くまで待ってくれ……」
「ワウ……」
クレアさん達は、今頃着替えだとか体を拭いている最中だと思うが、リーザ達をこのまま濡れた状態にしてはいけない。
二人に浴場の外へ出るように言って、それを見送った……素直に聞いてくれて良かった。
レオと俺だけになった浴場で、溜め息を吐く。
首を傾げたレオの体に寄り添って、うるさい程鼓動する心臓が落ち着かせるようにした……。
そうだよな……服、濡れたら張り付くよな……。
レオに飛沫をかけられる前から危なかったんだが、本人達が気を付けていたおかげか、奇跡的に張り付くまではいっていなかった。
ある意味レオのおかげ……とか考えてしまいそうになるのを打ち消しながら、鼓動が収まるのをしばらく待った。
結局、あの後着替えたクレアさん達にレオを任せ、待っている間に少し体が冷えた……という言い訳で服のままお湯に浸かった。
完全に温まる頃には、落ち着きを取り戻せたと思う。
風呂から上がると、脱衣場にはタオルで毛を拭かれ終わったレオが、お座りして待っているだけで、クレアさん達の姿はなかった。
レオに聞いてみると、もう大分遅い時間になったので、クレアさんはティルラちゃんを、ライラさんはリーザを寝かせるために部屋へと連れて行ったらしい。
二人共、まだ少し恥ずかしかったんだろうな……。
ライラさんかゲルダさんが用意してくれたであろう、脱衣場にある着替えに袖を通しながら、また少し頬が熱を持ち始めたので、部屋に戻るのはもう少し待った方がいいかもしれないと考えた。
クレアさんは大丈夫だろうが、リーザと一緒にライラさんがいるだろうからな――。
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