レオお楽しみのブラシの登場でした
「はぁ~……」
どうでもいい俺の疑問も、実際に浸かってしまえばすぐに吹き飛ぶ。
思わず出る溜め息のような声を発しながら、じんわりと体が温まるのを感じる。
「パパと一緒に入る―!」
「服を着てというのも、楽しいですねー!」
「もう、リーザちゃんだけでなく、ティルラまで……」
「あははは、もう単なる遊びになってますね」
俺が湯船に浸かったのを見て、リーザが飛び込み、ティルラちゃんもそれに続いた。
子供達にとっては、水遊びの延長のようになってしまっているようだ。
困った様子で、ティルラちゃんを見ながら呟くクレアさんだが、その目は優しい。
無邪気に遊んでいる様子を見るのが、嬉しいんだろう。
「タクミ様、大丈夫ですか?」
「あ、はい。おかげで温まったので、もう大丈夫ですよ」
「良かった……」
「ライラは、少し心配し過ぎではないの? いえ、私も心配はしましたけど……」
「すみません……お世話を任された人が、ご病気になられるといけないと思い、つい……タクミ様、差し出がましい事を……」
「あぁいえいえ、心配してくれたんですから、気にしてませんよ。ティルラちゃん達じゃありませんが……こうして、服を着たままお湯に浸かるのも、楽しいですね」
「……ありがとうございます」
温まって、体が冷え切ってしまわない事に安心した様子のライラさん。
確かにクレアさんが言う通り、少し心配し過ぎかなと思うところもあるけど、それだけ真剣にお世話してくれているだけだと考えれば、一切怒る気も沸かない。
申し訳なさそうに謝るライラさんに、冗談を交えながら笑って大丈夫と伝えた。
ちなみにリーザとティルラちゃんは、完全に遊びモードのようで、お互いにお湯を掛け合って遊んだりしている。
まぁ、水じゃないから体が冷えたりしないし、風邪を引く事はないだろうし、服が濡れてそのままというよりはいいのかもな……楽しそうだし。
「……ワフ?」
「あぁ、レオ。放っておいてすまんな。……よし、温まったからそろそろお楽しみの時間だな!」
「お楽しみの時間ですか?」
「何か、レオ様に?」
「どうしたのパパー?」
「他にもまだあるんですか?」
湯船の端に浸かったままの俺に、顔を近付けて傾げる仕草をするレオ。
風邪とかひかなそうだが、濡れたまま放っておく事になってしまっていた。
もとはと言えばレオが原因ではあるが、放っておいた事の謝罪を込めて、丹念に毛を梳いてやるからな。
クレアさん達はなんの事かわからないようで、首を傾げているけど、すぐにわかる。
「ライラさん、例の物を。……すみません、ブラシをお願いします」
「例の……? あ、はい! 畏まりました」
「急がなくてもいいですよー、足を滑らせたら危ないですからー」
「ゲルダのように転ばないように気を付けます!」
皆が首を傾げている状況に、少し気分が良くなって格好つけた言い方をしたら、伝わらなかった。
そりゃそうか……ライラさんはレオを直接洗うのは初めてなんだから。
バツが悪そうに言う俺に、ブラシの事を思い出したライラさんは、すぐに脱衣場の方へと取りに向かう。
急いで行こうとしていたので、転ばないよう注意したら、ゲルダさんが例に出てきてしまった。
うん、俺の前以外でも転んだりする事があるみたいだな……。
風呂場の床はタイルで、一応滑りにくい材質でできているようだが、それでも濡れているので転んでしまう危険性がある。
プールの近くで走ったりしないようにするのと、同じだな。
もしライラさんが転んで、スカートの中が見えてしまったら……という以前に、タイルで勢いよく転ぶとか、危険過ぎるからな。
……と、経験者は語る……どうでもいいか……あの時は痛かったなぁ。
「どうぞ、タクミ様。他の皆様も」
「ありがとうございます」
脱衣場から複数のブラシを持ってきたライラさんは、俺だけでなくクレアさん達にも手渡す。
前もって頼んでいたから、これでレオの毛をしっかり梳いてやろう!
お湯と違って、こっちはレオも好きなようだからな。
「よーしレオ、こっちにおいでー!」
「ワフ、ワフ!」
「嬉しそうですね……?」
「はい。レオは風呂嫌いでお湯が苦手ですけど、ブラシで毛を梳かれるのは好きなんです」
「成る程、そうなんですね。……なんとなく、わかる気がします。タクミさんなら、優しくしてくれそうですし……」
「タクミ様、どうやればよろしいのでしょうか?」
「えぇとですね……」
「ブラシー!」
「ブラシですよー。これは髪の毛を梳いたりするものです」
「そうなんだね、ティルラお姉ちゃん!」
ティルラちゃんやリーザを構っていて、少し離れていたレオにブラシを見せながら呼ぶと、嬉しそうに尻尾を振りながらこちらへゆっくりと近寄る。
嬉しいのはわかるが、尻尾はまだ濡れてるから……ほら、リーザ達にかかってるぞ。
まぁ、気持ちが勝手に尻尾を動かしているのかもしれないから、完全に止めることはできないんだろうけども。
クレアさんがレオの嬉しそうな様子を見て呟いたので、ブラシで梳かされるのが好きな事を伝えた。
なんとなくわかるというのは、長い髪をした女性だからなのかもしれないな。
俺なんて、男だからという事も多少あるだろうけど、日本にいた頃から櫛で髪を梳いたりして来なかった。
ドライヤーでざっくり乾かす程度だな……でもそういえば、散髪をした時とか誰かに髪を梳かされるのは気持ち良かったっけ。
もしかしたら、クレアさんにもやってあげれば喜んでくれるかな……? と考えたが、なんとなく気恥ずかしい気がして言うのは躊躇われた。
そうしているうちに、ブラシを配り終わったライラさんが、自分で使うのを持ったままどうやるのか聞かれる。
近付いて来てお座りしたレオにブラシを当て、手本を見せるようにして皆に教えた。
リーザはブラシを見た事がなかったらしく、受け取ったまま不思議そうに首を傾げていたが、ティルラちゃんがお姉さんらしく教えていた……微笑ましい。
けど、一応説明は聞いておいてくれー。
「ワフ~、ワフ~」
「喜んで下さっているようですね、良かった」
「はい。撫でられているのと近いんでしょうけど、気持ちいいんでしょうね。昔から、レオはブラシで毛を梳かすのが好きですから」
俺達が寄ってたかってブラシを使い、毛を梳いてやると気持ち良さそうな声を漏らすレオ。
それを聞いて、クレアさんが微笑んで少しホッとした様子。
昔からブラシは好きだったからなぁ……風呂に入る時はしょんぼりするのに、ブラシを使ってやるとすぐに機嫌が良くなっていたからな。
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