家の材質は重要みたいでした
「執事は、三人か四人がよろしいかと思います。管理の役割を別ける事で、効率よく、そして無理せず管理できるかと」
一人か二人くらいかなぁ……と考えていたんだが、セバスチャンさんが必要というのならそうなんだろう。
簡単に考えても、家の管理、薬草畑を運営する事での収支管理、働いてくれる人達の管理……俺やクレアさんがいても、二人でギリギリ、一人だと過労働になるってところかな。
ブラック企業のような人の使い方はしたくないから、余裕を持たせないとな……幸い、薬草を作る事での利益は十分そうだし。
目指せ、ホワイト企業!
「タクミさん、どうしたんですか? 妙に力を入れて頷いていますけど……」
「あ、いや……ちょっと昔の事を思い出してたので……あはははは」
以前の経験を生かして、福利厚生をしっかり……なんて内心考えていると、余計な力が入っていたみたいで、クレアさんに首を傾げられてしまった。
とりあえず笑って誤魔化したけど、無意識に拳を握り込んでた自分に気付いて少し反省。
爪の跡が残りそうな程拳を握り込むなんて、今の会議に相応しくないしな……真剣ではあっても深刻な話じゃないんだし。
「執事が家を管理するとして……クレアお嬢様を含めてお世話をする使用人が数人。旦那様が護衛兵もと仰っておりましたので、それも数人。ランジ村ですぐに住める空き家がどれだけあるのかは、確認する必要があるでしょうが……雇う人員が十人以上……少し多めに見て十人程度ですかな。おそらく、総勢四十人から五十人程度が住む家と考えておいた方が良いでしょうな」
「……そんなに、ですか?」
俺はともかく、クレアさんのお世話をする使用人さんが必要なのはわかる。
ランジ村を守る事や、クレアさんのために護衛さんが必要なのも同様だ。
俺が雇う執事さんも同じくだし……というか、薬草畑のために雇う人が多い気がする。
十人以上って……しかも、総勢の数が多くなり過ぎているような……。
余裕を持って考えるという事は必要かもしれないが、そこまで多く考える必要があるのかな?
これ、結局豪邸になってしまうんじゃないだろうか。
「少なく見て、三十人程度と考えてます。薬草畑は、おそらく上手くいくと私はもとより、旦那様も考えておりますが……」
「私も同じくよ」
「そうですな。上手くいった際、その後に手を広げるかどうか……という選択に迫られる事でしょう。その時にどうされるかは、タクミ様やお嬢様の判断次第ではありますが、もし広げる場合、さらに人を雇う事も考えねばなりません。その際、先に住める場所として余裕を持っておいた方がスムーズですからな。新しく家を建てるとしても、時間がかかりますから」
「そう言われると……そうかもしれませんね」
セバスチャンさんやエッケンハルトさん、それに今この場で同意してくれたクレアさん達は全員、俺の作った薬草畑が上手くいくと考えてくれているようだ。
ラクトスでは確かに上手くいっているけど、大量に薬草を作って需要があるのか、ちょっと不安なところはあったんだが、この人達から言われるとそうできるんだと自信を持てる。
いや、自信を持つだけじゃだめだな。
無理はしない事前提で、のんびりやりながら、それでいてちゃんと利益を上げなければならない。
若干どころではなく、のんびりする事と両立できるかは微妙かもしれないが、せっかく雇った人達が路頭に迷うような事はあってはならないしな。
これからはもう少し、誰かの下で働くという事より誰かを雇って働いてもらうという感覚、自分が会社……ではないが、運営する薬草畑を軌道に乗せるよう考えるため、視点を変えて行かなきゃな。
「広さは、今言った人数が暮らせるように……という事で……後は家の材質ですな」
「材質ですか?」
「はい。この屋敷のように総石造りとしたならば、丈夫な家ができます。ですがその代わり、時間がかかる事になりますな」
総石造りか……この屋敷に使われている建材は大理石のような物だから、想像以上な広さになる建物となると必要な量はかなりの物だ。
石を運んだりする必要もあるし、費用がかさんで時間もかかるのは当然と言えるだろう。
「逆に、一般的な家で使われる木材で作ったのであれば、費用もそうですが時間もかなり短縮できるかと。幸いにも、ラクトスを含めた周辺では木材の不足は御座いません。その分、石で造られた家よりも壊れやすいという事が挙げられますな。一応、木材の方が補強はしやすいでしょうが……」
「まぁ、とりあえず住むだけなら、それで十分過ぎるでしょうね」
木造の家というのは、ラクトスに行った時によく見ている。
あれを広く大きく作るだけなのだから、時間も石よりはかからないだろうし、木材が豊富な地域である事も幸いして、費用も安くて済む。
だけど……。
「……レオが、壊しそうですよね」
「レオ様は、屋敷にいる時も気を使っていらっしゃるように思いますが、それもどこまで加減できるか……」
「そうね。それに、リーザちゃんもいるから、少しは丈夫な方がいいかしら?」
「あー、確かにリーザと一緒にレオも遊びますからね」
ランジ村に行けば基本的に外で遊ぶ事が多くなるだろうが、それでもレオが壊さないという保証はない。
というより、馬よりも大きな体になったレオが、自由に動き回れるこの屋敷が普通ではないというか……。
それだけ、建材の石のおかげもあって、丈夫に造られているんだろう。
木材ではここまでの耐久性は、求められないと思う。
代用できそうなのは、鉄筋コンクリートとかだろうが……この世界にはまだそれを作る技術が確立されてないだろうしな……俺も最初から作る方法なんて知らないし。
「リーザ様もレオ様も、建物内で暴れる……いえ、激しい動きをして遊ぶ事はそうないと思いますが、気を付けていても壊れてしまう箇所も出て来るでしょう」
「そうですね。それに、いずれ古くなったりした場合に、レオが踏み抜いてしまいそうですし……」
リーザはしっかり言う事を聞いてくれるいい子だし、レオは言わずもがなだ。
それでも、ちょっとした拍子に壊してしまう可能性もあるからな……悪気がなくても、そういう事はある。
それに、住み始めて数年は大丈夫だろうが、しばらくして古くなった床板をレオが踏み抜いてしまう、なんて事も想像してしまった。
女の子のレオは怒ってしまうかもしれないが……あれだけの大きさなんだから、それなりの重量があるのは当然だしな――。
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