ラーレは屋敷の上が気に入ったようでした
俺が驚いた事を気にする様子もなく、挨拶をしながら微笑むライラさん。
森でずっと料理を作るのは大変だっただろうけど、疲れが溜まっていないようで良かった。
「リーザ様の事はお任せを。お起きになられましたら、支度を済ませてタクミ様達の所へと連れて行きますので」
「ありがとうございます。お願いします……あ、そうだ」
「? 何かありましたか?」
「いえ……昨日、ライラさんが休んでからのゲルダさんの事なんですけど……」
リーザの事を請け負ってくれたので、ライラさんに任せて安心する。
それと一緒に、ゲルダさんがまだここへ来ていない事を確認してから、ライラさんへ昨日の事を切り出した。
夕食時、早とちりしたゲルダさんが皆に仰々しく説明した事だな。
「成る程……私が休んでいる間にそんな事が……畏まりました、ゲルダの事もお任せ下さい。同じ事が起こらないよう、しっかり注意しておきますので」
「あーいえ、俺もそうですけど、エッケンハルトさんやクレアさん達も怒ってはいなかったので、穏便に……」
「怒っちゃいけないのですよ?」
「ティルラお嬢様にも言われてしまいました……これでは厳しくできませんね……ふふふ。では、恥ずかしそうにしているゲルダをからかう程度にしておきます」
「それはそれで……ゲルダさん泣きそうですけど……」
「大丈夫です。ゆっくりと……ですね?」
「……あはは、はい。ゆっくりとお願いします」
ライラさんに昨日の夕食時での事を説明すると、ゲルダさんを注意すると意気込まれた。
厳しく注意というより、失敗してしまったゲルダさんのフォローをお願いしたつもりだったんだけど……と思いながら、怒らないようにお願い。
俺の真似なのか、ティルラちゃんもライラさんを見上げるようにしてお願いしてくれた。
ナイス援護!
お茶目に笑って見せながら、ゲルダさんを怒らずからかおうとするライラさんは、見惚れてしまいそうな程魅力的にも思えたが、恥ずかしさから泣いているゲルダさんを想像して打ち消された。
俺が苦笑していると、微笑みながらライラさんはゆっくりと……という言葉を口にした。
確かこれは、まだ俺がこの屋敷に来て間もない頃、ゲルダさんの失敗を目撃した後に言った事だったか……。
『雑草栽培』で何ができるかの研究を初めてすぐで、休憩していた時に話したと思う。
あれから数カ月経っているけど、覚えていてくれたのは嬉しいな。
そうして、リーザの事を任せ、俺とライラさんの間で通じる合言葉のようなゆっくりと……という言葉に首を傾げ、不思議そうなティルラちゃんとレオを連れて、ラーレの所へと向かった。
別に、何か隠し事だとか、怪しい事じゃないから、訝し気な表情をしなくていいんだぞ、レオ?
「キィー!」
「ラーレ! 昨日はちゃんと休めましたか?」
「キィ、キィー!」
「ははは、ラーレも元気そうだなぁ」
「ワフワフ」
ラーレに会うため、まずは裏庭へ。
俺とレオを連れたティルラちゃんが、屋敷から出てすぐ向こうから先に発見したようで、空から降りて来るラーレ。
どうやら、屋敷の上に乗っていたらしい。
ラーレが目の前に来ると、一対一で会うことを躊躇していた事を忘れた様子のティルラちゃんは、元気に飛びついていた。
ラーレの方はティルラちゃんを優しく翼で受け止め、元気だとアピールするように鳴いているな。
この様子を見ると、俺やレオは必要なかったとは思うが……空から降りてきたラーレは、翼を広げている事もあって、結構な迫力があった。
体の大きさも考えると、子供のティルラちゃんとしては少し怖く感じる事もあるんだろう。
こうして顔を合わせて会話を始めると、そんな様子は一切感じられないし、ティルラちゃんも意識から怖いというのが抜けているようだけども。
これなら、お互いすぐに慣れてくれると思う。
「ラーレ、外で大丈夫でしたか? 寒くはありませんでしたか?」
「キィ? キィキィー」
「ワフ、ワウワフ」
「ふむふむ。やっぱり鳥だけあって、外の方がいいのか」
ティルラちゃんは、一晩外で過ごしたラーレの事を心配していたようで、翼をペタペタ触りながら聞いている。
一度首を傾げた後、楽しそうに鳴くラーレは、何も問題なさそうだ。
レオの通訳によると、山より快適に過ごせたという事らしい。
まぁ、屋敷のある場所は平地だし、山と比べたら寒くはないだろうしな……山がどういう環境か、俺にはわからないが。
「屋敷の上にいたようでしたけど、空を飛んでいたんですか?」
「キィ。キィー、キィー」
「ふむふむ、そうなんですねー!」
楽しそうに話すティルラちゃんとラーレ。
これなら、俺とレオがいなくてももう大丈夫そうだな。
今日一回限りで、ティルラちゃんがラーレと会うのを躊躇する事もないだろう。
ちなみに、ラーレは屋敷の上に止まっているのが気に入ったらしい。
この辺りで一番大きく高い建物で、そこらの木よりも高いというのと、木の枝と違って、折れたりしそうにない程丈夫そうだから、らしい。
高いところで過ごしたいというのはいいとしても、ラーレ程大きな魔物が止まっていても大丈夫なのだろうか?
というか、屋敷が止まり木代わりとは……。
気になってレオの通訳を通してラーレに聞いてみると、壊したりはしないとの事。
なんでも、自分の重さを軽減する方法があるらしく、木や建物に乗る時はそれを使っているから、重さで壊れたりはしないらしい。
……クレアさんとか、女性達が聞いたら羨ましがりそうな能力だが……これも魔法なのだろうか?
ともあれ、それでも木の枝だと折れる事があったり、他の木々が邪魔をして満足に止まれなかったりするらしい。
体の大きさを考えると、そうなるのも仕方ないとは思うが、屋敷の上は邪魔する物が何もないため、快適で見晴らしがいいらしい。
日本ではもっと大きな建物があったりもしたが、この世界で俺が今まで見た中で一番大きな建物だからなぁ……高い所、という条件で考えると、これ以上の場所はそうそうないだろう。
山の頂上から見下ろす、とかでなければだけどな。
そうして、ラーレとティルラちゃんがお互い楽しそうに話しているのを、レオと一緒に朗らかに眺めて過ごしていると、リーザを連れたライラさんが裏庭に来てくれた――。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
書籍版、大好評発売中!
皆様よろしくお願い致します。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。