女性陣にとって深刻な問題のようでした
「それに関して、ヘレーナさんはまず、見た目に楽しい料理というのを考えたようです。実際、使用人達の間でも見た目が楽しくなると料理が美味しく感じると、評判でした」
「そうですね、確かに味は気分に左右される事もありますから、楽しい見た目というのも料理には必要かもしれません」
見た目に美味しそう、美味しくなさそうというのはある。
美味しくなさそうな料理を食べて、意外に美味しかった! という驚きもいいが、やっぱり食事は楽しく摂りたいものだ。
見た目で楽しんで、気分を上げて実際に食べた料理が美味しい……というのは、料理人にとって一つの答えとも言えるのかもしれないな。
まぁ、そういう事を気にせず、とにかく食べられればいいと言う人もいるだろうが、それはまた別の話だ。
「しかし、それならなぜこの量になったのだ? 並べて比べたわけではないが、いつもの半分程度しかないように思うぞ?」
「その事に関しましては……その……シェリー様や私達使用人の中でも、女性達からの要望に応えた形になります」
「シェリーに関係するの?」
「キュゥ?」
見た目や味はともかく、量に関してはどうなっているのかと、眉を顰めて問いかけるエッケンハルトさん。
対してゲルダさんは、まだ新人なので公爵様と直接話す事に慣れていないのか、少し気圧されながらも答えた。
シェリーと使用人の女性達か……。
クレアさんが一度シェリーへと視線をやり、ゲルダさんへと問いかける。
シェリーは、どうしてそこで自分が呼ばれるのかわからず、首を傾げて小さく鳴いた。
皆はわからない様子だが、俺はもしかしたら……? という考えが浮かんだ。
ポイントは、シェリーだけでなく使用人さん達の中でも、女性達からの要望、というところだな……多分。
「はい。その、シェリー様は森へと行く目的の一つとして、痩せる事があったかと」
「そうね。レオ様に鍛えてもらう意味もあったけれど、一番の目的はそこかしらね」
「キャゥ」
シェリーはあまり活発に動いていなかった事と、盗み食いもあって太って来ていたため、レオによるダイエット計画の真っ最中だ。
その一環で、裏庭ではレオに追い立てられるように走っていたし、森の中では基本的にレオに乗る事はしていなかった。
オークと戦うのもその一環だな……フェンリルとしての戦い方を学ぶという意味合いもあったと思うが……。
ともかく、数日でダイエットが終わるわけではないが、その成果は着実に出ているようで、屋敷を出る前よりも、今の方がシェリーの顔はフェンリル……狼とはっきり言えるほど精悍な顔つきになったような気がする。
少しの変化だし、まだ成長途中で幼いので、フェンやリルル程じゃないけどな。
お腹の方も、立っていても床に付いてしまいそうだったのが少し引っ込んでいるようだし……。
盗み食いや食べすぎを止めて、しばらくレオと一緒に走っていれば、ダイエットは成功すると思う。
「ヘレーナは、シェリー様を太らせてしまった原因が自分にあると思い込み、痩せられる料理という物を考え始めたのです。そこに、私もそうだったのですが……その……使用人達の、特に女性達がとある要望を出したのです」
「とある要望?」
シェリーが太ったのは、単純に運動不足と食べすぎだから、ヘレーナさんが悪いわけじゃないんだがなぁ。
それでも、屋敷で食べるものを管理しているヘレーナさんにとっては、大きな問題だったのかもしれない。
そして、太ったシェリーと痩せる料理、さらに女性達からの要望と考えると、結論は一つしかないな……やっぱり。
「料理の量を減らして欲しいと……その、端的に言いますと……美味しい料理を食べ過ぎると、太ってしまうので、その分量を減らして調整を、という要望です。……ヘレーナさんの料理、以前よりも美味しくなって、ついつい食べ過ぎてしまうので……」
「……そう……確かに、それは由々しき問題ね。考えてみれば、私も少し食べ過ぎていた気がするわ……」
「あー、私が口を挟みにくい事情だが……そのな? 私やタクミ殿、レオ様にその必要はないのではないか?」
「ワウ!」
「まぁ、レオもそうですが、俺やエッケンハルトさんは痩せる必要はありませんからね……」
「……羨ましいです」
「あ……あははは……」
結局のところ、食べ過ぎて太るのならば量を減らせばいいという、簡単な事だったようだ。
俺が屋敷に来てからは特にらしいが、デザートまで考案して、美味しい物をよく作ってくれていたヘレーナさん。
だがそれは、女性達にとって最大の敵となっていたらしい。
クレアさんも、時折デザートを要望して嬉しそうに食べていたし、多くの量を食べていたという自覚があるんだろう、ゲルダさんの説明に納得して頷いていた。
しかしエッケンハルトさんは、味も量も満足できると期待していたからか、女性のデリケートな話でも口を挟んだ。
レオも一応、女の子ではあるのだが、お腹いっぱい食べるという誘惑に勝てず、同意するように吠えた。
エッケンハルトさんの言う通り、痩せる必要のない者は多くの量を食べても構わないはずだしな。
俺もそれに乗っかったが……クレアさんに恨めしそうな目で見られて、思わず誤魔化すように乾いた笑いをするしかなかった。
うーん……腹八分目が体にいいとは言うけど、やっぱり美味しい料理はお腹いっぱい食べたいなぁ。
「失礼致します。追加の料理ができましたので、お持ちしました!」
「おぉ! 用意してくれていたのか! 良かった……」
「ワフ! ワフ!」
「きゃふ……ママ、尻尾が当たってるよー?」
「ワゥ……」
女性達……主にクレアさんの痩せる事への渇望のような気配を感じつつ、置かれた料理だけで我慢しないといけないのか……といった雰囲気になっていたら、ヘレーナさんが食堂の入り口から配膳用のワゴンを押しながら入ってきた。
そのワゴンには、大きなお皿に焼かれてソースが掛かった肉……多分オーク肉かな? や、野菜がゴロゴロ入ったスープ、さらには積み上がると言った表現が正しそうな量のソーセージが載っていた。
エッケンハルトさんは、新たな料理のボリュームにホッと息を吐きながら安心する。
レオの方は、大量のソーセージを見て大興奮したようで、嬉しそうに尻尾を振っていたが、眠そうなリーザの顔にペシペシ当たっていたのを注意されて、謝っていた。
……興奮するのはわからなくもないが、食事の席だからもう少し落ち着こうな、レオ?
申し訳なさそうに鳴いてリーザへ謝るレオの顔を掴んで、頬をむにむにして落ち着かせる事にした。
「マムー」
頬をむにむにされているレオは、ちょっと面白い鳴き声を出していた――。
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