夕食の量が少ないようでした
「タクミ様、お休みの所失礼いたします。夕食の支度ができておりますので、食堂までお越し下さい。……もしお疲れでしたら、こちらに用意するようにしますが?」
「あぁいえ、ちょっとリラックスしていただけなので、すぐに食堂へ向かいます。――リーザ、寝るのはお腹いっぱいになってからだぞ?」
「うんー……お腹もすいたから、食べるー」
「ワフ!」
のんびりリラックスしていると、ノックの音と共にゲルダさんが入ってきた。
どうやら、荷物を運び終えてすぐ夕食の確認に言ってくれていたようだ。
部屋の中で寛いでいる俺達の様子を見て、食堂より部屋で食事をした方がと思ったようだが、できるなら食堂に行って皆で食べたい。
エッケンハルトさんやクレアさんもそっちだろうし、セバスチャンさんにラーレの過ごす場所はどうなったのか聞きたいしな。
……多分、アンネさんは食堂まで来れないだろうけど。
屋敷へ到着しても、疲労からか自己主張する事がなかった縦ロールさんの事を考えつつ、ゲルダさんに応えて、レオに抱き着いたまま寝そうになっているリーザにも声をかけた。
目を擦りながらも、眠気から耳や尻尾を垂れさせているリーザは、なんとか立ち上がる。
レオの方は……心配なさそうだな。
夕食と聞いて、すくっと立ち上がったレオは今にも駆けて行きそうだ。
尻尾もブンブン振っているし……元気だなぁ。
食い気が強いだけかな?
ともあれ、リーザが寝ないうちに夕食を済ませないとと考え、ゲルダさんと一緒にレオを連れて食堂へ。
今レオに乗せたら、フワフワな毛で包まれて寝そうだったので、リーザはゲルダさんに手を引かれて歩いている。
「うむぅ……これは一体どうした事だ……?」
「森で食べた料理の方が、ボリュームがありましたね。……オークの肉が大量にあったせいでもありますけど」
「キャゥ……」
「いつもより、量が少ないように見えますね……?」
「ワフゥ……?」
「んー……」
「リーザちゃん、まだ寝ちゃだめですよ?」
食堂にて、部屋に戻った途端、力尽きて部屋で爆睡しているらしいアンネさん以外、いつもの皆が揃ったところで夕食が配膳される。
しかし、その用意された料理を見て、エッケンハルトさんだけでなくクレアさんや俺、レオが訝しんだ。
シェリーに至っては悲しそうに鳴いている。
リーザは目の前の料理よりも、眠気が勝りそうになっているらしいが、ティルラちゃんが寝ないように注意してくれているみたいで、そちらにお任せだ。
お姉ちゃんと呼ばれたり、ラーレの事があったから、面倒を見るという事をしてみたいんだろうな。
ともあれ、俺達の目の前に置かれた料理。
それは、いつもの屋敷で食べる料理と比べると質素とも言えた。
いや、よく見ると料理そのものは工夫されているらしく、手間がかかっているのはわかるんだが、どうしてもオークの肉を食べていた森での食事と比べると、見劣りするような気がする。
まぁ、はっきり言うと、味とか見た目は良さそうなんだが、ボリュームが圧倒的に足りない。
大量にあったオークの肉に慣れたから……というのも少しはあるんだろうが、それにしてもボリューム不足なのは間違いない。
一応、肉料理もあるんだが、俺やエッケンハルトさんだけでなく、クレアさんですら一口で食べきれそうなくらいの物しかない。
なんというか……懐石料理では、小鉢に色んな食材を使った料理が出てきたりするが、その小鉢の数が少なくて食卓が寂しい状況……と言えば、簡単に想像できると思う。
「むぅ……屋敷に戻って来たのだから、数日ぶりにヘレーナの料理を存分に食べようと考えていたのだがな……」
「美味しそうではありますよ、お父様」
「見た目にも凝っていて、手間がかかっているのは間違いないと思います。ほら、このパンなんて……小さいですけど」
難しい顔をするエッケンハルトさんに、フォローするように言うクレアさん。
俺もパンを手に取って、手間がかかっている事を伝えるが……手のひらサイズだった。
見た目は凝っているんだけどなぁ……小さくとも、パンはレオかシェリーを模しているのか、犬とか狼の形で精巧に作られている。
ちょっと食べるのに躊躇するくらい、細かく作ってあって、逆にどうやってここまで作り込んだのか知りたいくらいだ。
焼きたての香ばしい香りもするから、美味しいんだろうけど、やはり少し足りないかなとも思う。
森で野営していた時は、フェンやリルルが加わった辺りから、食べる量を用意するのに精一杯で、あまり凝った料理は作れなかったし、屋敷に戻ってきたからヘレーナさんの料理を楽しみにしていたのは、エッケンハルトさんだけでなく俺も一緒。
ライラさんの料理は、それはそれで美味しかったけど、作り込まれた料理というのも食べたいというのが人間だ。
凝っていて美味しそうなのは確かなんだが、量が少ないためにお腹いっぱいになれるとは、ちょっと思えない。
やっぱり、美味しい料理もお腹いっぱい食べる事で、満足感を得られるだろうしなぁ。
「申し訳ありません。旦那様方が森へと出た後、ヘレーナさんが料理を工夫し始めたのです」
「ほぉ、そうなのか。だがしかし、いくら凝っていてもこれでは少し寂しくないか? いや、作ってくれたのだから、文句ばかりというのも如何なものかとは思うのだがな?」
料理を見ていると、俺と一緒に食堂へ来たゲルダさんがエッケンハルトさんの前に進み出て、頭を下げながら説明を始める。
エッケンハルトさんは、立場に甘えず作ってくれた物に対して文句を言うような事はあまりしたくなさそうではあるが、いつも豪快に、そして多く食べる身としてはやはり物足りないと感じているんだろう。
「工夫を始めたのは、タクミ様との約束があるからと言っていましたが……」
「俺ですか?」
「はい。以前、ヘレーナさんと料理の事について何かお話をされたとか……」
「あぁ……はい。そうですね。確かに話しました」
あれは確か……前回森へ行く直前の事だったかな?
俺が屋敷へ来てすぐの頃、ヘレーナさんが独自に考えて作った料理を、俺が知っていたので悔しそうだったっけ。
もっと工夫して、色んな料理を美味しく、そして新しい料理を作りたいとも言ってたのを覚えている。
その結果が、目の前にある料理の精巧さなんだろうが……それにしても量に関してはどうしてこうなったんだろう?
いや、工夫に関してはヘレーナさんの努力が見られるからいいんだけど――。
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