ラーレが危険な動きをしました
「よしレオ、俺達も行くぞ!」
「ワフー!」
「追いかけるのー!」
「私達も出発しましょう」
「そうだな。……ティルラ、大丈夫だろうか……?」
「心配するのはわかりますが、レオ様がみてくれているのですから、大丈夫ですよ。……きっと」
「……楽しそうではありますが、怖そうでもありますわ。私は、空を飛ぶのはごめんですわね」
最初に発見した時よりは、かなりの低空を飛ぶラーレは、背中に乗ったティルラちゃんの指示で屋敷へと移動を始める。
それを追いかけるようにレオを走らせるように声をかけた。
俺とリーザは、ラーレを追いかけるためにレオへと乗っている。
他の人達はそれぞれ馬や御者台、エッケンハルトさんやクレアさん、アンネさんは馬車だ。
相変わらず心配そうなエッケンハルトさんを落ち着かせるように、クレアさんが声をかけていたが、その本人も少し心配な様子……まぁ、体験した事がないんだから、心配になっても仕方ないか。
アンネさんは、興味よりも恐怖心が勝っているようだ。
そんな様子を背に、セバスチャンさんが馬を操って馬車を走らせ始めた。
ラーレは空を飛んでいるからか、馬よりも早く飛んでいるため、レオは皆のいる馬車よりも先行して追いかける。
心配性なエッケンハルトさんがいるため、いつもより馬車も速く走らせているようではあるけど、さすがに飛んでいるラーレやレオには追いつく様子はない……どころか、引き離す一方だ。
まぁ、向こうはセバスチャンさんがなんとかしてくれるだろうし、俺達はもしもに備えていた方がいいだろうな。
「キィー! キィー!」
「結構、楽しそうにしているな……」
レオに乗って空を飛ぶラーレを追いかけていると、上空からははしゃぐような鳴き声が聞こえる。
初めて誰かを乗せて飛んで、楽しさを実感しているんだと思う。
さすがに距離があるから、ティルラちゃんの声は聞こえないが、ラーレの声を聞く限り危なげはなさそうだし、心配はないかな?
「もっと動いてみるって言ってるよー?」
「なんだって……?」
大丈夫そうだと思った矢先、ラーレの鳴き声を通訳してくれたリーザの言葉で、なんとなく嫌な予感。
飛んでいる状態で動くって……アクロバティックな飛行でもするつもりなのか?
「キィー! キィキィー!」
「……危なそうだな……レオ、飛んでいるラーレの下に行ってくれるか?」
「ワフ!」
ラーレが調子に乗っているのか、ティルラちゃんが頼んだのかはわからないが、鳴き声と一緒に高度を落としたり上げたりしているのが見えた。
当然、降下する時は速度が上がっているし、上下に体を傾ければ乗っているティルラちゃんも不安定になる。
先程よりも危険な気配を感じて、俺はレオに声をかけ、後ろからラーレを追いかけるだけでなく真下に入るよう頼んだ。
距離を離し続けていた馬車は、既にかなり離れた所にいるので、そちらからはよく見えないだろうが、エッケンハルトさんが心配したような事があってはいけない。
レオが頷くように首を動かした後、大きく一度鳴いて走る速度を上げた。
「おぉー、ママ速ーい!」
「ワフワフ」
今まで、レオに乗っている時これくらいの速度を出した事がないため、俺が背中を支えるようにして乗っているリーザは喜んでいるが……俺はそれどころではなく、ティルラちゃんが落ちないかと空を見上げ続けている。
速度は……大体急いでランジ村に向かっていた時くらいか。
ギリギリ、レオに乗っている状態でバランスを保っていられる速度だな。
空を飛んでいるからというのもあるだろうが、この速度で飛んで移動できるラーレも凄いな。
「キッキィー!」
「今度はなんだ……?」
ラーレの甲高い声が、周囲に響く。
何かをするつもりで鳴いたようだが、これ以上はティルラちゃんが危ない気がするな……。
とは言え、こちらから声をかけようにも届きそうにはないし……そう思っていると、声を響かせたラーレが、急に体を傾けた!
「あ! おいラーレ!」
「キィーッ!」
何を考えたのか、ラーレはそのままきりもみするように空中で横に数度の回転。
……軍隊の航空機が、パフォーマンスとしてやるのを見た事はあるが、あれって相当な技術が必要なはずだ。
そもそも空を飛んでいる鳥で、そんな動きを自分からやっているのを見た事がない。
空を飛ぶ事は、バランスが重要なんじゃなかったのか?
というより、鳥型なのだから当然乗っているティルラちゃんは、コックピットに守られているなんていう事はない。
むき出しの体でそんな事をしたらっ……!
レオが走ってラーレの真下まで来てもらっている状態で、真上を見上げて考えている間にも、何度か回転をしたラーレ。
背中を見せた時に、一瞬だけ見えた時のティルラちゃんは表情こそわからなかったが、必死に全身でラーレにしがみついているように見えた。
「キィ?」
「どうしたのって聞いてるみたいだよ。多分、ティルラお姉ちゃんにだと思うけど……」
「……ティルラちゃん、今頃怖がってたりしないかな……?」
「……ワフ。グルルルル………!」
真下から見ると、ラーレが首を傾げたように見えた。
リーザの通訳からすると、ティルラちゃんに対して不思議に思っているというのがわかるが……。
多分、今頃ティルラちゃん、ラーレの背中で震えていたり後悔したりしているんじゃないだろうか?
初めて空を飛んで、上下だけでも相当な事なのに、横回転までするんだからな。
飛行機に乗った事のある俺とはまた違った体験のはずだ……慣れているならまだしも、初めてでそれは恐怖を植え付けられてもおかしくない。
ティルラちゃんが好奇心旺盛でも、さすがになぁ……。
レオは、走りながら唸るという器用な事をしているが……これは後で絶対ラーレが叱られるやつだな。
さすがに今は、ティルラちゃんが乗っているから、魔法で叩き落したりできないが……屋敷についたら覚悟しておけ、というような雰囲気だ。
まぁ、上下だけなら悪ふざけのし過ぎは良くないと言うだけで済んだだろうが、横回転はなぁ。
危険なのは間違いないし、レオが言わずとも、俺やクレアさん、エッケンハルトさんがラーレに注意するのは絶対だな――。
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