森の外へ到着しました
「セバスチャン。フェンリルに会えるとは思えなかったが、思わぬ収穫だったな」
「レオ様のおかげで友好的でしたし、近くで見る事ができたのは、僥倖でしたな。それに協力関係とも言える関係も築けそうです」
「うむ。ラクトスもそうだが、他の村にもお触れを出して、今まで以上にこの森へは近付かぬようにしむけよう」
「そうですな。フェンリルを徒に刺激するのは良くありません。向こうも今回の事で、人間に敵意を向けては来ない可能性が高いですが……それも何もしなければの事。知らない人間が慌てて攻撃する事もありますからな」
「そうだ。そして、降りかかる火の粉は振り払うだろうからな。いらぬ被害を出さぬためにも……そして、フェンリルとの友好を損なわないためにもな」
「畏まりました。屋敷に戻ったらすぐに手配致します」
「うむ、頼んだ。私は本邸に戻らねばならんからな。こちらの事は任せる」
「はい。クレアお嬢様もいますし……何よりタクミ殿とレオ様がいますからな。滅多な事はないでしょう」
「だろうな。それこそ、レオ様がいる今この場所が、この国で一番安全なのではないか?」
「森の外に出れば、カッパーイーグル……いえ、ラーレもいますからなぁ。国全ての軍を集めても、とてもではありませんが……」
俺達の前には、ニコラさんを連れて、エッケンハルトさんとセバスチャンさんが先導するようにして歩いている。
クレアさんやアンネさんと違って、こちらはフェンリルに出会えた事で、施策に関して何やら話しているようだ。
とりあえずは、周辺にお触れを出してフェンリル達を刺激しないように、友好的な関係を続けるように……という事らしい。
オークの集団を軽々蹴散らしたあのフェンとリルルを見れば、迂闊に挑もうとは考えないよな。
友好関係でいられるのなら、その方がいいだろう。
あと、レオがいてラーレもいる状況が国で一番安全とも言っていたが、大袈裟……ではないんだろうなぁ。
レオとラーレを一目見て、どれだけの強さかを推し量る事はできないが、絶対に人間が敵うわけないと思わせる何かがあるような気がする。
まぁ、どれだけ強くても、俺にとってレオは可愛い相棒なんだけどな……。
「ワフ? ワフワフ~」
強さは関係なく、昔も今も、変わらず大切な存在だと伝えるように、歩きながらレオの体を撫でる。
レオは一度こちらを見て、どうしたの? というように首を傾げたが、すぐに撫でられる気持ち良さに任せたのか、尻尾を先程よりも大きく振りながら、機嫌良さそうに歩いていた。
おっと、リーザもちゃんと大切な存在だぞ? だから、尻尾を顔に被せるんじゃない、前が見えなくなって木にぶつかるから……あとレオ、もう少し尻尾の動きを抑えないと、後ろにいるクレアさんとアンネさんに迷惑だからな……。
そうして、来た時と同じように帰り道も魔物と遭遇したりする事もなく、森の外へと出た。
森の外……木々が途切れた場所では、先に向かっていたフィリップさんと執事さんが到着しており、馬車や馬の準備も整っていた。
さらに、焚き火も用意されており、そこでは屋敷の使用人さん達数人が食事の支度をしていた。
おそらく、俺達が到着するのに合わせて、昼食を頂けるようにしてくれていたんだろう。
「ラーレ!」
「キィ!」
森から出てすぐの場所で、地面へと降り立っていたラーレを見てティルラちゃんが駆けだす。
やっぱり空を飛ぶのは移動が早いようで、先にここへと到着していた。
ラーレの周囲には使用人さん達が数人いたが、それぞれフィリップさん達から事情を聞かされているんだろう……特に取り乱したりした様子や、混乱もなくラーレに飛びつくティルラちゃんを微笑ましく見ていた。
レオがいて、ここ数カ月屋敷で過ごしているからだろう、使用人さん達の強力な魔物への順応が凄い気がする……。
まぁ、怯えたり逃げ出したりするような人がいないようなので、喜ぶべきなんだろうな。
「旦那様、お帰りなさいませ。食事の支度ができておりますので、まずはそちらを……」
「うむ」
駆け出したティルラちゃんを見て、俺達が到着した事に気付いた使用人さん達のうち数人が俺達の方へと近寄る。
そのうち一人の執事さんが進み出て、エッケンハルトさんへ一礼しつつ挨拶。
そのまま、準備ができている食事を頂く事になった。
森の中を移動したりして、昼というには少しばかり遅い時間になっているためか、皆お腹が空いていたようで、すぐに食べ始めた。
野営の片付けから、森の移動と、結構な運動をしていたからな……俺も同じくお腹はペコペコだ。
特にアンネさんとシェリーは、いつもなら行儀よく食べているのに、今回はがっついている。
シェリーは森の中の移動も、小さな体で歩いていたからわからなくもないけど……アンネさん……長い髪が移動で乱れて、それがスープに触れているのにも気づかず、野菜たっぷりの料理をかきこんでいた。
それだけ、慣れない移動に疲れて空腹なんだろうと思う。
森へと入った日の夕食は、疲れのせいであまり喉を通らなかったらしく、少ししか食べなかったのに対し、今は多くを食べているのは成長とも言っていいのかもしれないな。
まぁ、横でそんなアンネさんを見て、溜め息を吐いているクレアさんがいるんだけど……。
さすがに疲れていたり空腹な事がわかっているからか、注意をしたりせず、そっとスープの中に入っていた髪をどかしていた。
「空腹も満たしたところで、屋敷へと帰るのだが……どうする?」
「どうすると言われましても……元々、ラーレは誰かを乗せて飛びたいらしいですからね。ティルラちゃんを乗せたいんでしょう」
「だが……危なくないのか? ラーレが飛んでいるのは見たが、あの高さからティルラが落ちでもしたら……」
「まぁ、確かに。飛ぶのには慣れているので、大丈夫だとは思いますけど……」
遅い昼食を頂いた後は、屋敷へと帰るだけだ。
その段階で、ラーレがティルラちゃんを乗せて飛びたいと言い出した……通訳はティルラちゃんとリーザ。
ティルラちゃんは好奇心から乗り気だし、ラーレは元々そのために従魔になった部分もある。
特に駄目だと言う理由もないし……乗せればいいと思うんだが、エッケンハルトさんはもし落ちたりしたら、という想像をしているようだ。
確かに、空を飛ぶのに慣れているラーレとはいえ、誰かを乗せるのは初めて。
しかも、俺達が発見した時に飛んでいる高さを考えると、そこから落ちたりした場合……ティルラちゃんがどうなるのかは簡単に想像できてしまう。
うーん……どうするか。
あ、そうだ――。
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