フェンやリルルとお別れの時が来ました
フェンリル達の時と同じく、最初は恐る恐るだったリーザも、ティルラちゃんに引っ張られるままラーレに触れ、羽毛の触り心地に感動している様子。
ただ、それを見ていたレオが少しやきもちを焼くように、小さく鳴いていたので俺が代わりに体を撫でて慰めておく。
大丈夫、リーザはレオにとても懐いているんだからな……何せ、ママって呼んでいるくらいだ。
それに、ティルラちゃんがラーレに初めて触れようとしていた時、レオの毛の方がいいというような事を言ってたしな。
羽毛と犬……いや、シルバーフェンリルの毛はフカフカなんだろうが、別物だろうとも思う。
森に数日滞在して、川で泳いでいたりしても汚れたりするだろうから、風呂に入れて洗ってやれば、今よりずっと触り心地のいい毛並になるはずだぞ、レオ。
とりあえず、俺に撫でられて満足したのか、レオは強めに息を漏らすように鳴いていた。
屋敷に帰ったら、もっとちゃんと構ってやろう……リーザやティルラちゃん、シェリーやラーレも混じって遊ぶのもいいかもしれないな。
……屋敷の裏庭で広さが足りるかは微妙な気がするが、もしもの時は屋敷の外でも問題ないだろう。
レオとラーレがいる以上、安全は確保されてると言ってもいいはずだから。
「タクミ様、テントの荷物を引き上げてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。すみません、自分でやりますので……」
「畏まりました、よろしくお願いします」
ラーレやとリーザの触れ合いを朗らかに見ながらレオを撫でていると、メイドさんに声をかけられた。
使用人さん達は、それぞれ引き揚げの準備をしているから、俺も手伝わないとな……自分やリーザの荷物もある事だし。
とりあえず、リーザとティルラちゃん、レオやフェンリル達、ラーレも含めてのんびりとさせておいて、俺は使用人さん達の方を手伝いに向かった。
護衛さん達が主に力仕事となるテントの片付けをしている所で、エッケンハルトさんが力任せに埋め込んだ杭を抜いたりしていたのは、ちょっとどうかと思ったけども……。
……この森に来てから特になんだが、自分を鍛えるというか脳筋に近い行動をしているなぁ。
それでいいのか、公爵家の当主様……。
屋敷や本邸に戻ったら、体を動かすよりも頭脳労働が待っているため、今のうちにストレス解消をしているのかもしれない、と思っておこう。
ちなみに、セバスチャンさんの他にもう一人いた執事さんは、フィリップさんを伴って朝食後すぐに出発していた。
俺達が森から帰る事を伝達するためだな。
人手が減った分も、俺が手伝わないと!
「さて、それではそろそろ……」
「そうだな。……随分見慣れては来たが、ここらでお別れだな」
「そうですね。ほら、リーザ?」
「……うん。またね、フェン、リルル! 絶対また会いに来るから、合図を忘れちゃダメだよ?」
「ガウ! ガゥ……」
「ガウゥ! ガーゥ……」
全ての準備が整い、森の外へと出発する段階になったところで、セバスチャンさんやエッケンハルトさんに促され、フェンやリルルとのお別れ。
フェンリル達は屋敷に連れて行くわけではないし、住処は川を渡った向こう側らしいからな。
最初は怖がっていたリーザも、俺の言葉で名残惜しそうにしながらだが素直に頷いて、フェンリル達に別れを告げる。
合図と言っているのは、妙なポーズを取らせたあれの事だろう。
フェンもリルルも、リーザの別れの挨拶やまた会いに来るという言葉に吠えて応えつつ、またあのポーズを……と少しだけ溜め息を吐くような仕草。
恥ずかしそうにしていたからなぁ……。
「シェリーはいいの?」
「キャゥ!」
「そう。……えっと、フェンとリルルでいいのかしら? ともかく、シェリーは私が責任を持って預かります。お任せください。またいずれ、シェリーを連れて会いに来ます」
「ガウー!」
「ガウウ!」
リーザの次はクレアさんとシェリー。
シェリーの方は、昨日のうちに別れをすませたらしく、クレアさんに抱かれたまま特に問題がないというように鳴いていた。
クレアさんは、シェリーをしっかりと抱いたまま、フェンリル達に向かって礼をしながら、責任を持って預かる事を約束する。
フェンとリルルは、それぞれ深く頷いた後クレアさんに任せるように、少し大きめの声で吠えた。
今生の別れというわけでもないし、またシェリーやリーザを連れてこの森に来れば再会できるだろう。
レオを連れて来れば気配でわかるはずだから、向こうから来てくれると思うしな。
そうして、フェンリル達が帰って行くのを見送ろうとしていた時、ふとクレアさんが申し訳なさそうに声を出した。
「……その、今聞く事ではないとは思うのですけれど……。知っていたらで構いません。……この森には、レオ様以外のシルバーフェンリルはいるのでしょうか?」
「ガウ?」
「ガウゥ、ガウガウ!」
「キャウー、キャン!」
「そうですか、わかりました。ありがとうございます」
そういえば、クレアさんはレオ以外のシルバーフェンリルを探しているんだったな。
以前森に来た時には、結局シェリーを発見しただけで、他に目ぼしい事はなかった。
その時に、もし何も見つけられなかったら諦めて切り替える……と言っていたから、もう気にしていないのかと考えていたけど、違ったようだ。
そりゃそうか……気になっていたのは子供の頃からの事らしいからなぁ。
シェリーの事や、広まった病の事、ランジ村での薬草畑の事などもあって、うやむやになっていたが、結局この森にシルバーフェンリルがいるのかどうか。
フェンリルなら、森の奥まで行っているだろうから知っているかもしれない……と考えたんだろう。
後で聞いた話だが、クレアさん自身、最近は以前ほど気にならなくなっていたようで、フェンリル達と会い、別れる時になって気になってしまってつい聞いてしまったとの事だ。
気持ちを切り替える……と、俺やレオと焚き火を見ながら話した、以前の事があったのと、シェリーがいてくれるおかげで、意識が変わったのかもしれないと笑っていた。
あ、フェンリル達の答えは、「わからない」という事だった。
森は広いので、フェンリル達が全てを知り尽くしているわけではないから、だと言っていたようだ。
気配が感じられればわかるので、少なくともこの近くや、フェンリル達の行動範囲にはいないだろうとの事だった。
レオの他にシルバーフェンリルがいるのかどうか、結局わからずじまいではあったが、それを聞いたクレアさんは清々しい表情をしていた。
もうこだわるのを止めるつもりなのか、それとも絶対いないと断言されず、もしかしたらの可能性が残っているからなのかわからなかったが……レオを撫でる手つきは、いつも以上に優しく見えた――。
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