ティルラちゃんが名前を考えました
「そうですね、お父様。ティルラ、以前私もお父様に言われましたが、従魔は単純に下僕というわけではありません。魔物だからといって、無理を言ったりしてはいけませんよ?」
「はい、もちろんです! シェリーと同じように、お友達として仲良くします!」
「ワフ?」
「あーっと……ティルラちゃん。レオが自分は? って聞いてるみたいだよ」
エッケンハルトさんが鋭い目で、ティルラちゃんと視線を合わせ、問いかける。
それに対し、真面目な表情になったティルラちゃんが頷いて、カッパーイーグルを従魔にしたいと答えた。
まぁ、なんとなくこうなるだろうな……というのはわかっていた事ではある。
そういえば、似たような事を剣を習う時にもやってたっけ……意外と、ティルラちゃんは一度決めた事を曲げない強い意志を持っているんだろうな。
ティルラちゃんの従魔にする理由は単純で、触り心地が良かったというもの。
それに難しい顔をしているエッケンハルトさんだが、まだ十歳の子供だし、理由としてはこんなものだろう。
これでいきなり、ティルラちゃんが公爵領や国の利益のため、カッパーイーグルを従魔に……なんて言ったら、耳を疑ってしまっていただろうしな。
……いや、ティルラちゃんはまだ、あの魔物がカッパーイーグルでどんな強さなのかまで知らないんだったか……知ったとしても、物怖じするような子ではないだろうけど。
クレアさんもティルラちゃんに声をかけ、森へ来る前に話した注意をしている。
それにも、ティルラちゃんは元気よく頷いた。
シェリーと仲良く遊んでいるのを見ていれば、特に無茶を言ったり、危ない命令を出したりはしないだろうから、大丈夫だろう。
そう思って安心したら、レオが友達の中に自分の事が出なかったと首を傾げて鳴く。
「レオ様は、友達とも言えますけど、尊敬する相手です!」
「尊敬……ティルラちゃんはそう考えていたんだね?」
「はい! いつかは私も、レオ様のように華麗に魔物を倒して見せます!」
「ワフワフ!」
「いや……それはさすがに……まぁ、シルバーフェンリルを敬うという公爵家の人間とすると、悪くないのか?」
仲よく遊んだり、レオに抱き着いていたりしていたティルラちゃんだが、いつの間にか尊敬する相手になっていたようだ。
もしかしたら、剣の鍛錬で相手をしてもらったり、エッケンハルトさんとの模擬戦に勝ったりとしていたから……なのかも?
オークを簡単に倒すところを見ていた、というのも大きいかもしれないけど。
レオは嫌われているわけではないとわかり、満足そうに頷きながらティルラちゃんを応援するように鳴いていた。
俺もエッケンハルトさんと同意見で、人間がレオのような強さを得るのは不可能のような気もするが……目標を持つというのは悪い事じゃないからな。
むしろ、父親であるエッケンハルトさんではなく、人間とは違うはずのレオを目標にするというのは、子供らしい目標なのかも。
「それではティルラお嬢様。あの魔物……カッパーイーグルに名前を付けましょう。そうして、あちらが受け入れると、従魔契約となります」
「わかりました! え? 名前ですか?」
「そうです。従魔となる魔物に名前を与え、お互いが受け入れる事が従魔契約となるのです。クレアお嬢様とシェリーが従魔契約をした時も、名を与えた時でした。……本来は、力でねじ伏せた相手に受け入れさせる、乱暴なものですがな。反抗しない魔物というのも、そうはおりませんので」
「そうなのですね。えーと……名前、名前……カッパーイーグルというのはなんですか?」
「それは種族名で、名前ではありませんな。まぁ、我々人間が勝手にそう呼んでいるだけですが……あの魔物はカッパーイーグルと言い、自由に空を飛び回り強力な魔法を操ります。大きな体からは空から急降下して、とてつもない速度で目標へ襲い掛かったりもしますな」
「わかりました。んー……名前、どうしよう……?」
横に控えて、頃合いを見計らっていたセバスチャンさんが、ここぞとばかりに従魔契約をする方法の説明を始めた。
……セバスチャンさん、狙ってたな?
従魔に名前を与える事で従魔契約となる……か。
確かにクレアさんとシェリーの時も、名前を決めた時にそうなったからな。
リーザもフェンとリルルに名前を付けたが……それは多分、リーザ自身従魔にするという意識はなかっただろうし、フェンやリルルも従魔になるという考えがなかったためだろう。
セバスチャンさんの言うように、本来が乱暴なもので、従魔契約を迫るような事なんだろうけど、今回もシェリーの時も実に平和的だ。
無理矢理従魔にして、魔物の自由を奪うというのはあまり考えたくないからな。
あと、カッパーイーグルという種族名を教えたのは、名前を付ける参考にするためかも?
この世界、強い魔物にシルバーとかカッパーとか付いてるようだけど、人間がその魔物色を見てわかりやすく付けた結果なのかもしれない。
となると……金銀銅というメダル的な考えだと、ゴールドとかゴールデンという、シルバーやカッパーの上がありそうだが、どうなんだろう?
いや、シルバーフェンリルが最強らしいから、その上は存在しないのかもな。
「ティルラ、何かいい案はあるのかしら?」
「うーん……レオ様やシェリーのようとは違って、空を飛ぶ魔物なので……えーと……」
カッパーイーグルの名前を考えて、頭を悩ませるティルラちゃん。
リーザのような安直な名前を付けるわけではないようだ……いや、あれはあれでいい名前だと思うぞ、うん。
「……んー……決めました!」
「そうか……それでは、カッパーイーグルの元へ」
「はい!」
「キィ」
しばらく両手で頭を抱えながら、悩んでいたティルラちゃん。
何か決める際のアドバイスとかしてあげられないかなぁ……と考えていたら、一人でちゃんと決めたようだ。
エッケンハルトさんが頷いて、ティルラちゃんの後ろでレオに見張られながら、立っていたカッパーイーグルへと促した。
勢いよく頷いたティルラちゃんは、そのまま後ろを振り向き、カッパーイーグルの方もいよいよ来たか……と言うように小さく鳴いた。
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