ティルラちゃんは疲れて寝てしまいました
「ふわぁ、フカフカですー!」
「キィー」
試しに魔物の毛を触ってみたらと勧めては見たが、ティルラちゃんは意外にも大胆だった。
魔物のお腹部分に見える場所へ、レオにする時と同じように抱き着いている。
何もしてこないと考えていたのか、それとも後ろにレオがいてくれるからの安心感からなのか……こういうところは、なんとなくエッケンハルトさんに似ているような気もするな。
リーザも好奇心や興味は旺盛に見えるが、スラムでの経験からなのか、意外と臆病なところがある。
慣れれば平気なんだが、初対面で怖気づいたりするようだしな。
フェンリル達との時もそうだったし、俺やレオと初めて会った時もそうだった……人見知りなのかな?
「キィー? キィ、キィ!」
「おー、包まれてますよー!」
魔物は、大胆なティルラちゃんに少し驚いた様子だったが、すぐに自分の毛を喜んでいる事に気が付き、翼で包み込んだ。
大きな鳥型の魔物に、ティルラちゃんが完全に埋まっているが、楽しそうな声とあいまって、随分と平和な雰囲気だ。
魔物の方にもティルラちゃんを襲うような雰囲気はないし、これなら大丈夫そうだな。
「ふぁ~……気持ち良くて……なんだか眠く……スゥ……スゥ……」
「キィ?」
「ティルラちゃん?」
顔も含めてほとんど魔物へ包まれていたティルラちゃん。
あくびしている声が聞こえてきたと思ったら、そのまま眠りに就いてしまったようだ。
魔物は動いたり声を出さなくなったティルラちゃんに、くちばしを近付けながら首を傾げるという器用な事をしている。
俺も声をかけてみたが、ティルラちゃんからの返答はなかった。
「さすがに、疲れていたのだろうな」
「そのようですね。慣れない森の中で野営をして、オークとも戦って……フェン達が来た時も、はしゃいでいましたしね」
「その名前で決まりなのか? まぁ、リーザが付けたのだし、フェンリル達も納得しているようだから問題ないか」
さすがに、あのまま寝かせておくわけにはいかないので、俺が魔物から受け取り、メイドさんに抱かれてテントの中でゆっくり休んでいるティルラちゃん。
従魔に関してはうやむやになっている形だが、とりあえず危害を加えないとして、魔物の夕食を現在準備中だ。
念のため、レオに見張りを任せてあるから大丈夫だろう。
リーザはクレアさんやアンネさん、それにシェリーと一緒にフェンやリルルと遊んでいるしな。
オークと戦う時や、フェン達と遊んでいる時も、元気な様子だったティルラちゃんだが、よく考えてみれば慣れない事ばかりだったから、疲れても仕方ないだろうと思う。
今回は薬草にできるだけ頼らない事としているから、俺やティルラちゃんは疲労回復の薬草を食べてはいないし、それでなくとも緊張していたので、精神的にも疲れていたはずだ。
前日もあまりよく寝られなかったみたいだしな。
エッケンハルトさんと二人、おとなしくしている魔物の様子を見ながら話す。
ちなみにフェンとリルルという名前は、リーザが付けた事と、フェンリル達も殊の外気に入ったらしく、呼ばれて嬉しそうだったから、そのままになっている。
「ティルラが起きたら、従魔の事を決めて、明日には帰る事にするか……」
「いいんですか? ティルラちゃんの方はまだしも、俺はまだ複数での戦闘をあまりしていませんが」
「あまり急ぐ事でもあるまい。今日まででタクミ殿は、十分に戦えるようになっていると確認しているからな。ティルラも同じくだ。それに、戦闘をする事を生業にするわけではないだろう?」
「確かに、そうですね」
「戦闘を生業にというのなら、私がみっちり教え込むのだがな……それはさすがに、薬草畑の事を頼んでいるのに、できないからな」
「そこまでは、さすがに……ですね。わかりました。まぁ、屋敷に戻ってからも、鍛錬は欠かさずやりますよ。ティルラちゃんもしっかりやってくれると思いますし」
「うむ、そうだな。忘れず励むように。私もそろそろ本邸へと帰らねばならん。ティルラの方は、今回の経験で一段階強くなったと思うしな。……まぁ、従魔を持つと言うのなら、ティルラに敵う者はほぼいなくなるだろう。レオ様は除くが」
「ははは、そうですね……そういう意味でも、安心できますね。ティルラちゃんが気に入ればですが……気持ち良さそうに眠っていたので、気に入ったんでしょうねぇ」
「そうだろうな……」
エッケンハルトさんと、そろそろ森での野営を切り上げて屋敷へ戻るという話をしながら、鳥型の魔物を眺める。
先の曲がった鋭いくちばし、足の爪も鋭く、レオにも負けないように見えるくらいだ。
魔法も使えるようで、どれだけの強さかははっきりとわからないが、少なくともここにいる人間では太刀打ちできないだろうな……と思わせる風格もある事から、ティルラちゃんの護衛としては頼もしく感じる。
猛禽類かぁ……シルバーフェンリルに敵わないのは、今までの様子を見ればわかるが、それを差し引いても生態系の頂点に近い存在だったはずだ。
魔法がある世界なので、何とも言えないが、それでもあの鳥型の魔物は上から数えた方が早いだろうなぁ。
「思い出しましたぞ! 思い出しました、旦那様、タクミ様!」
「おぉう……珍しいな、セバスチャンがそこまで大きな声を出すのは……」
「そうですね……というか、俺は今までそんな姿を見た事がありません」
「おっと、失礼しました。んんっ! あまり落ち着いていられる状況とは言えないのですが……ともかく、思い出しましたぞ、旦那様」
「何を思い出したというのだ?」
急に今まで何も言わなかったセバスチャンさんが、少し離れた場所から近寄って来ながら、大きな声を張り上げた。
その慌てた姿に、俺だけでなくエッケンハルトさんも驚いているし、夕食の支度をしている他の人達も何事かとこちらへ視線を向けている。
珍しいというか初めて見たな、セバスチャンさんが取り乱す姿……。
何やら思い出したらしいが、何を思い出したんだろう?
「あの魔物です。鳥の魔物で他の魔物も従えている……そして何よりも、あの毛色です!」
「ふむ……レオ様には劣るが、綺麗な毛色だな。銅色……とでも言うのか?」
「ですねぇ。銀色の毛を誇るレオ程輝いては見えませんが、それでも十分に綺麗ですね」
魔物の毛色は、赤黒くてつやつやだ。
ほとんど日も落ちているから、その輝きはあまり感じられなくなっているが、それでも焚き火の明かりを反射して十分に綺麗に見えた――。
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