ティルラちゃんと魔物が対話しました
「えっとー、人との友好を望む。そのためには誰かの従魔になる事を選んだ! だって」
「レオの通訳の時はわからなかったが、ちょっと片言に近い話し方なんだな」
「ワフゥ……」
鳥だからなのかなんなのか、リーザが通訳した言葉は、少し片言のように感じた。
全てを伝えきれなくて、レオが落胆するように声を漏らしているが、これはさすがにレオが悪いわけじゃないだろう。
ちょっとしたニュアンスを伝えるのって、普通に喋れないと難しい。
というより、喋れても難しいんだが……むしろこれはリーザを褒めるところだな……さすがだ。
「んっと、その誰かに、私を選んだのはなぜですか?」
リーザの通訳を聞いて、続けてもう一度なぜ自分なのかを聞くティルラちゃん。
「キィー……キィーキィー」
「んー、この鳥さんも人を乗せて飛んだりしてみたいってー。誰かを乗せて、高い場所の景色を一緒に見たい。って言ってる」
「そうなのか。ふむ……」
空を飛んでいるのは、ここにいる皆が見ている事だが……この魔物は誰かを乗せてみたいと考えているらしい。
さっきは自分達の住処が脅かされないように……と言っていたが、むしろそっちの方が考えとしては強いんじゃないか、という雰囲気だ。
まぁ、どれだけ強い魔物で、他の魔物を従えていたって、何かを乗せる機会なんてそうそうないだろうしな。
「でも、誰かを乗せるなら、私じゃなくても良かったんじゃないですか?」
「キィ……キィィ……キィキィ」
「あんまり重いと乗せられないんだって。飛ぶのは、バランスが重要、重いと飛べないかも。だって」
地上を走る時は、足を地に付ける事でバランスを保てるが、空を飛ぶのは不安定なんだろう。
強い風もあるだろうし、確かにバランスが重要なのかもしれない。
今ここにいる人達の中で、一目で軽そうなのがわかるのはティルラちゃんとリーザだ。
単純に、まだ成長途中で体が小さいからな。
他の女性達は……デリケートな事なのであまり触れたくはないが、ティルラちゃんより軽いという事はないだろうしな。
太っているとかそういうじゃないぞ? だからクレアさん、暗澹とした表情をしないでも大丈夫ですからねー?
「それなら、リーザちゃんでも良かったんじゃないですか?」
「私? ティルラお姉ちゃん?」
「キィ? キィキィ! キィー!」
「ワフ!」
ティルラちゃんの疑問はもっともで、体が小さく軽いという条件なら、リーザも当てはまる。
リーザがレオに乗ったまま首を傾げているのと同じように、一度首を傾げた魔物の方が慌てて何かを言いつくろうに鳴いていた……いや、鳥型だからどこからどこまでが首かはよくわからないけど……。
ともかく、その魔物の様子というより、言葉に対してレオが力強く頷いているな。
何かレオにかかわる事なのか?
「リーザ、魔物はなんて?」
「えっとねー。私がママと一緒な事が多いのを見ていたらしいの。だから、畏れ多いってー」
「そうなのか……」
確かに、リーザはよくレオの背中に乗っていたし、オークを軽々と倒して数を減らした時もそうだった。
リーザが自分で戦うようにしないためと、安全のために一緒にいるようにしたからだが、それを空から観察していた魔物は、レオに乗っているような子供にお願いするのは、畏れ多いという事なのか。
シルバーフェンリルって、本当に魔物から怖れられているんだなぁ……大きいだけで可愛いのに。
「えっとえっと、それじゃ、軽いから私を選んだと思っていいんですか?」
「キィキィ。キィー」
「んー、はっきりとした感覚ではない。でも感覚でそう感じる。だってー」
「感覚か……意外とそういうのって大事だったりするな」
魔物だからというのもあるんだろうが、理論的にというよりも感覚的にという事らしい。
本能的にそう感じるのが正しいとは言えないが、それでうまくいく事だってあるんじゃないだろうか。
とりあえず理由は聞けたし、どう考えているのかはわかったから、後はティルラちゃん次第だな。
人を乗せて飛んだり、高い場所からの景色を見せたいというのは、魔物の考えとしてはちょっと異質のような気がするが、悪い事じゃないしな。
……あれ? レオは人を乗せるのが好きだし……フェンリル達も撫でられるのを気に入っているようだ。
父フェンリルの方なんか、俺が何かを言おうとしたら尻尾を振っていたりするし……意外と魔物と人間って、親和性というか、寄り添える関係だったりするのかも?
あくまで、知性のある魔物に限られるが……オークやトロルドは、人を見ると襲い掛かるから、意思疎通以前の問題で、全てというわけではないんだろうけども。
「あ、そうだティルラちゃん」
「なんですか、タクミさん?」
「まだ従魔になっていないけど、レオがいるから安全だし……ちょっとあの翼を触らせてもらったらどうかな? それでティルラちゃんが気に入ったら、従魔にする事を前向きに考えればいいんだしね?」
「いい考えです!」
「気持ち良さそうだよねー。もちろん、ママが一番だろうけどね!」
「ワフー」
「キィ?」
ふと思い立った事……魔物は綺麗な銅色をした羽毛を持ち、艶やかな翼をしている。
羽毛と言えば、日本では布団に使われるくらいフカフカなものだ。
見た目は良くても、実際に触ったらどうなのかは試さないといけないが、もしティルラちゃんが触って気に入るようなら、従魔をする理由の一つとなるかもしれない……ちょっと短絡的かもしれないが。
ティルラちゃん、レオの毛やリーザの耳と尻尾の触り心地が好きだからな。
俺の提案に笑顔で頷いたティルラちゃんは、早速とばかりにゆっくりと魔物へと近付いて行った。
リーザはレオの背中に乗りながら、魔物の羽毛が気持ち良さそうと言いながらも、レオの背中へ頬ずりするようにして笑う。
レオもそんなリーザに嬉しそうな声を漏らしていた。
魔物の方は、何をするのかわからず首を傾げただけだったが、レオやフェンリル達に囲まれている状況で、ティルラちゃんを警戒したり害したりする様子はない。
まぁ、従魔になると指名した相手に対して、威嚇したりはしないか……俺の時は、気が付いてすぐの状況だったしな――。
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