皆を満腹にさせるための支度は大変でした
「ワフ、ワフー」
「美味しそうに食べるなぁ、レオ」
「ガウッ」
「ガウゥッ」
あれからしばらく、オークの片付けは数が多くて大変だった。
いつもなら一体ごとに処置をするんだが、今回は十体まとめてだからな……仕方がない。
もちろん、俺もリーザと一緒に手伝った。
とはいえ、できる事と言えば血抜きの手伝い程度だけど……。
肉を切り分けたりするのを担当したのは、レオとフェンリル達になんとリーザ。
獣人って血を見たりする事に、あまり忌避感はないようだ……女の子なのになぁ。
ほとんど、レオやフェンリルが食べられる部分を爪で切り裂いて、リーザは小さい部分を担当していたくらいだったが。
そういった作業をしているうちに、日も沈み始め、準備をして夕食。
オークを狩ったフェンリル達にもご馳走する事になり、全員で焚き火を囲んでいる。
まぁ、レオと親フェンリル達という、大きい体を持つ者が多かったため、急遽それ用の大きな焚き火を用意する必要があったんだが……。
夕食をがっついて食べ、美味しそうに息を漏らすレオに、フェンリル達が声を出しながら頭を下げていた。
多分だが、ありがたき幸せ……とか、絶対者から臣下にお褒めの言葉を頂いた時のような感じになっているんだと思う。
フェンリル達も、オークと戦って体を動かしたからか、レオと同じようにがつがつと焼かれた肉を食べていた。
さすがに、大量に食べるレオだけでなく、フェンリル二体も追加されたためか、今日の夕食は簡単にオーク肉を焼いただけだ。
一応、調味料で味付けはしているが、それでも簡単な料理だ。
ちゃんとした設備があるわけでも、料理のできる人が多くいるわけでもないから、とにかく量を用意しようとした結果だな。
レオだけは特別にソーセージがあるが、さすがにフェンリル達はわきまえているらしく、文句を言ったり不満そうにする事は一切なかった。
「しかしなんだな……私はてっきり、魔法を使ってオークと戦うと予想していたんだが、見当違いだったようだな」
「そのようですな。私も初めて見ましたが、フェンリルがこれほどまでの強さとは思ってもいませんでした」
「シェリーが魔法を使っていましたからね。フェンリル達も魔法を使うと考えても、仕方ないですよ」
食事中、先程の戦いを思い出しながらエッケンハルトさんが呟き、セバスチャンさんが頷いて同意する。
二人共、フェンリルが魔法を使わずとも、簡単にオーク十体を蹴散らす強さだった事に驚いている様子だ。
シェリーが戦う時、魔法を使っていた事もあって、同じように戦うと思い込んでしまっていたのかもしれないな。
「というよりだ、あの強さでさらに魔法まで使われたら、人間なぞ手も足も出ないだろう……」
「少数では絶対に敵いませんな……。それこそ、軍を動かすくらいでないと。囲んで遠くから攻撃し、弱らせてから近付いて……といった戦法くらいしか思いつきませんな」
「そうだな。私もセバスチャンと同意見だ。フェンリルを見かける事がほとんどない事から、数は多くないのが救いか。まぁ、レオ様のおかげで、この森にいるフェンリルをどうにかしようという動きにならないだけでもありがたい」
「はい。この森にどれ程の数がいるのかはわかりませんが、あのフェンリル二体でも相当な人員を投入しないといけないでしょう。フェンリルが確認されたので、いつかはその時が来るのかもと考えておりましたが……そのような事がないようで安心致しました」
「……フェンリルと戦うとなると、多くの人が必要でしょうからね。もちろん費用も」
「「……」」
エッケンハルトさんとセバスチャンさんは、フェンリルと戦うことなく友好関係を築けた事にホッとしている様子。
それもそうか、今ここにいる親フェンリル達だけでも、どうにかしようと思ったら、人間十人や二十人くらいじゃ足りないだろう。
どれだけのフェンリルがこの森にいるのかはわからないが、全てのフェンリルを相手にするとなれば、それこそ戦争とも言える規模になってしまう。
そうなれば、多くの人間が必要だし、そのための費用も必要……とてもじゃないが、貴族の中でも位の高い公爵家でも手に負えるとは思えないしな。
俺が話に入り、もし戦った時の事を考えながら声をかけると、二人共押し黙って考え込んでしまった。
多分、どれだけ必要な人や物がいるかを考えているんだろうが……二人共難しい顔をしているので、俺の想像通りあまりいい結果は考えられないようだ。
「……本当に、レオ様がいて下さって良かった」
「はい、本当に……。以前フェンリルは、本能でシルバーフェンリルに服従すると聞いておりましたが、正直半信半疑だったので。今回、それが証明されたようで……この森に来た成果は十分過ぎる程ですな」
「そうですね。俺やティルラちゃん、シェリーの戦闘体験という意味以外にも、シルバーフェンリルとフェンリルの関係がわかって良かったです」
「うむ。思わぬ収穫だな」
レオがいてくれて良かった……というのを、俺だけでなくエッケンハルトさんやセバスチャンさんも、噛み締めるようにして頷いていた。
ほんと、この世界に来てレオといられる事は、俺にとって安心できる一番の要因になっているな。
……屋敷に帰ったら、しっかり構って遊んでやろう。
最近、リーザに構う事が多くて、少しレオに対して疎かになっていたかもしれないから。
とはいえ、そのレオもリーザと一緒にいるのが楽しそうだから、あまり気にしてなさそうだがな。
リーザも一緒に、レオと遊んだりしてやればいいか。
「……これ、見張りの必要ってあるのかな?」
「ワフ?」
夕食の後は、片付けをしたり適当に雑談をしたりで、見張りの時間となる。
今夜は親フェンリル達もここで寝るようなので、レオと同じように地面に布を敷き、そこで寝てもらう事となった。
レオの許可を得て、森の近くで寝る親フェンリル達。
位置関係としては、川があり、焚き火をしている場所、テントが設置してある場所があって、親フェンリル達がいる。
さらにそこから、森があるのだが……フェンリル達がいてくれるおかげで、焚き火のある場所で人間が見張りをしているよりも、余程心強いという状況だった――。
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