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フェンリルからボス扱いされました



「キャゥ!」

「あ……もう……ふふふ、シェリーったら……」

「ワフワフ」


 頷いた拍子に、涙がこぼれてしまったクレアさんの頬を、シェリーが体を伸ばして舐める。

 泣かなくていいよと言っているようで、シェリーなりに慰めている様子だな。

 レオも、良かった良かったと頷いて声を漏らしていた。


「グレアざん……よがっだでずわぁぁぁ!」

「うぉ、アンネさん!?」

「アンネ!?」


 いつの間にエッケンハルトさんを振り切ったのか、俺の近くまで来てアンネさんが泣き散らかして叫んだ。

 ポロポロとどころではなく、滝のように涙を流してクレアさんとシェリーの事を喜んでいるようだが……ちょっと女性として危ういので、顔を隠した方がいいのでは?

 まぁ、気持ちはわかるが……。

 自分とは直接関係ない事なのに、クレアさん以上に感動を見せるアンネさんは、意外と人情家なのだろうか。

 アンネさんも、シェリーの事を気に入って可愛がっていたから、離れるのが寂しかったというのも、あるのかもしれないな。


「ほらアンネ……落ち着きなさい。色々と台無しよ? ……というより、私の感動を返してほしいわ」

「……キャゥ」

「うぅぅぅ……はいぃぃぃ……」


 クレアさんがシェリーを抱いたまま、アンネさんに声をかける。

 シェリーも、溜め息を吐くように声を漏らしていた。

 涙を流しながら、下がってライラさん達の方へ向かうアンネさんには、色々台無しにされたなぁ……。

 クレアさんがボソッと呟くのも無理はない。

 俺達から離れたアンネさんは、メイドさんによって顔を拭かれているから、もう少ししたら落ち着くか。


「……んんっ! えーと、フェンリルのお二方。シェリーは私の従魔としてこれからも一緒にいる……と決断してくれましたけれど、許可してくれますでしょうか?」


 一度咳ばらいをして、先程までの感動や台無し感を振り払って、親フェンリルへと向き直るクレアさん。

 シェリーを抱いたまま、毅然とした態度でフェンリルに対して許可を求めた。

 後ろにレオが控えているから大丈夫とはいえ、自分よりも大きな体を持つフェンリル二体に対し、しっかりと考えを示せるのは凄いな。


「ガウ……ガウガウ!」

「ガゥ!」

「えーと……?」

「問題なし! って言ってるよー」

「ありがとう、リーザちゃん。……良かったわ……」

「そんなに簡単に決めてもいいのかな? いや、シェリーがクレアさんと一緒にいるのは、いい事だと思うけど」


 ほんの数秒、クレアさんの言葉を考えるような仕草をした後、父フェンリルの方が大きく吠えて頷いた。

 それに続いて母フェンリルの方も、同じように吠えて頷く。

 頷いている時点でいい返事なのは明白だが、なんと言っているのかわからないため、首を傾げながらリーザを見るクレアさん。

 それを受けて、通訳してくれたリーザに、クレアさんがお礼を言って、ホッと息を漏らした。


 自分の娘が遠くへ行くというのに、そこまで簡単に決めてもいいのか……という素朴な疑問が沸き上がったため、俺は首を傾げた。

 シェリーの事を嫌っているわけでも、親元に戻った方がいいとは思っていないぞ? 念のためだ。

 家族を大事にする種族なら、一緒にいる事を求めようとするのかと思ったからなだけだからな。


「ガウガウ! ガウー、ガウ」

「ワフワフ? ワフ!」


 何事かを、親フェンリルとレオが話し始める。

 適宜リーザに通訳をしてもらうと、シェリーの命を救ってくれた恩人であるのだから、その従魔として従うのは当然の事……と言っていたらしい。


「瀕死のシェリーを救ったのは、私ではなくタクミさんなのですけれど……」


 なんてクレアさんは呟いていたが、屋敷へ連れて帰る事を決めたのは俺じゃない。

 あの時シェリーを連れて帰らなければどうなっていたのか……目を覚ましたシェリーはそれなりに元気だったが、病み上がりだったし、まだ子供で戦い方を知らなかったから、また他の魔物に襲われる危険があった。

 もしかすると、群れのフェンリルや親フェンリルが助けに来る方が早いかもしれないが……そういうのはたらればだからな。

 結局、クレアさんがいた事で、シェリーを連れて帰ると決めてくれたおかげで、命が助かったと考えてもいいだろう。


 それからさらに、シルバーフェンリルと一緒にいられるというのは、フェンリルとしても名誉な事らしく、むしろ親フェンリルの方から頼みたいくらいだったらしい。

 というより、クレアさんが言い出してシェリーに聞かなかったら、お願いしていたとの事だ。

 迎えに来たというのは、レオに断られたら……という事だったのかもな。


「それはいいんだけど……なんで俺に聞くんだ?」

「ガウゥ、ガウ、ガウー」

「ガフゥ……」


 最後の方は、なぜか俺の目の前でお腹を見せている親フェンリルに言われた事だ。

 どうやら、俺に対して敵意がない事を示すのと、シェリーをよろしくお願いします……という事らしい。

 とりあえずお腹を撫でてやると、気持ち良さそうに声を漏らしていた。


「ワフ、ワフワフ」

「やっぱりレオが言ったからか……」


 こちらを見ながらレオが鳴く。

 親フェンリルには、俺が頂点みたいな感じで説明したらしい。

 決定権が俺にあるわけでもないんだが……まぁいいか。

 犬や狼って、群れを形成するうえで序列を作るって言うし、そのためにレオが俺の順位を上げてくれたんだろう。

 単純な能力やら権力で行ったら、エッケンハルトさんやレオには敵わないのは間違いないんだが、細かい事は気にしなくていいか。



「フェンリルが人間の集団と馴染んでいるのは、すごい光景だな。私もそのうちの一人だが……」

「さっきまで、皆と一緒に撫でていましたからね」


 その後、親フェンリル達が来た時に中断していた昼食を再開。

 とはいえ、ほとんど食べていたからすぐに終わるはずだったんだが……そこでシェリーが親フェンリルに主張。

 美味しい物を一杯食べてと、歓待したかったらしい。

 親フェンリル達もお腹が減っていたのか、レオと俺の許可を取って昼食会に参加となった。


 わざわざ俺の許可を取らなくても……と思ったが、それも序列として必要な事らしいとは、レオから聞いた。

 今は、昼食の終わった俺とエッケンハルトさんが、少しだけ離れた場所で、大量に食べるフェンリルのために今まで散々倒したオークの肉を調理する、ライラさんを筆頭にした使用人さん達プラス護衛さん達。

 それと、美味しそうに料理を食べてご満悦なフェンリル達とシェリーという、不思議な状況を見ながら話している。

 クレアさんやアンネさんもその輪に加わって楽しそうだ。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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