リーザにも心配をかけしまいました
エッケンハルトさんに言われた通り、片方のオークにばかり集中し過ぎていたため、もう片方のオークの事をもっと弱らせる事を怠っていた。
本来なら、もっとじっくり弱らせてから実行しないといけないのに、だ。
逸る気持ちは抑えていたつもりなんだが、自分で思いついた作戦を実行したくて、詰めが甘くなっていたんだろうな。
武器の扱いだとかというよりも、もう少し戦闘に慣れてじっくりと戦う事を覚えた方が良さそうだ。
次の時は、時間をかけて慎重に戦うようにしよう。
「もう、お父様。タクミさんは怪我をしていたんですよ? ロエを使って治したとはいえ、まだ戦闘が終わった直後なんです。反省は後でもできます! 今はもう少し休ませてあげないと……」
「おぉう……そ、そうだな。うむ。――タクミ殿、戦闘直後にすまなかった。言わずにはいられなかったのだ。ともあれ、オーク二体を一人で倒したのは見事だ。ゆっくり休んでくれ」
「あはは、はい。わかりました」
ロエで怪我が治ったとはいえ、まだ疲れを感じるのは確かだ。
というか、ロエは怪我を治しても、体力までは回復してくれないからな。
レオに寄っかかったままの俺を気遣ってくれたのか、クレアさんがエッケンハルトさんを叱る。
それにたじろぎながら、謝ったエッケンハルトさんは俺の戦いを見事だと褒めてくれた。
反省する事は多々あるにしても、オーク二体を倒せた事は確かだし、こうして褒められるのはやっぱり嬉しいな。
「……しかしタクミ殿、クレアが父親である私よりもタクミ殿に対して過保護な気がするんだが……気のせいか?」
「それを、俺に聞きますか?」
「もう、お父様。いい加減にして下さい!」
エッケンハルトさんが、内緒話と言うように俺へと顔を近付けて小声で聞いて来るが、クレアさんはまだ俺の腕を持ったまま。
結局、内緒話が内緒にならず筒抜け状態でクレアさんに聞き咎められ、追い払われた。
娘から邪険に扱われるエッケンハルトさんが、少し不憫にも思ったが、本人は楽しそうだったから気にしない事にした。
「……パパ、痛い?」
「ん? あぁ、もう大丈夫だ。薬草で治したからな。痛みもないぞ」
「そうなの……?」
俺の事を心配してくれたのか、レオから降りたリーザがクレアさんの持っている俺の左腕に、そっと触れながら、窺うようにして聞いて来る。
その目には、少しだけ涙が溜まっているようにも見えた。
……ちょっと、心配させすぎたかな。
それにしても、リーザはちゃんと人が怪我をしたりすると心配できて、優しい子だなぁ……。
なんて、親バカと思われても仕方のないであろう事を考えながら、もう大丈夫な事を示すため、左腕を使ってレオの体を力強く撫でた。
レオにも、心配をかけていたようで、ジッとこちらを見ていたからな。
「良かった。パパに怪我をさせるなんて……オークは悪い奴! やっぱりリーザも戦う!」
「ワフ!?」
「いやいやいや、ちょっと待とうかリーザ!?」
俺の様子を見て、ホッとした表情をしたのも束の間、俺が怪我をいた原因であるオークに対し、敵愾心を出すリーザ。
いや、怒ってくれるのは嬉しい……すごく嬉しいんだが、それだと折角リーザが戦わないように考えた事が無駄になってしまう。
それに、そもそも怪我をしたのは俺の詰めが甘いからだし、オークと戦っているのは鍛錬のためだしな。
元々怪我をするのは織り込み済みなのだし、俺の失敗でオークがリーザに憎まれるのは何か違う気がする。
自分の事では怒ったりしないリーザが、俺の事で怒り始め、俺やレオは驚いて慌てた。
クレアさんも、どう言えばいいのか困ってワタワタしていた……ちょっと可愛い。
「いいかいリーザ? 怪我をしたのは、俺が悪かったからなんだ。本当なら怪我もせずに済んだ方法もあったのに、俺は自分で危険を冒した。その結果、俺自身の失敗で怪我をしただけなんだ。それに、自分を鍛える意味もあって戦っているんだから、オークを憎んだりリーザが戦ったりする必要はないんだ」
「ワフ、ワフ」
「そうよ、リーザちゃん。今回は怪我をしてしまったけれど、次はきっとタクミさんが怪我をする事はないわ。リーザちゃんのパパは、強くて優しい立派な人なの。オークを憎んだりせず、信じて見守りましょう? きっと、格好いい姿をリーザちゃんに見せてくれるわ!」
「……んー、そうなの?」
とにかくリーザを思いとどまらせようと、焦って言い聞かせる俺。
レオも同意するように声を漏らして頷き、クレアさんは俺に続いて言葉をかける事で、思いとどまらせる事にしたようだ。
なんとかリーザの怒りが収まって、落ち着いた様子で首を傾げた。
説得はできそうなのはいいんだが、ちょっとクレアさんからの信頼というか、期待がすごい気がするのは気のせいなのか……。
そりゃ、次戦う時は怪我をしないように、気を付けて戦おうとは考えているけど……。
心配をかけてしまっているのもわかっているから、同じ事の繰り返しは絶対しないと決めている。
クレアさんのような美人さんからこれだけ期待されたら、次はもっと格好良く決めようなんて考えも沸いて来るが……そこは引き締めて事に当たろう……うん。
張り切り過ぎてまた怪我をしたら、逆に格好悪いしな。
「ワフ?」
「ん、どうしたレオ?」
「どうしたのママ?」
「どうしました、レオ様?」
なんとかリーザを説得して、オークに怒る必要や戦う必要はないんだと納得させた後、皆で焚き火を囲んで昼食を取る。
今日倒したばかりのオークは、まだ血抜きが不十分なため、昨日までに倒したオークを使っての料理だ。
というか、大量のオークを倒し過ぎて、この人数でも消費しきれなくてどうしようと、困っている状況だ。
ある意味贅沢なのかもしれないが……いくらオークの肉が美味しくても、食べられる量には限界があるからな。
ある程度は、持てる分を持って帰って街で売るか、屋敷で食べる事にするか……という相談を昼食を食べながらしている。
ちなみに、オークの肉は魔法で凍らせる事ができるため、常温保存ではないので腐りにくいらしい。
さすがにフェンリルであるシェリーのように、一気に凍らせる事はできないみたいだが……ライラさんと一緒に来たメイドさんは、こういう事が得意らしい。
だから一緒に来てもらった、という部分もあるんだろうな。
あと、オークの肉自体がそのままでも数日は平気らしく、保存ができる食材でもあるらしい……オークって便利だなぁ。
そんな中、大皿に入った料理ソーセージ付きを食べていたレオが急に顔を上げ、川の向こう側を見て首を傾げた。
近くにいた俺やリーザ、クレアさんがその様子に気付いて声をかけた――。
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