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怪我はすぐに治しました



 予想外だったのは、興奮して必死になったオークが、方向転換をして戻って来たのが早かった事だ。

 そして、結局ディームの時に刀を抜いたように、腹を切るという結果になった……狙ってここまで同じにしたわけじゃないんだがな……。

 俺が腕でオークの腕を受け止めた事や、刀を抜いたのを見て、レオやクレアさん、リーザが離れた場所で叫んでいたが、そちらに構っていられる余裕はない……左腕がものすごく痛いし。


「はぁ……はぁ……このっ! てやぁ!」

「ギュア! ギュアァァァ!!」


 痛みなのか、ただ酸素が足りないだけなのか、乱れた呼吸のまま刀を持ってオークへと体を向け、幾度も振る。

 できる事なら、目にも止まらぬ速さで刀を振って、オークの体を切り刻む……なんていう、アニメや漫画みたいな事をして見たかったが、そんな技術はない。

 そもそも、左腕の痛みと疲れで、動きも鈍っているしな。

 だが、それでも剣より切れ味のいい刀のおかげか、右腕、左腕、右足、左足と切って深手を負わせ、最後には立っていられずに倒れたオークの胸に、刀を突き刺して止めを差した。


「はぁっ……はぁっ……なんとか、終わった……かな?」


 突き刺った刀を引き抜く余裕もなく、痛みに耐えながら顔を上げると、先に剣を突き刺したオークは仰向けに倒れて動かなくなっていた。

 ……二体とも、倒せたようだな。


「ワウー! ワウ、ワウ!」

「タクミさん!」

「パパー!」


 ホッと息を吐いた瞬間、離れた場所からレオ達が駆け寄ってくる。

 それだけ心配をかけてしまったんだろうな……。

 エッケンハルトさんは、その後ろからゆっくり歩いて来ているが、眉間に皺を寄せている……もしかしたら、危ない戦闘をした事で、怒られるかもしれないな。


「ははは、なんとか……倒せたよ。レオ、ありがとうな……最後まで俺を信じてくれて」 

「ワウ、ワウ! キューン!」

「タクミさん、大丈夫なのですか!?」

「パパ、痛い……?」


 先に駆け寄ってきたレオに、無事である事を示すために笑いながら感謝を伝える。

 あの瞬間、レオなら割って入ったうえで、オークをあっさり倒す事もできたと思う。

 それをせず、心配してくれながらも見守ってくれた事は、ちゃんと感謝しなきゃな

 多分だが、準備中によっぽどの事がないと助けに入ったりせず、見守ってくれと言っておいたから、それを守ってくれたんだろう、ありがとうな、レオ。


 心配そうに吠え、鼻から息を漏らすように鳴くレオ。

 そこから遅れてクレアさんがかけ寄って来て、声をかけられる。

 リーザもレオの背中に乗ったまま、顔を覗かせて俺の様子を窺った。


「大丈夫、とは言い難いですが……なんとか生きてますよ。いててて……」

「タクミさん……良かった……」

「クゥーン……」

「パパ痛そう……」


 クレアさん達に応えようと、無理やり笑顔で声を出してはいるが、きっと引き攣っているだろう。

 腕も上げようと思ったが、痛みで左腕は動かせず、ぎくしゃくした動きになってしまった。

 クレアさんは良かったと言っているが、その表情はまだ心配そうで晴れず、レオやリーザも心配そうだ。

 まぁ、仕方ないかぁ。


「……いててて。レオ、ちょっとすまない……」

「ワフ」

「タクミさん?」

「パパ?」


 痛みに耐えながら、心配そうなレオのお腹辺りに近付いて背中を向け、そのまま毛に包まれるようにして体重をかける。

 途中で察してくれたのか、すぐに伏せの体勢になって俺の体を支えてくれた。

 そんな俺の様子を見て、クレアさんとリーザは心配そうにしながらも首を傾げた。


「……よし。これをこうして……あー、すみません、クレアさん。手伝ってもらえますか?」

「『雑草栽培』……あ、わかりました!」


 レオに寄っかかりながら地面に座り込み、無事な右手を使って『雑草栽培』を使う。

 手早くロエを栽培して、それを摘み取り、状態変化ですぐに使用できるようにする。

 しかし、そこからは片腕だと上手く行かなかったので、クレアさんに手伝ってもらうようお願いした。

 左腕の痛みがひどく、右腕を伸ばそうにもできなかったから。


「いっ……! くぅ……はぁ……大分楽になって来ました、ありがとうございますクレアさん」

「本当ですか……良かったです……」

「随分、無茶をしたな……タクミ殿」

「あぁ、エッケンハルトさん。……無茶はそうですが、ちょっと予想よりもオークが速かったですね」


 左腕は、骨にヒビが入っているだけでなく、怪我もしていたのか、クレアさんが持ち上げてロエを当ててくれたが、沁みるような痛みを感じて息を飲む。

 数秒程で、ロエの効果が出て来たのか、痛みがスゥーッと引いて行ってくれた……ほんと、ロエはすごいなぁ。

 痛みがほぼなくなり、クレアさんにお礼をいうと、ようやくホッとした表情になってくれた。


 そこで、近くまで来て成り行きを見守ってくれていたエッケンハルトさんが、ここで声をかけて来てくれた。

 予想が外れたとはいえ、自分でも本当に無茶をしたもんだなぁ……と、怪我をしてしまった今ならよくわかる。

 戦闘中は、どうしたら勝てるかしか頭になかったので、自分がどれだけ危ない事をしたのか理解していなかった……もしかするとアドレナリンでも出過ぎていたのかな?

 離れて見ていたエッケンハルトさんからは、その事がよくわかったんだろう。


「狙いは悪くなかったと思うぞ? しかし、もう少しオークを弱らせた方が良かったな。焦ったか?」

「そう、ですね。多分、早く仕留めようと考え過ぎていたんだと思います。」

「有効な手立てを思いついたら、そればかり考えるあまりに、状況を見誤るというのはよくある事だ。まぁ、今回は反省だな。だが……狙いは良かったぞ? まさか私も、剣を抜くという動作を省略して刀を抜くついでに斬り付けるとは思わなかった」

「そこは……偶然もありますけどね。抜くついでに斬らないといけない程、近付いていたせいでもあります」

「うむ。戦闘において、自分が今できる手立てを考え、それを使って勝つ方法を見出す。……甘かった部分もあり、厳しくも言ったが素晴らしい戦いだったと思うぞ」

「ありがとうございます」


 離れた場所で全体を見渡していただけあって、エッケンハルトさんには全てお見通しだったようだな――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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