見込みが甘かったようでした
「鈍足な事が唯一の救いか……もう少し弱らせた方が良さそうだな」
思いついた事を実行しようにも、このままだと危険すぎる。
片方……できれば両方の動きをもう少し遅くするか、お互いの距離を離したいところだ。
「せいっ! くぅ!」
「ギュア!?」
「ギュオア!」
とりあえず片方のオーク、俺から見て左側のオークに見定めて、足を狙って剣を振るう。
向こうも動いているため、完全に狙い通りではなかったが、太もも辺りを浅く斬る事には成功した。
そうしている間に、もう片方のオークから間髪入れずにうでが振り下ろされた。
剣を振り切った反動のまま、斬り付けたオークの横をすり抜けて前方に飛び込み、地面に手を付いて体勢を整える。
一瞬でも動きが遅れていたら、オークの腕が俺の体に当たっていたと考えて、背中に冷たい物が流れる感覚。
やっぱり、このままじゃ数秒も余裕がないな。
幸い、斬り付けたオークは痛みに怯んだ様子で攻撃して来なかったし、少しだけ近づいて来る速度が下がった気がする。
ほんとに、気がする程度だから、深くは斬れていないようだが……。
「とりあえず、じっくり戦うしかないか……」
近付いて来るオークを睨んで、考えている事を実行するための準備に取り掛かった。
位置が変わったため、オークの向こうにクレアさん達が見え、離れているためはっきりとはわからないが、俺の事を心配してくれているようだった。
……大丈夫、きっとこのオーク達は倒せますから……向こうには届かないだろうが、そう心の中で呟いた。
「……はぁ……はぁ……大分、動きが鈍って来たな。……俺も似たようなもんだが」
「ギュッギュッギュッ!」
「ギュアァァァ!」
しばらく……といっても数分程度の間、オークの攻撃を避けつつも浅く斬り付ける事を繰り返した。
深く入り込んで攻撃をしなければ、オークの攻撃を避けるのは難しくないので、今のところ俺は無傷だ。
オーク達の方は、片方が両足から血を流しているため、痛みもあって突進もできなくなっていて、動きも遅い。
もう片方は、片足を多少斬り付けてはいるものの、突進ができない程ではない。
二体のオークは、目を血走らせており、だいぶ興奮している様子だ。
挑発し過ぎたなとも思うが、さすがに二体を同時に倒す方法がないために、こうやってじっくり力を削いでいくしか方法がない。
短時間とはいえ動き回って、荒くなった息を整えつつオーク二体を見て、そろそろかなと考える。
「ギュオアァァァァ!!」
「ギュゥゥゥアァァ!」
「っ、来た!」
俺の考えの通りという程でもないが、片方の傷が浅いオークが俺に向かって興奮状態のまま突進。
もう片方も同じように突進しようとしたようだが、両足が上手く動かないようで置いて行かれている。
今がチャンスととらえた俺は、突進して来るオークをできるだけ引き付けるため、少しだけ後ろに下がりながら、近づいて来るのを待つ。
そう……そうだ……もっと離れろ……助走距離が長い程、止まるのにも時間がかかるし、置いて行っているオークとの距離も離れる……。
「ギュオアァァァ! ギュア!?」
「っ!」
二メートル程度まで近づいたあたりで、突進してきたオークの横に向かって地面を蹴る。
たっぷりと助走していたため、方向を転換する事もできずに通り過ぎていくオーク。
俺が正面からいなくなった事に驚いた声を上げていたが、それには構わずもう片方のオークへ向かい、剣を構えて駆けた!
「ギュオォォォォ!」
「……はぁっ!」
「ギュ!?」
ひたすら俺を狙う事だけを考えているためか、通り過ぎたオークが後ろで無理矢理方向転換しようと、声を上げたのが聞こえてくるが、無視して置いて行かれた方のオークへと剣で突きを放つ。
足の怪我で思ったように体が動かず、急に俺が向かてきたため、驚きながらも迎え撃とうと腕を振り上げたが、それが降ろされる前に、オークの胸へ深々と俺の剣が突き刺さった。
「ギュアァ! ギュアァ!」
「っと!」
さすがに一撃で完全に息の根を止めるとはいかなかったのか、腕をバタバタと動かして目の前にいる俺を殴ろうとしている。
多分、咄嗟の防衛本能で動いているだけだろうが、それでもオークの膂力で繰り出される腕だ、当たれば痛いじゃすまないだろう。
一応心臓を狙ったつもりだが、甘かったようだ……そもそも、人間と似た位置に心臓があるかどうかもわからないか。
そんな事を考えながらも、すぐに突き刺さったままの剣から手を離して、オークからは届かない距離まで下がった。
「ギュオアァァァァ!!」
「っ!? うぐっ!」
後ろに下がりながらも、体を振り返りながらもう一体のオークへと向かう。
だが、そこには俺の予想よりも早く戻って来ていたオークが、既に突進の勢いのまま腕を振り上げていた。
もう一体のオークを助けるため……なんて事を考えているのかどうかはわからないが、少しだけオークの底力を見誤っていたようだ。
危ないと思った時にはすでに遅く、振り上げられていた腕は俺の体の左側へと振り下ろされた!
避ける事ができないため、そのまま受けるよりもマシだろうと左腕を持ち上げ、その腕を受け止める。
さすがの力か、受けた腕から骨の軋む音が聞こえた……これ、折れはしなくてもヒビくらいは入ったかもなぁ……ものすごく痛い。
痛みに視界がぶれて、怯みそうになる。
だがここで怯んでしまっては、オークを自由にさせて畳み込まれてしまう!
「こなくそぉ!!」
やけくそではないが、とにかく歯を食いしばって痛みに耐えながら、腰の左に下げている刀へと右手を伸ばし、引き抜く!
「ギュオォォァァァ!」
「ぐ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「ガウ!?」
「タクミさん!?」
「パパ!」
「……」
刀で腹を深く斬られたオークは、そこから血を流しながら悲鳴に聞こえる声を張り上げて、突進の勢いのまま俺の左横を通過した。
ここまで似たような事を狙っていたわけじゃないが、剣を使って一体に深手を負わせ、刀を抜いて武器を持ち替える……という事を考えたのは、ディームとの戦闘経験からだ。
持っていた剣を収め、改めて刀を抜くような隙はないため、持ち替える方法としてこうしたし、これなら危ない橋を渡る事にはなっても、確実にオークへ致命傷を与えられると考えた。
そのために片方のオークを重点的に狙って、動きを遅くするようにしたし、二体のオーク同士の距離が離れるのを待ったんだけどな……。
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