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525/1996

公爵家に尽くす理由に納得しました



「もちろん、私も例に漏れず捕まりました。そして街とは別の場所に連れて行かれたのです。そこで、全ての人間が罪を調べ上げられました。人により、どれだけの罪があったかはそれぞれで、どうなったのかは私は詳しく存じません。ですが、ほとんどが悪い事にならなかった……と聞いております」

「それは、罪を許した……という事ですか?」

「いえ、罪を償わせたのだと考えています。過酷ではあっても、衣食住が保証された場所で働いたりとか……でしょうね」


 強制労働? 間違ってはいなくとも、それに近い響きを感じた。

 まぁそれでも、働いてさえいれば食べる物があって、明日はどうしよう……という不安がない分、スラムよりマシなのかもしれないか。

 先代当主様の事は知らないが、エッケンハルトさんを見ている限りでは、そこまで悪環境ではなかったのだろうと思う。

 鞭で叩かれて、怪我をしても病気になっても、ひたすら働かされるなんてのは……多分ない、かな。


「そしてその時、私は先代当主様と初めてお会いしました。先代様は、大勢いるスラムの者達の中で、私だけ軽い罪しか犯していなかった事に興味を持ちましてな、お話しをさせて頂いたのです」


 セバスチャンさんは、周りがどうあろうとその日生きる程度の食べ物を盗む、くらいしかやっていなかったらしいからな。

 人を脅したり、物を奪い取ったりはしていなかったから、比較的軽い罪と言える。

 大きい小さい関係なく、悪い事は悪い事ではあるけどな。


「そしてその後、私は別の街にある孤児院に連れて行かれました。そこで学び、罪を償う意識を持て……と。そして、いつか成長したら、公爵家に来い……とも。別れ際、『必ず働かせられるわけではないがな? 成長を期待しているぞ』とも仰られました」

「なんと言うか、ちょっとエッケンハルトさんに似ていますね」

「ほっほっほ、そうですな。直接誰かを鍛えたくなる悪癖も、先代様から受け継いだ事の一つなのかもしれませんな」


 ようやく、セバスチャンさんの表情が笑顔になった。

 先代当主様の事は、セバスチャンさんは今でも尊敬しているのか、先程までとは違って穏やかな雰囲気だ。


「結局、先代様が関わらなければ他のスラムにいた者達と一緒に、ただ処罰されるだけだったのです。それが先代様に助けられた、という事ですな。そこから私は、孤児院で様々な事を学び、いつか必ず恩に報いようと邁進したわけですな。それから数年が経ち、あの時の言葉を信じて、私は本当に公爵家を訪ねました」


 ここで、数年前の事を忘れていたら、さらにエッケンハルトさんの父親らしい気もするが……さすがにそれは失礼か……。


「成長した私の姿を一目見ただけで、一度お会いして話しただけなのに、先代様は覚えておいでになったのです。……その時は恥ずかしながら、思わず泣いてしまいましたな」

「ははは、それは泣いてもおかしくありませんよ」

「ともあれ、そうして私は無事公爵家で雇われ、執事として一生を捧げて尽くす事にしたのですよ。おかげさまで、昔は一切考えられなかった所帯を持ち、息子も生まれ、旦那様やクレアお嬢様、ティルラお嬢様という、素晴らしい主人にも恵まれております。……まぁ、息子は少々問題ありですがね?」

「はははは! でも、確かにそんな事があったら、公爵家のためにと思いますね」


 命だけでなく、その後の人生も救われた……という事だろう。

 そこまでとなると、セバスチャンさんが公爵家に忠誠を誓う、というと少々大げさかもしれないが、それだけ尽くそうとするのもわかる気がするな。

 早い話が、どん底人生から救い上げてくれたって事だから。

 最後に、冗談めかして自分の息子さんの事を言うセバスチャンさんに、思わず笑ってしまった。


「ほっほっほ。私の事はそんなところですかな。……おっと? もうこんな時間ですか……見張りの交代をしませんといけませんな」

「あぁ、そうですね」


 セバスチャンさんも笑いながら、懐から取り出した懐中時計を見て、交代時間を過ぎているのを確認した。

 結構長い間話したからなぁ……。


「年を取ると、話が長くていけませんなぁ……」

「いえいえ、色々と聞けて良かったですよ。セバスチャンさんの事も、知る事ができましたし」

「ワフワフ!」

「お恥ずかしい限りですな、ほっほっほ」


 長く話してしまったと、苦笑するセバスチャンさん。

 俺とレオで、楽しい話をありがとうと伝えるように言っておいた。

 確かに時間は過ぎてしまったようだが、それでも面白かったし、セバスチャンさんの人となりを知れたからな。

 今まで以上に、セバスチャンさんに親しみが持てるようになったかも?


「さて、それじゃあ後はよろしくお願いします」

「ワフ」

「畏まりました。ごゆるりとお休みください」


 セバスチャンさんに挨拶をし、座って固まった体を伸ばしながらテントへと向かう。

 残念ながらレオはテントの外で寝る事になるが、気にしてないから大丈夫だろう。

 屋敷へ戻ったら、お風呂でしっかり汚れを落としてやるからな……ふっふっふ。


「グゴー……グガー……ゴッ!? グスー……」

「……これ、寝られるかな」

「御屋形様は、豪快なお方でありますからな」

「ニコラさん」

「見張り、お疲れ様ですタクミ様。セバスチャンさんは?」

「少し早く起きたようですよ」

「左様でございますか。では、某も」

「はい」


 テントに入り、鳴り響いているエッケンハルトさんのいびきに対し、寝られるかという不安を呟いた。

 俺が入ってきた事に気付いて起きたんだろう、ニコラさんから声をかけられた。

 この大きないびきの中でも問題なく寝られていたのか……すごいな。

 セバスチャンさんが既に見張りについている事を伝え、テントから出て行くニコラさんを見送った。


「グゴー……ガァー……」

「……うーん……」


 シュラフに潜り込んで、目を閉じたんだが……いびきが気になって寝られない。

 昨日は、セバスチャンさんにエッケンハルトさんが捕まって、俺が先にテントで寝ていたから大丈夫だったんだがなぁ。

 寝入ってしまえば大丈夫なんだろうけど、それまでが問題だ――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移


完結しました!
勇者パーティを追放された万能勇者、魔王のもとで働く事を決意する~おかしな魔王とおかしな部下と管理職~

申し訳ありません、更新停止中です。
夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~


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[一言] 更新有り難うございます。 先代様の良い話が台無し!?>イビキ
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