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522/1996

緊張していたのは見抜かれていたようでした



「そう言えば、タクミ様の方も最近は当初のような、緊張はなくなっておりますな」

「そうですね……ずっとお世話になっているので、さすがに……ですかね」


 クレアさん達の話から、急に俺の話になる。

 この世界に来て、さらに屋敷でお世話になってから数カ月……さすがにそろそろ慣れて来る頃合いか。

 まだまだ、知らない事の方が多いんだが。


「ほっほっほ、タクミ様がこちらに慣れる一助となれたのでしたら、良かったですよ」

「一助どころか、助けられてばかりで……公爵家の方々や、使用人さん達のおかげで、大した苦労もなく過ごせています」

「……ランジ村の時は、苦労をなさったようですがな? ほっほっほっほ!」

「ははは、そうですね。その苦労はありましたか」

「ワフゥ……」


 焚き火を挟んで向かい側に座っているセバスチャンさんと、お互い笑い合う。

 レオは、俺の横で笑い事じゃなかったんだけど……と言いたそうな視線をよこしながら、溜め息を吐くように鳴いた。

 一歩間違えば大惨事だったのは間違いないし、レオのおかげで助かったよ、ありがとうな。

 感謝を伝えるように、レオの頬を撫でる。


「最初、クレアお嬢様を助けて下さり、屋敷へ来られた際には大分緊張されていたようですがね」

「わかりますか? まぁ、あれだけ大きいお屋敷に入るなんて、初めてでしたしね。それに、色々とわからない事が起きていたので、頭の中は混乱中でしたよ。……レオもこんなに大きくなってなぁ……」

「ワフ?」

「小さくても、大きくなっていても、レオはレオだからな。それに、助けてもらっているから、ありがたいよ」


 大きい建物、という意味でなら日本の方が大きい建物は多くあった。

 だが、公爵家の屋敷のような広い敷地と、人が住んでいる大きな建物というのはなぁ。

 写真だとかではもちろん見た事はあるし、探せば日本にも近い建物はあるのかもしれないが。

 最初だけだが、レオが大きくなっていたというのも、戸惑いを大きくしていた要因の一つなのは間違いないな。


 セバスチャンさんと話しながら、感慨に耽るようにレオを撫でていると、いけなかった? と言うように首を傾げるレオ。

 どちらでもレオだし、一緒にいてくれるだけでも心強いという気持ちを込め、さらに言葉にも出して感謝を伝えた。

 最初は戸惑ったが、細かな仕草とか鳴き方とか、俺にはあまり変わったようには見えないから、すぐに慣れたしな。


「私は、レオ様が小さい時というのは存じませんが……あの時のタクミ様は、緊張と不安……それから、途方に暮れていたような雰囲気を感じましたな」

「そんなに、でしたか?」


 俺がレオを撫でているのを、目を細めて眺めながら、セバスチャンさんが初めて会った俺がどうだったかを言われた。

 あの時の自分がどういう風にセバスチャンさん達と接していたか、ある程度は覚えているが、それから『雑草栽培』だの、魔法だの、他にも色んな事があって、もう遠い過去のようにも思える。

 一応、恥ずかしくないよう俺なりに、なんともないような素振りで過ごしていたつもりなんだが、セバスチャンさんには違う風に見えていたらしい。

 

「タクミ様から話を聞いて行くうちに、納得しましたがな。……私を始め、使用人の一部は気付いていたのではないですか?」

「それは、少し恥ずかしいですね……」

「ワッフワッフ」


 頑張って取り繕っていたのに、セバスチャンさん達にはバレバレだったらしい。

 急に羞恥心が込み上げてきて目を伏せると、レオが笑うように鳴いて息を漏らす。

 ……そうだよなぁ、お前は最初から緊張からは程遠い感じで、どっしり構えてたものなぁ。

 いや、暢気な感じだったかな?

 まぁ、シルバーフェンリルであるレオが強いのだと、はっきりわかる今でこそ、誰も害を及ぼす事ができないから、緊張や身構える必要がないとわかるけどな。

 

「使用人は、お客様をもてなしたりと、様々な人間を見ていますからな。若い者はまだまだでしょうが、慣れている者なら見抜いていたのではないかと。クレアお嬢様が、人を見る目があると話しましたかな?」

「結構な人にバレてそうですね。えーと……そんな事を聞いた覚えもあります。確かあれは、屋敷に行ってすぐだったので、セバスチャンさんは一緒にいなかったですかね」

「そうですか。クレアお嬢様は屋敷で働く者のうち、本邸から来た者以外の全員を、雇う前に必ず一度見ます。以前話した通り、屋敷で働く者の多くは孤児院で育った者なのですが、まず働く年齢になった者を見て、雇うかどうかを決めるのです。本邸の方では、一部の者だけですがね」

「確か、ミリナちゃんも屋敷で働くかどうか……だったとかでしたよね?」

「そうですな。あの子は、クレアお嬢様も良しとしたのですが、本人が了承しませんでした。当然、屋敷で働くかという誘いを断っても、公爵家は悪く思ったりはしません。どのように生きていくかは、その人によって様々ですからな」


 確か、ライラさんやゲルダさんも、孤児院出身だったはずだ。

 本邸でもやっていて、屋敷の使用人のほとんどという事なら、最低でも数年はそうしていたという事か。

 クレアさんは、初めて会った時に俺やレオを見て、危険な相手と思ったりもせず、すんなりと気安く接してくれた事から、人の本質を見抜く才能があるのかもしれないな。

 ミリナちゃんも、結局は使用人ではなく俺に雇われる形で薬の勉強をする傍ら、ライラさんからも色々教えてもらっているし……クレアさんが良しとする人は、皆真面目に頑張ってくれる人ばかりなんだろう。


 ……そういえば、ニックの事もクレアさんはある程度見ていたはずなのに、俺が雇う事に対して何も言わなかったっけ。

 あいつは、ちょっと運が悪かっただけで、見た目によらず真面目な性根をしている……と見抜いていたのかもしれない。

 さすがに、初めて会った時にはそうは感じていなかったんだろうがな。


「クレアお嬢様が人の内面を見て、その方がどういう人物なのかを見抜くのとは別に、私共使用人は、人が取り繕っている表面を見抜く事に努めています。それは、使用人としてお世話をする相手が、何を求めているのか、何をしようとしているのかを察知するためですな」

「お客様もそうですけど、仕えている主人にあまり失礼な事はできませんからね……」



読んで下さった方、皆様に感謝を。


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夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~


― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……そう言えば、稀有な人材を引き寄せますね? 流石主人こ……あれ? 実はレオちゃんが主やk……!?
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