夜の見張り中に感謝を伝えられました
「旦那様は、特に喜んでおられますよ。年齢こそ離れておりますが……友人、いえ……親友を得たような喜びようですな。剣を教えているとはいえ、普段の旦那様であればタクミ様の前であんなに油断をしたりはしませんので。まぁ、おかげで悪癖を露呈しているわけですが……」
「あははは……まぁ、強制まではされていませんからね。平気ですよ。……そういえば、初めて会った時のエッケンハルトさんは、もう少し印象が違いましたかね?」
「そうですな。タクミ殿の事を気に入っていたのは間違いありませんが……今ほど油断をしていませんでした」
親友……とまで言ってくれるのは嬉しい。
今まで、友人が少ない人生だったからなぁ……もちろん、レオがいてくれたから、寂しくはなかったが……いや、周囲から見ると寂しい人間だったのかも?
ともかく、年齢は確かに離れているが、エッケンハルトさんは気のいいオッチャンというか、一応敬語を使って話しているが、気軽に話をしたりできる人物でもある。
それに、ラクトスへ内緒で行くという……男友達にありがちな悪戯のような事を、一緒にやったのも大きいかもしれない。
男って結構単純で、ちょっとした事をいっしょにやって意気投合しただけで、割と仲間意識をもったりするものだしな。
だけど、思い返してみると初めて会った時、俺も緊張していたのは確かだが、エッケンハルトさんの方も今とは違ったように思う。
気に入ってくれてはいただろうし、剣を教えてくれてはいたが……まだ打ち解けていなかった、というのが近いか。
「ワインの事、ランジ村の事、病の事などがありますが……やはり屋敷を抜け出して、ラクトスへ行った時前後からですかな。特に楽しんでいるように感じたのは」
「あはははは……」
セバスチャンさんも、俺と同じ事を考えていたようで、軽くジト目をしながらあの時の事を話した。
……俺が誘ったわけじゃないんだがなぁ。
「まさかリーザ様、獣人の子供を連れ帰って来るとは思ってもいませんでしたが……それはともかく、あの時街を一緒に回った事が一番影響を与えているでしょうな。あるいは、クレアお嬢様がタクミ様の前で叱った事で、威厳を保とうという気がなくなったのかもしれませんがな、ほっほっほ……」
「ははは、それは確かにあるかもしれませんね」
冗談を交えるセバスチャンさんと一緒に俺も笑う。
最初にクレアさんがエッケンハルトさんを叱ったのは、いつだったか……。
アンネさんを連れて来た時、俺に内緒で鍛錬の一環として、例の店のゴロツキを対処させた時もあったっけな。
ラクトスの街へ行った時もそうだし、部屋でクレアさんといい雰囲気になった時に覗いていた、というのもあったなぁ。
他にも色々と……こうしてみると、エッケンハルトさんはクレアさんに叱られたいがために、妙な行動をとっているんじゃないかと、構って欲しい面倒な父親像になってしまうな……。
なんとなく最近のエッケンハルトさんを見ていると、間違っていない想像のような気もするが、残り少ない威厳と面目を保つため、心の中では違うと否定しておこう。
「旦那様は昔から、街へ遊びに行く事を楽しんでおりましたが……タクミ様とご一緒できた事で、ようやく仲間を得られたのでしょう。旦那様が繰り出す街と言っても、そう遠くはいけませんし、公爵家の跡取り……街の者は旦那様の事を知っておりましたし、誰かと友人のように過ごすという事はできていないようでしたから」
「……そうですか」
確か、ラクトスの街へ行った時にエッケンハルトさんが言っていたっけ。
若い頃は街へと遊びに出ては、色んな物を見たり食べたりしていた……とか、そんな感じだったと思う。
エッケンハルトさんがいたのは、おそらく本邸の近くの街だろうから、ラクトスではないだろうし、本邸があるという事は公爵家の影響力は強い。
屋敷で暮らすクレアさんが、ラクトスの街に住む人たちに知られている事が多いように、エッケンハルトさんを知らない人は少なかったんだろうな。
そして、公爵家の跡取りと親しく……というより友人のように付き合うのは畏れ多いと、対等な関係での友人もできなかったのかなと想像する。
……意外と、俺よりもエッケンハルトさんの方が寂しい人だったのか……いや、向こうは結婚して娘も二人いてちゃんと家庭を築いている分、俺の方が寂しいな。
「……でも、レオがいたから、平気だったんだぞー?」
「ワフ? ワウ!」
「タクミ様、どうかされましたか?」
「おっと、いえいえ、なんでもありません。気にしないで下さい」
いけないけない、自分に友人が少なかった事を思い出して、レオに縋りついてしまった。
一瞬だけレオが戸惑ったが、力強く頷いてくれたし、もう大丈夫だ。
セバスチャンさんに首を傾げられたが、誤魔化すように首を振ってなんでもないと伝えた。
レオの他にも、会社に同僚とかいたしな……休憩時間によく話していた……それだけだから、友人と呼べるかどうかは怪しいが……。
いかんいかん、変な事を思い出している場合じゃないな……またセバスチャンさんからおかしく見られてまうから、そろそろこの事を考えるのはやめないと。
「はぁ……まぁ、何もないのであればよろしいのですが……。ともかく、旦那様もクレアお嬢様も、そしてティルラお嬢様も、タクミ様とレオ様という、気を許せる相手ができた事、私だけでなく使用人たちが喜んでおりますよ」
「あははは、まぁ、誰かを喜ばせるために、親しくなったわけではありませんが……喜んでもらえているなら、何よりです」
役に立っている、というのとはちょっと違うか。
それにしても、クレアさん達は本当に、使用人さん達から慕われているなぁ。
身分差をあまり気にしない人達だし、理不尽な事で怒る事もないうえに、聡明で見目も麗しい。
さらに言えば、堅実に領地を治めている公爵家で、使用人には孤児院出身者も多いが、身寄りのない人にも分け隔てなく接する…………理想的な上司ともいえるかもしれない。
そりゃ、皆クレアさん達を慕うよなぁ……。
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