もし発見した場合の獣人保護を頼まれました
「では、屋敷に戻りましたら本邸へそのように要請致しましょう。外部から情報を集める準備も、同様に」
「うむ。リーザに限った事ではないからな。もしかしたら、探せば領内でも他に獣人がいるのかもしれん。確認はされていないが……我々が、全ての街や村に住む者達がどうやって暮らしているのか、把握しているわけではないからな……」
「隠れ住んでいる場合も、あるかもしれませんからな」
「そうだな。もし発見した時に、獣人の事を知っているのと知らないのでは勝手が違うからな。――それでだ、タクミ殿」
「はい?」
情報を集めるのは、リーザのためだけではないようだが、きっかけはリーザからだ。
人間の事なら、ある程度わかっているだろうし、何かがあっても過去の事例から判断できる。
だが獣人の事を知らなければ、どういった事したらいいのかすらわからない可能性もある事から、情報を集めるのは俺としてもありがたい。
もしかしたら、獣人特有の病気とかがあったりするかもしれないしな。
エッケンハルトさんとセバスチャンさんで、情報を集める事を決定し、本邸に戻る前に先んじて連絡を取る事が決まったようだ。
スラムにいたリーザのように、何かしらの理由で公爵領で暮らす獣人というのがいても、おかしくはない。
積極的に探すかどうかは、エッケンハルトさん次第だとは思うが、そういった獣人を見つけた時にどうするかを決めるためにも、情報は必要だな。
二人の話に頷いて納得していると、エッケンハルトさんが俺に視線を向けて声をかけられた。
話の流れから、獣人に関する事だろうとは思うが……何やら嫌な予感が……。
「さすがにもう、ラクトスに獣人はいないとは思うが……周辺で獣人を見つけた場合、保護してはくれないか? レオ様は獣人に対して特別な物を感じているようだし、リーザもいる事だしな。同族がいた方が、安心するだろう」
と思っていたら、獣人の保護を頼まれてしまった。
まぁ、リーザのようにイジメられていたり、迫害されているケースは多くはないと思いたいが、何かしら不遇の扱いを受けていたら助けたいと思う。
リーザも、周囲が自分とは違う人間ばかりよりも、獣人がいてくれた方がいいだろうしな。
「あぁ、はい。それくらいなら……できる事は多くないとは思いますが……」
「タクミ殿にできない事は、ここにいる他の者の誰にもできぬよ。なぁに、もし手に負えないことがあるのであれば、クレアを頼ればいい。クレアも、タクミ殿に頼られると喜ぶからな」
「……そうなんですか?」
「お父様! その言い方はどうかと思います! んんっ! ――タクミさん、私が力になれる事があれば、何でも仰って下さいね? 私も多くの事ができるわけではありませんが、どうにかしてタクミさんの力になれるよう、頑張りますから!」
「……あ、はい。その時は、よろしくお願いします」
「ほっほっほ……」
「若いな……」
俺にできる事は、せいぜいが一時的に保護をしたりするくらいだと思うが……あと、薬草とかを使うくらいか。
エッケンハルトさんが言うのは、それとは少し違うニュアンスのような気がする。
ともあれ、クレアさんを頼り過ぎるのはよくないので、どうしても自分だけで解決できなければ、となるだろう……とは思う。
けどクレアさん、俺が頼ってしまって迷惑じゃないだろうか?
本当にエッケンハルトさんの言うように、頼って喜ばれる事があるのかどうか……そう思って、クレアさんに尋ねてみる。
少しだけ頬を染めた様子で、エッケンハルトさんの言い方を咎めた後、咳払いをしていつもの眩しくすら思える笑顔で了承してくれた。
やっぱり優しい人だ。
ほんの一瞬だけ見惚れてしまいかけたが、すぐに気を取り直してお願いするように頭を下げた。
危ない危ない、いきなりクレアさんに見惚れてボーっとしてたら、変に思われてしまう。
格好つけたい……とまでは思っていないが、できるだけクレアさんに変なところは見せたくないからな。
……どうして、クレアさんにだけそう思うんだろう?
と、首を傾げそうになるが、俺とクレアさんの様子を見てニヤニヤしているエッケンハルトさんとセバスチャンさんの二人に気付き、思考を打ち切った。
ちなみにフィリップさんは、若いなぁとか、自分だったらもっと積極的にとか呟いていた……余計なお世話ですよ!
「……おっと、話が逸れたな。それで、リーザの事だが……どうする?」
「んー、心情としては、あまり戦わせたくありませんね。戦える事がわかっていてもです。やっぱり、小さい子が魔物に向かって行くというのは、どうしても……」
「タクミ殿の考えはわかる。私も同様だな。しかし、先程の戦いでリーザも戦える事を自覚しただろうし……どう断るか……」
「いえ、リーザちゃんは自分の我が儘を通そうとする子ではないので……素直に、今回はタクミさんとティルラ、シェリーを鍛えるためと話せば、わかってくれるのではないですか? オークが多い森とはいえ、限りはありますし……食料という意味では、今日倒したオークだけでも十分ですし」
「「……」」
エッケンハルトさんをジト目で見ていると、話を唐突に戻された。
まぁ、追及したりすると変な方向へ行きそうだったから、それでいいと思うけど……。
とにかく、リーザをどうするのかを決めてしまわない事には、この会議を解散する事はできない。
とはいっても、リーザがオークと戦う事を止めるにはどうしたらいいか……。
エッケンハルトさん達は、俺と同じように必要もないのにリーザが戦うという事は歓迎していない様子だ。
さっき戦って見せた限りでは、オークにリーザがやられる可能性というのは低いだろうが、それでも小さな女の子が魔物に向かうのを見ているのはなぁ。
ティルラちゃんでも、ちょっと……と俺自身が思っている部分があるのに、さらにリーザまでとなると……。
難しい顔で顔を突き合わせて考える俺やエッケンハルトさんに、何の気なしに言い放つクレアさん。
思わず、エッケンハルトさんと目を丸めて黙ってしまった……。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
活動報告にて、書籍の挿絵を一つ公開させて頂きました!
大きくなったレオに、ジッとと見つめられて見て下さい!
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。