リーザとオークの戦闘が始まりました
「とりあえずの間に合わせですからね、仕方ないですよ。オークとの戦闘が終わったら、すぐに着替えさせますから」
「それがいいな。まぁ、ここにいる者達に変な事を考える者はいないだろうがな。私も含めて」
念を押すように言うエッケンハルトさんに頷き、オークが来るのを待つ。
スカートだと動きにくそうではあるが、大体レオに乗っていたりするので、穴隠しがある分そっちの方がいいだろう。
リーザ自身は、そういった情緒がまだ育っていないらしく、気にしていない様子だったが……周囲が気にしてしまうというのは、過剰反応なのだろうか……?
風呂に入るのも、最初は俺と一緒にって言って気にしていなかったし、小学生にもならない年齢なら仕方ないか。
「っ、来ました!」
「そのようだな……」
「……」
「ワフ……」
「「リーザちゃん……」」
ガサガサと、草木を揺らしながら音を立ててフィリップさん達が森の奥から抜けて来る。
それに素早く反応したのはティルラちゃん。
自分が戦う直前もそうだったが、妹のように可愛がっているリーザが戦うとあって、自分の事のように緊張しているようだ。
エッケンハルトさんがティルラちゃんの言葉に頷き、俺は黙ってリーザに視線を送る……どうか、怪我をしませんように……。
レオも同じように、小さく鳴きながらリーザを見ている。
クレアさんとアンネさんは声を揃えながらも俺と同じ事を願っているのか、胸の前に両手を組んで祈るように見ていた。
「リーザ様、大丈夫ですか!?」
「うん、大丈夫!」
「それでは、お任せします!」
「ギュオ?」
音を立てつつ、オークの気を引いていたフィリップさん達は、リーザに一応の確認をし、頷くのを確認してから一気に横を走り抜けた。
森の方からは、ゆっくりとフィリップさん達を追ってきたオークが一体、姿を見せ、リーザを見て首を傾げた。
標的が急に小さな女の子に変わったから、不思議に思ったんだろう……無事、フィリップさん達はオークを一体にする事ができたうえで、あまり興奮させていない様子だ。
……俺の時も、同じように興奮させないで欲しかったなぁ、と思うのは後の祭りか。
「……リーザ!」
「ガウ!」
「うん、パパ、ママ、よく見ててね!」
「ギュ!?」
俺が後ろから鋭く声をかけると、それに合わせてレオも吠える。
こちらを振り向く事すらせず、俺達に声をかけるだけにして、オークへ向かって駆けた!
その手には、逆手に持ったグルカナイフがしっかりと握られている。
オークの方は、急に標的が変わったうえ、その相手が駆けて来る事に戸惑った様子だったが、すぐに体勢を整え、迎撃をするつもりのようで、ティルラちゃんと戦ったオークのように、右腕を大きく振り上げようとしていた。
「リーザも、パパやママみたいに格好良く倒すの!」
「ギュオォ!?」
三度、オークの驚くような戸惑うような声。
それもそのはず、リーザは叫びながらも信じられない速度でオークへ肉薄。
駆け出した時は結構距離が離れていて、大体数十メートルくらいはあったはずなのに、オークが戸惑いから正気に戻って腕を振り上げるよりも速く、懐へと潜り込んだのだから。
エッケンハルトさんとの腕試しの時は、スカートが邪魔だったからなのか、体の動かし方が慣れていなかったからなのかはわからないが、今の動きはあの時より速かった。
もしかしなくとも、直線距離での移動はシェリーより速いな……あちらは太っている事が鈍くしているのかもしれないが。
「速い!?」
「やぁ!」
「ギッ!」
横でエッケンハルトさんがリーザの動きに驚くのと同時、懐に潜り込んだリーザが呼気を吐きつつ気合のこもった声を出し、逆手に持ったナイフをオークの右肩口へと突き刺した。
痛みから声を上げたオークは、これで振り上げようとしていた腕を上げる事ができなくなった。
「ギュオォォォ!!」
「んー! んー! 当たらないの!」
苦し紛れか、リーザを突き飛ばそうとしたのか、オークが無事な左腕を横に振るが、突き刺したナイフを両手で引き抜いたリーザが、軽く後ろに飛んで躱した。
引き抜くのに少し手間取ったのは、深く突き刺し過ぎたからだろうか。
少しヒヤッとしたが、オークの左腕はリーザの鼻先すらかする事もなかったように見えたので、大丈夫そうだ……ふぅ。
「ギュ! ギュ! ギュオァァァァ!!」
ナイフを無理矢理引き抜かれたオークは、肩口に広めの刺し傷ができ、そこからはだらだらと血が流れ出ていた。
上がらない右腕と、痛みからオークが叫び、豚の顔を真っ赤に染めて興奮し始める。
ダメージは与えたが、興奮させるだけの結果だったか?
「たぁ!」
「ギュゥッ!!」
「これで、危ない事ができないでしょ!」
興奮しているオークに向かい、高くジャンプをしてナイフで斬り付けるリーザ。
それは、確実にオークの左腕を深く斬り裂いた。
さすがに、武器が小さいから切断とまでは行かないが、神経まで切れているくらい深々と斬ったようで、オークはだらんと腕を垂らした。
興奮させるだけと考えてたのは、俺の勘違いだったらしく、リーザはしっかりとオークの戦闘力を削ぐ事を考えて攻撃していたらしい。
だが、腕がなければ……。
「フー! フー! ギュゥゥゥゥ!!」
腕が使えないのならば、足を使えばいい。
オークがそう考えたのかは不明だが、興奮と痛みで激しく息を吐いていたオークは、急に前傾姿勢になって頭突きでもするのかというくらいの体勢でリーザへ向かって突進をした。
斬り付けた後、すぐに距離を取っていたリーザだが、両腕が使えないとしてもオークの突進は健在。
速度こそ遅いが、それに当たったらリーザの軽い体は簡単に弾き飛ばされてしまうだろう。
「それはもう、パパ達の時に見たの!」
「ギュオ!?」
「この! ……もう一回!」
「ギュアッ!! ギュアァッ!!」
リーザは先程の俺達が戦う場面を見て、想定していたんだろう……大きく右横へ飛んで、オークの突進を避けた。
オークの突進は重量から、当たれば痛いだけで済まない状況になるだろうが、急な方向転換ができないようで、横に移動するだけで簡単に避けられる。
戦闘中にその事を意識していて、距離があれば……だがな。
でもリーザは、多少距離を離していたとはいえ、そもそものリーチが短い事があって、数歩分の距離しか離れていなかった。
多分、二メートルくらいだろうと思うが、それだけしか離れていなかったら、すぐに避ける判断をする事は難しそうなんだが、リーザは想定していたために簡単に避けられたようだ。
もちろん、リーザ自身の素早さも手伝っての事だとは思うが、初めての実戦でここまでやれるのは、獣人だからなのか、リーザの才能なのか。
ちゃんと鍛錬をしたら、簡単に俺より強くなりそうだなぁ……。
なんて俺が考えている間に、横に体ごと飛んで避けた後、地面に足が付いてすぐその足で地面を蹴り、通り過ぎようとしていたオークに向かって再び飛んだ――。
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