四人で話し合いました
「獣人というのは、人間よりも身体能力に優れていると聞き及んでおりましたが……それにあれは……」
「セバスチャンも感じたか?」
「公爵様、私も確かに感じました。あれは魔力を使っているものだと思われます」
「魔力、ですか? 確かに、走っている時のリーザは、少し不思議な感じがしましたが……」
エッケンハルトさんが、セバスチャンさんと顔を見合わせて確認。
フィリップさんも二人が話している事に同意しているが……魔力か。
走っている時のリーザは……なんというか、いつもと違う不思議な感じのようには見えた。
見た目が変わったとか、何かの変化がはっきりと目に見えたわけじゃないから、どう違うのかわからないが、もしかするとあれが魔力を使っている状態なのか?
「タクミ様は、まだ魔法を……魔力を使用するという事を始めて、あまり時間が経っていません。はっきりとわからなくても無理はないでしょう」
「魔力を使用するって、わかるものなんですか?」
「そうですな……魔法の行使になれると、魔力に対して慣れると言うのか、感覚が強化されるのです。そして、その感覚が自分以外の者が使う魔力を感知するようになります」
「俺には、まだその感覚が未発達だという事ですね」
「はい。というより、少しでも違和感を感じたのなら上出来かと。感覚とはいえ体の器官のようなもので、短時間で発達するものでもありません」
「はっきりとわかるようになるには、大体一年程度だったか?」
「近くにいる者に対しては、そのくらいでしょうか。熟練の者であれば、限界はありますが多少離れていても感知できるようです。これは日常的に魔法を使い、さらに素質に恵まれたり魔力が多い者に限られるようですが……」
魔法を使用するうえで、魔力を体内で感知しなければならない。
確か、初めてセバスチャンさんに魔法を習った時、体内の魔力をはっきりと知覚するのに時間がかかる人もいるのだとか。
そういえば、初めてラモギを乾燥させるという『雑草栽培』を使った時も、魔力が感知できなかったとか言っていたっけ。
ある程度慣れている人なら、魔力を使っている事を感知できるから、魔法ではなく『雑草栽培』という、ギフトを使ったのだと予想できたんだろう。
それがはっきりとできるようになるのも、一年くらいかかるようだし……これからもっと練習したりしていかないといけないな。
離れた人が魔法を使う事の感知はまだしも、近くの人が魔法を使う瞬間というのがわかれば、色々と役に立ちそうだから。
とは言え、戦闘を生業にする気もないから、役に立つ事があるのかどうかわからないけどな。
「タクミ殿の事はともかく、リーザだが……やはりあれは魔法を使っていたのか?」
「魔力を感じたのなら、そうなのかもしれませんけど……リーザ自身は、魔法の事を知りませんでしたよ? 以前俺がクレアさんに魔法を教えてもらった時も、よくわかっていないようでしたし。イザベルさんによれば、魔法そのものは使えるようですけども」
エッケンハルトさんが首を傾げるが、俺にはリーザが魔法を使えるようには思えない。
というより、魔法の事自体知らなかったようだしな。
呪文を唱えるような事はなかったし、それに感知できるくらいの魔力とはいえ、魔法を使っているとは言えないんじゃなないかな……?
「獣人特有の魔法、ということかもしれませんな」
「獣人特有?」
セバスチャンさんに頭の中で考えていた事を否定される。
というより、獣人特有の魔法ってなんだ……あー、確かイザベルさんが人間とは違う魔法がって言ってたか。
そのうちセバスチャンさんに聞いてみようと思っていたが、あれから魔法に関する事は話に出なかったし、ディームの事があったから、頭の中から抜け落ちてたな……。
「獣人と人間の使う魔法と言うのは、少々違うのです。いえ、効果は似たようなものもあるようですが……はっきりと違うのはその使用法、ですかな」
「使用法が違う……というのは?」
「一番の特徴は、呪文がいらない事ですな。タクミ殿には説明しましたが、人間は通常呪文を唱え、効果を決めて使用します。ですが、獣人はその必要がないようなのです。ただ、魔力は使うので、当然先程言ったように感知はできます」
「呪文がいらない……だったら、リーザは知らずのうちに魔法を使っていた、と?」
「その可能性が高いかもしれません。私も詳しくはないので、はっきりとは申せませんが……その事で獣人の国との戦争時、随分と苦労させられた模様ですな。こちらは無詠唱ができる者以外は呪文を、向こうは基本的に呪文はなし……差が出るのは当然です」
呪文を唱える必要がないという事は、それだけ魔法を放つのに有利になる。
お互いが魔法を撃ちあう時に、悠長に呪文を唱えているよりも、すぐに魔法を発動をさせられるからな。
人間が無詠唱を習得するには、それなりに訓練をしないといけないらしいし、誰でも扱える事でもないんだろう。
そうなると、同じ数だけの魔法を使って攻撃できる者を集めたと仮定するなら、獣人の方が有利になるのは当然か。
「魔法を使える獣人は多くなく、そのうえこちらの方が全体数で上回っていたので、負ける事はありませんでしたが……」
「まぁ、今は戦争の事よりもリーザだな。結局、あれは魔法だったのか? しかし、無意識に使う事ができるものなのかどうか」
「私も、獣人に詳しいわけではないので、はっきりとは申せませんが……魔法の使える獣人は、無意識に習得する事もあるのかもしれません。それが、他の獣人が使っている姿を見て習得するのかもしれませんし、ある程度成長したらなのかもしれません。なんにせよ、先程の魔力と動きを考えれば、魔法を使っている以外に考えられないかと」
「……そうだな。タクミ殿程ではないが、私もリーザを見ているが、あれ程の動きを見せる事は今までなかった。というより、戦い慣れておらず、ティルラよりも小さいリーザが、あれ程動けるのは魔法があってこそだろう」
どうしてリーザが魔法を使えるのかは、獣人の特性にも繋がる可能性があるらしく、はっきりとはわからないらしい。
だが、エッケンハルトさんへ向かって行った時のリーザは、間違いなく魔法を使っていたということで 結論が出そうだ。
リーザが魔法を使えた……という事自体は、それはそれでいいんだが……。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
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説明好きな老紳士となっております!
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