腕試しをする事に決まりました
「オークはさっきパパ達が倒したのを見たから、多分大丈夫! えっと……これもあるからなんとかなると思うよ! ……多分」
俺達が戦った時の事を、遠目であってもしかり見たから大丈夫と言うリーザ。
さらに、ラクトスに行った時、リーザが欲しがったので買ってあげたナイフ……リーザの手には大きく見えるグルカナイフを、鞘に入れたまま持ち上げて笑った。
最後には、少しだけ自信のなさそうな呟きを漏らしたが、オークと戦うという意思は十分なようだ。
意思が十分であっても、リーザが危険な目に合うのは嫌だし、させたくない。
……どうやって諦めさせるべきか。
やる気になっているリーザを、ただ許可をしないだけで戦わせないというのは、やる気を削ぐというか押し付けのようになって嫌だし……でも危険な目に合わせないためには、強硬にでもオークに向かわせないようにするのも、親代わりの役目のような気もするし……。
「……本当なら止めるべきなんだろうが……リーザは確か、レオ様やシェリーが走り回っているのに付いて走っていても、あまり疲れは見せていなかったな……。訓練された人間でも、あれだけ走ればかなり疲れるはずだが……いやしかし……」
「……エッケンハルトさん?」
「ワフ?」
リーザとオークが戦うのを、どうやって止めさせたら傷つかないかと考え、頭を悩ませていた俺とは別に、エッケンハルトさんも何事かを考えてブツブツと呟いていた。
何となく聞こえてくる内容としては、許可を出すか出さないかで悩んでいるようにも思うが……ちょっと嫌な予感。
エッケンハルトさんはクレアさんやティルラちゃんの父親で、好奇心旺盛な娘達の元凶というかなんというか……。
無鉄砲すぎると言う程ではないんだが、それでも面白いと思う事を試してみたいと考えるところがある……気がする。
そのエッケンハルトさんだから、リーザとオークを戦わせるとどうなるかを見たがる……なんて事を考えないかと不穏な気配を感じて、レオと一緒に声をかけた。
「……タクミ殿やレオ様には悪いが……そうだな。うむ、タクミ殿?」
「はい……」
「リーザに関してだが、オークと戦ってみるのも……一つの経験としていいのではないか?」
「……経験としては確かに、そうです。ティルラちゃんもそうでしたし。ですけど、それはしっかりと鍛錬をしたり武器の扱いを学んでいたからであって……」
「それはわかっている。だから、一つ試してみようと思ってな?」
「試す、ですか?」
「うむ。それ次第で、オークと戦うかどうかを決めるのだ。もしそれで、私や他の者達が足らないと考えるのであれば、オークと戦う事は禁ずる。だが逆に……」
「大丈夫だと判断したら、戦わせる……と?」
「その通りだ」
エッケンハルトさんは、リーザとオークが戦うという事を肯定するつもりのようだ。
経験として……という事を考えると、確かに魔物と戦う事を経験しておくのは悪い事じゃないだろう。
魔物がいる世界で、いつどんな事が起こるのかわからないのだから。
人為的ではあるが、ランジ村がオーク達に襲われたように。
けど、それは今じゃなくてもいいんじゃないかと思う。
それこそ、リーザがもっと成長して……せめてティルラちゃんと同じくらいか、もっと大きくなってからでもいいんじゃないかと。
それだけ時間があれば、鍛錬をする事だってできるんだしな。
隣にいるレオも何か言いたそうに息を漏らしていたので、それを撫でて抑えながら、俺からエッケンハルトさんに言ってみる。
するとエッケンハルトさんは、オークと戦う前にリーザを試す事を提案された。
それ次第で、本当にオークと戦わせるかどうかを決めるみたいで、俺の問いかけにもエッケンハルトさんは頷いた。
「えっと……何かしたら、オークと戦えるの? ……何をするかわからないけど……私頑張る! パパとママにいいところを見せる!」
「リーザちゃん、大丈夫なのですか?」
「うん、ティルラお姉ちゃん。ティルラお姉ちゃんやシェリーもそうだし、パパやママの格好良いところは見たから、今度は私の番だよ!」
「リーザ……」
「ワフ……」
「本人はやる気のようだな。……私としても、どちらかと言えば反対だが、これだけのやる気を削ぐ気にはあまりな……何、心配するな。試すこと自体は簡単なものだが、その判断は厳しくするつもりだ。私も、リーザのような子供が傷付くのは見たくないからな。……同時に、少々期待している部分もあるが」
エッケンハルトさんの言っている事は、半分以上理解していない様子のリーザだが、戦う事に対するやる気は十分なようだ。
心配そうにするティルラちゃんに対しても、俺やレオにいいところを見せると意気込んでいた。
俺とレオは、どうした物かと困り果ててリーザを見たが、エッケンハルトさんはそれを見て、まずは試す事を決めたようだ。
何をするのかはわからないが、一応リーザに危険が及ばないように試すのは簡単に、けれど判定は厳しく……どちらかというと、それを理由にオークと戦う事を諦めさせるように仕向けるつもりなのかもしれない。
最後に呟いた言葉は、むしろリーザがオークと戦える判断を下される事を、期待しているみたいな気がしたが――。
「それで、お父様? どうしてこうなっているんですか?」
「いやクレア……そのな? リーザがな……?」
反省会を終え、エッケンハルトさんが考えている事を実行するために、焚き火から離れる。
俺達の話が終わった事に気付いたクレアさんが、アンネさんや他の護衛さん達と一緒にこちらへ来た。
近付いて来る途中には笑顔だったはずなのに、エッケンハルトさんの向かいでナイフを持ってやる気を出しているリーザを見て、また父親が無茶な事を言い出したのかと、腰に手を当て厳しい表情。
俺とレオ、ティルラちゃんとシェリーはリーザの後ろで、ハラハラしながら見守っている状況だ。
いや、クレアさんに詰問されているエッケンハルトさんをではなく、リーザをだけどな。
わたわたとしながら、クレアさんに説明しているエッケンハルトさんを横目に、鞘から抜いたナイフを持っているリーザを見た――。
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