レオがシェリーにアドバイスをしたようでした
「ワウ」
「キャウ」
フィリップさん達が下がって来るのに合わせて、森の中から一体のオークが出てくる。
それを確認し、レオが促すように吠えると、シェリーは応えるように頷いて数歩前に出た。
レオの頭の上に陣取ってのんびりしていたり、クレアさんに抱かれて寝ていたシェリーからは想像もつかない程凛々しいな。
子供とはいえ、さすがはフェンリルといったところなんだろう。
「ギュオ?」
森から出てきたオークは、様子を見ながら追いかけていたはずの人間が、木々が途切れた途端多く集まっていた事に驚いた様子だ。
その視線は、しっかりレオを見たりもしていたはずなのに、恐怖したり逃げたりしないのは、やはり知性が低いせいなのかなんなのか。
「バウ!」
「ギュオ!」
さらに数歩、オークへと近付いたシェリーが吠える。
こんな声も出せたんだな……と思う暇もなく、オークの方がシェリーに気付き戦闘態勢に入るのがわかった。
どうやら、シェリーを敵だと認識したようだ。
「ガウ!」
「グルルルゥゥゥゥ……ギャウ!」
レオが後ろから、行け! と言うように吠えると、弾けるようにオークへシェリーが飛びかかった!
いつものんびりしている様子からは想像できない程、その速度は速い。
さすがに、レオのように目で追うのがやっと……という速度ではないが、それでも十分に脅威と感じる速度だ。
戦闘態勢になったオークの方は、突進する間もなく、肉薄するシェリーに向かって腕を振り上げた。
さっきのティルラちゃんに対するオークと同じように見えるが、こちらのオークの方が冷静そうで、目はしっかりとシェリーを捕らえて離さない。
シェリーはティルラちゃんのように、オークの腕を掻い潜る事ができるのか……と他の皆と一緒に固唾を飲んで見守っていたら、それは起こった……。
「ギュア!」
「キャゥン………!」
「「「…………」」」
「ワフゥ……」
十分に速いと言える速度で、オークに向かって飛び込んだシェリーだが、地面を走っていたわけではなく、最初から飛び上がってオークに向かって行っていた。
そのため、途中で軌道を変える事もできず、しっかりシェリーの動きを捉えていたオークの右手にはたかれて左側に大きく吹っ飛んだ。
ペシッ! という音が聞こえ、見守っていた全員が言葉をなくす。
レオだけは、溜め息を吐いていたが……静寂が場を支配していた……。
「キャゥ……キュゥ……」
数メートルの場所に飛ばされたシェリーは、土で汚れた体ながらも、意識ははっきりしているようで鳴き声を漏らしながら立ち上がる。
四本足でしっかり地面を踏みしめて立ち上がった後……何故かこちらへ顔を向けた。
その顔、いや眼差しは、先程までの凛々しい雰囲気は微塵もなく、助けを求めるようなウルウルした目でこちらを見ている。
「えっと……」
「……これは、助けた方が良いのか?」
「っ……っ……」
戸惑う俺とエッケンハルトさん。
クレアさんは、シェリーの所へ駆け寄りたい衝動を必死で耐えているようだ。
多分、まだオークがいるから、今行くとさらに危険だと考えてるからだろう。
しかし、そこまで冷静になれない人物が俺達の近くにいた。
「シェリーが危ないです! 今私が助けます! 待っててシェ……え?」
「ワフワフ……ワフゥ……」
シェリーを助けに行こうと、駆け出したティルラちゃんだ。
叫びながら、オークに向かって走って行ったのに、俺やエッケンハルトさん、クレアさんは反応できずに止める事はできなかったが、レオの横を走り抜けようとした瞬間、レオが襟首を口で捕まえ、ぶら下げた
昨日、リーザを川に入れる時と同じような格好だな……とにかく、止めてくれて良かった。
「レオ様、シェリーが! シェリーが危ないんです!」
「ワフワフ。ワフ」
「お、おぉ。助かりました、レオ様。ティルラ、助けたいのはわかるが、何も考えずに突っ込むものではないぞ?」
「でも、シェリーが……!」
レオに捕まってジタバタしながら、シェリーが危ないと言うティルラちゃん。
そんなティルラちゃんを落ち着かせるように鳴いたレオが、エッケンハルトさんにティルラちゃんを渡した。
受け取ったティルラちゃんを、しっかり抱き留めてオークへ向かって行かないようにしながら、注意をするエッケンハルトさん。
それでもなお、シェリーを助けたい気持ちでいっぱいなティルラちゃん。
優しい子だな。
「レオ、大丈夫なのか?」
「ワフワフ。ワフー」
ティルラちゃんがエッケンハルトさんに捕まっている間に、レオへと聞く。
するとレオは、大丈夫だと言うように頷いて、ゆっくりとシェリーへと近づいて行った。
移動する間も、レオはオークへ視線を投げかけて牽制している。
さすがに逃げたりはしなくとも、レオの視線にようやく恐怖を感じて身を竦ませていた。
「タクミさん……シェリーは大丈夫なのでしょうか?」
「わかりません。ですが……レオが大丈夫だと言っているので、信じましょう」
「はい……」
不安そうな面持ちで、シェリーとそちらへ向かうレオを見ているクレアさん。
俺には本当に大丈夫かはわからないが、レオの事を信じる事くらいはできる。
余程不安なんだろう、俺の右手がクレアさんの左手にギュッと握られた。
急な事で一瞬心臓が跳ねたが、すぐに安心させるように左手でクレアさんの左手を包み込む。
「……ありがとうございます、タクミさん」
「いえ、これくらいは……」
「……ほぉ?」
お礼を言うクレアさんは、少しは安心できた様子だ。
後ろでエッケンハルトさんの声が聞こえた気がするのは、完全に無視をしてレオとシェリーの方を注目した。
「ワウ!」
「キュゥ……」
レオが来てくれた事に、一瞬シェリーがホッとした雰囲気になりかけたが、それをレオが吠えて一喝。
多分、不甲斐ないとか、そんな感じで怒っているのかもしれない。
意気消沈した様子のシェリーが、項垂れながら小さく鳴いた。
「ワウワウ、ガウ? ワウーガウガウ!」
「キャゥ? キュウ! キュウ!」
「ワフワフ?」
「キャゥ!」
何やらお互いの顔を近付けて話しているようだが、さすがに距離があるため何を言っているのかわからない。
レオの方は、シェリーを叱咤しているようだが……なんだろう、斬り裂く事を考えるんじゃなく、他にも方法があると言っているような感じかな?
一度首を傾げたシェリーは、何かに思い当たったように元気になった。
さっきまであんなに項垂れてたのに、えらい変わりようだな……。
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