最後にシェリーの番になりました
エッケンハルトさんの方は、止めの刺し方には触れず、一番最初の避け方を褒めていた。
自分がやった事のように喜んでいるのは、それだけティルラちゃんの事を大事にしているからだろう。
まぁ確かに、ティルラちゃんが成長して身長が伸びたら、できない避け方でもあるだろうけども。
クレアさんは、あまり背の高くない俺より少し低いくらいの身長で、女性にしては高身長とも言えるけど……あれくらい大きくなるのかな?
「ワウワウ!」
「キャゥ!」
喜び合うリーベルト家親子を眺めていると、ティルラちゃんが倒したオークを引きずって戻ってきたレオが、次はお前の番だと言うように、シェリーに向かって鳴いた。
これまでの、俺やティルラちゃん、レオがオークを倒すところを見て自分にもできると考えたのか、シェリーの方はやる気十分だ。
ちなみに、レオが真っ二つにしたオークは、俺の時と同じように執事さんやメイドさんが運んで行き、川で血抜きを始めた。
人数が多いが、これでしばらく食料の事を考えなくても良さそうだな。
「……それでは、レオ様。頼みます」
「ワフ! ……ワーフワウワウ、ガウワフ!」
「ふむふむ……フィリップさん、先程のティルラちゃんと戦ったオークの近くに、一体だけ他のオークと離れた個体がいるみたいです」
「了解しました。先程いった場所の近くなら、すぐにわかります。恐らく、近くのオークがいなくなったのを見るためか、単純に移動しようとしてはぐれたんでしょう。オークは群れる事もありますが、基本的に集団行動は得意ではありませんから」
エッケンハルトさんに頼まれたレオが、頷いてオークの気配を探るように顔と鼻を巡らせる。
シェリーは、レオの隣に移動していつものんびりしている雰囲気が鳴りを潜めて、森の木々を睨むようにしていた。
大きさは中型犬程度しかないシェリーだが、そうやっているとフェンリルである事が納得できるくらい、凛々しく見えるな。
レオと比べると、親と子供に見えなくもない……かな? 毛の色は違うけども。
オークの気配を探っていたレオから、発見報告を聞き、通訳してフィリップさんに伝える。
先程の場所と同じような場所にいるみたいだから、どの方角にオークがいるかまでは伝えなくても大丈夫なんだろう。
オークは集団行動が苦手……というのはなんとなくわかる。
知性が全くないわけではないだろうが、ほとんど本能のままに人間などの他種族を見つけたら襲い掛かっているようだし、ランジ村で大量のオークが襲ってきた時も目に入った生き物を目標にしていたようだしな。
その際に、一番近かった馬を襲ったりもしていたが、その時も含めて統率されるような動きは全く見られなかった。
おかげで、光の魔法で驚かせたりの時間稼ぎができたんだが……あれで統率されていたら、あっという間に村は壊滅していたかもな……。
「シェリー、頑張るのよ。 でも、無理はしないでね?」
「キャウ!」
三度森へと入ったフィリップさん達を見送った後、レオの隣で立っているシェリーに声をかけるクレアさん。
その表情は、自分の従魔であること以上に、シェリーの事を心配している様子が見て取れた。
俺とレオのように、相棒と言える程なのかはわからないが、クレアさんにとってここしばらく一緒にいたシェリーは、もう家族のようになっているんだろうな。
「シェリー、私にもできたのですから大丈夫です!」
「キュゥ!」
クレアさんに続いて、ティルラちゃんもシェリーに声をかけた。
訓練をしっかりしていたティルラちゃんと違い、今までのんびり過ごすくらいしかしていなかったシェリーには、根拠になっているようでなっていないが……まぁ、大丈夫だろう。
フェンリルだし……シェリーも元気よく頷いているしな。
エッケンハルトさんは、シェリーを応援する娘二人を眩しそうに見ていた……若干、飼い犬に娘を取られた父親の哀愁を感じたが……多分気のせいだろう。
「ワーフ……」
「随分余裕にしているけど、大丈夫なのかレオ?」
「ワフワウー」
「そうか。ならいいんだが」
緊迫した様子で、森を睨むシェリーとそれを見守るクレアさんとティルラちゃん。
その近くでは、お座りしたレオが緊張感もなく後ろ足で耳をかきながらあくびをしていた。
もう少しシェリーの心配を……と思って声をかけたが、レオから返って来たのはフェンリルなら負けるはずがないという気楽なものだ。
なんでも、存在自体が別物というか強度が違い過ぎて、本来は遊び相手にもならないそうだ。
まぁ、シェリーは怠けてたおかげで本来の動きができるかはわからないが、それでも負けないだろうとの事。
……本当に大丈夫なんだろうか?
レオの事は信頼しているし、頼りにもしているが……中型犬程の大きさしかないシェリーが、人間と同じ位かそれ以上の大きさがあるオーク相手に絶対負けないというのは、想像しづらい。
まぁ、周囲には俺やエッケンハルトさんもいるし、レオもいるんだから滅多な事にはならないだろうし、なんとかなるか……。
「キャゥ!」
レオと話してしばらく待っていると、森の方を睨んでいたシェリーが何かに気付いて鳴いた。
それを聞いて、レオ以外がにわかに緊張して森の方へ注目する。
少しの間を空けて、森の方からゆっくりとフィリップさん達がこちらに背を向け、後退りながら出てきた。
今回は、走って逃げていたりしてないのか……。
「レオ様の言っていた通り、はぐれていたオークを一体、挑発しておびき寄せました。今回は興奮していない様子だったので、ゆっくりと歩いています」
「必要以上に挑発せず、一定以上の距離を離す事で、オークは少しずつ近づいてくるようです……」
俺達のいる方へ向かって、少しずつ後退りをしながら報告をしてくれるフィリップさん達。
興奮していない状態であれば、突進してすぐに相手に当てられない距離なら、少しずつ近づいて来るんだな……それくらいの知性がある、というよりは本能で判断していそうだ。
そうならそうと、俺の時もそうやって少しずつおびき寄せて欲しかったが……まぁ、何度も挑発しているうちに気付いたのかもしれないし、複数いるオークのうち、一体を残して処理したりとしていたようだから、興奮させないのも難しいか。
結局興奮したら、見境なく襲い掛かって来るんだから、オークは魔物の中でも知能は低いんだろうな――。
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