ティルラちゃんが初めての実戦を行いました
「ギュオ!? ギュウゥゥアァァァ!!」
「させません! てやぁ!」
浅くだが、お腹を斬られて怯んだオークは目に怒りをたたえ、負けじと左腕を振り上げるが、それを見ていたティルラちゃんは、素早く剣を振り下ろして、振り上げた左腕の肘から先を切り取った。
上から振り下ろすのは、ティルラちゃんが一番力を入れられる振り方だし、足を止めている状態だから、簡単に斬れたのだろう。
「ギュアァァァ! ギュオ、ギュオ!」
「これで、最後です!」
「あ……」
「ふむ……」
「ギュッ!? ギュゥゥゥ………ギュ……」
「あ!? お……っとっとっと……ふぎゅ!」
振り上げたはずの腕が切られ、痛みなのか驚きなのかわからないが、混乱している様子のオーク。
そこに勝機と思ったティルラちゃんが、剣を逆手に持って、思いっきりオークの胸部に突き立てた。
逆手に持ったのは、突き刺す力を込めるためだろうし、止めを刺すうえでは間違っていないんだが……。
剣を突き立てられたオークは、先のない左腕や右腕をバタバタとさせてもがいていたが、一瞬ティルラちゃんに向けて残っている右腕を振り上げようとしたところで力尽き、目の光を失いながら後ろに倒れた。
ティルラちゃんは、深々と剣を突き刺しているため抜く事ができず、そのままオークと一緒に倒れ込む。
剣から手を放さなかったんだから、そうなるのも当然だな。
なんとか踏みとどまろうとしたが、オークの体重を支えられず、倒れ込む勢いのまま、オークのお腹辺りに顔を突っ込んで変な声を漏らした。
多分、鼻でも打ったんだろう……まぁ、なんとかなったし、オークのお腹は柔らかそうだから、あまり強い痛みはないだろうし、大丈夫だろうな。
「ワフワフ、ワウー!」
「あ、レオ様……私、できたんですね……?」
「ワウワウ!」
オークが倒れ、動かない事でティルラちゃんが倒したと判断したレオが、森の方から走って戻ってくる。
ティルラちゃんの周囲を走って回りながら、喜んで楽しそうに吠えてるな。
顔を上げ、オークから剣を抜きながら、レオに気付いたティルラちゃんは、自分がオークを倒した事を不思議そうにして首を傾げていた。
緊張やら、初めての実戦やらで、いっぱいいっぱいだったんだろうな。
「やったぁ! オークを倒せました!」
「ワフー!」
オークから抜いた剣を持ったまま、体ごと乗っかっていたオークから降り、喜んでいるレオが肯定するように頷いて鳴いた事で、ようやく実感したようだ。
喜びを弾けさせ、剣を持ったまま万歳をしてレオと一緒に叫んでる。
剣を収めないのがちょっと危なっかしいようにも見えるが、まぁ、レオが一緒にいるから滅多な事にはならないだろう。
それにしても……。
「タクミ殿、最後のティルラは、少々まずかったな?」
喜んでいるティルラちゃんやレオを、朗らかに見ながらも、先程の事に付いて考えようとすると、エッケンハルトさんが話しかけてきた。
どうやら、エッケンハルトさんも俺と同じ事を考えたようだ。
「……そうですね。俺もそう思います。オークが先に力尽きてくれましたけど、もし突き刺すのが浅かったり、オークの生命力が強かったら、残っている右手に捕まえられたり殴られたりしていたかもしれません」
「うむ。それまでの動きは見事だったのだがな……」
「まぁ、初めての実戦なので、焦りもあったんでしょうね。さっさと決着を付けたいとか……」
「そうだな」
「とりあえず喜んでいますし、初めての実戦という事もあります。注意はしないといけないかもしれませんが……後にしましょうか……」
「……そうだな。今はとにかく勝つ事の喜びを噛みしめさせよう。注意する事なら後でもできるしな」
そう、ティルラちゃんは早々にオークへ剣を突き立てて止めを刺そうとしたが、あの位置はオークの目の前だったため、最後の抵抗をされる恐れがあった。
止めを刺すなら、できるだけ反撃されないように確実にするべきというのは、鍛錬をしている時から言われていたのを忘れていたんだろう。
初めての事だし、緊張やら何やらで、早く決着を付けたくて焦ったりと、その事がすっぽり頭から抜け落ちていた可能性もある。
まぁ、注意して油断をしたりしないようにするのは大事だが、今は勝利の喜びを感じさせた方がいいだろうと思う。
難しい顔をさせるエッケンハルトさんは、注意をして厳しく行きたい反面、娘の勝利を喜びたい父親というのもあって、複雑なんだろう。
注意するのを後回しにした事で、表情を緩めて優しい表情になり、喜んではしゃいでいるレオとティルラちゃんの方を眺めていた。
ちなみにクレアさんも、同じように優しい目をして喜ぶティルラちゃんを見ていた……親子だなぁ……。
「お父様、姉様、タクミさん、なんとかできました!」
「うむうむ、そうだな。よくやったぞティルラ!」
「そうね。立派だったわよ」
「頑張ったねティルラちゃん」
ひとしきりレオと喜びを分かち合ったティルラちゃんが、俺達のいる方へ駆けて戻り、喜びが溢れる笑顔で報告した。
エッケンハルトさんとクレアさんは、満面の笑みでそれを迎え、俺も褒めるように笑顔で返した。
まぁ、俺もティルラちゃんと立場は似たようなもので、同じくエッケンハルトさんに教えられている立場だから、偉そうに言う事はできないが、嬉しそうにしている子は褒めてあげたい。
それにしても……エッケンハルトさんはさっきまでティルラちゃんに対して注意しようかと考えていたはずなのに、今は目尻を下げてオークを無事倒せた事を喜んでいる。
まぁ、元々娘には甘い人だし、こうなるのはわかってた事か。
俺も人の事は言えないだろうしな……リーザがティルラちゃんのように、オークを倒して喜んでいたら、頭を撫でて褒め続けるだろうなぁ。
「ティルラ、怪我はない? こちらからはちゃんとオークの腕を避けていたように見えたけど……」
「はい、大丈夫です姉様! ちゃんと当たらないように避けました!」
「あの避け方は見事だったぞ、ティルラ。私やタクミ殿ではできないだろうな。体の大きさを把握し、十分に利用した避け方だった。……まぁ、成長したら使えないかもしれんがな」
褒められてさらに嬉しそうにしているティルラちゃんに、クレアさんが駆け寄って怪我の確認。
オークが振った腕は、こちらから見ても見事な避け方だっただけあって、かすったりすらせずに怪我もないようだ。
怪我のないティルラちゃんを、オークにくっ付いてしまったために顔に付いた血をクレアさんが拭き取ってあげながら、ホッと息を漏らしている。
やっぱり、大事な妹の事だから、心配してたんだろうな。
読んで下さった方、皆様に感謝を。
クレアさんのキャラクターデザインを活動報告にて公開しておりますので、ご覧頂ければと思います!
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します。