レオにオークの居場所を調べてもらいました
「では次に、おびき寄せたオークと戦う者だが……まずは、タクミ殿にやってもらおうと思う。大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
一番手は俺という、エッケンハルトさんからのご指名だ。
オークと戦った経験があるから、ティルラちゃんやシェリーへの見本として、最初が俺なんだろう。
無意識のうちに、握っていた手を開いて、緊張し過ぎないように深呼吸をする。
大丈夫……ランジ村の時にも戦ったオークだ……冷静に戦えば無理な相手じゃない。
あの時は突発的で、今回はしっかり備えて迎え撃つことができる分、条件としては有利なはずだ。
試験的な意味合いも含まれるので、身体強化などの薬草を食べるのは禁止しているが、あの時よりも鍛錬を続けているおかげで強くなっているはず……!
「そして次に、ティルラ。やってもらうぞ?」
「はい! 頑張ります!」
俺が自分に言い聞かせて、なんとか冷静につとめようとしているうちに、今度はティルラちゃんの指名。
俺が見本となって戦い、ティルラちゃんがオークを倒せるかどうか、実戦といいうものを経験させるのが本来の目的だからな。
「うむ、先に戦うタクミ殿の動きをよく見て、自分にも生かすのだぞ?」
「わかりました!」
緊張を隠せない声色で、一生懸命返事をするティルラちゃん。
大丈夫、俺でも倒す事ができるオークなんだから、いつも真面目に鍛錬をしていたティルラちゃんなら、きっと倒せるよ。
「次に……シェリーだな。レオ様、よろしいでしょうか?」
「ワフ!」
「キュゥ……」
最後は、オークを狩るという事を学ばせるためのシェリー。
エッケンハルトさんが聞く相手がシェリーではないのは、レオが指導する担当だからだろう。
俺やティルラちゃんと違って、シェリーの方はあまり乗り気ではない鳴き声を出しているが……まぁ、フェンリルなんだから大丈夫だと思う。
……大丈夫だよな?
「それでは、各自油断なきよう頼むぞ。相手は魔物だ。レオ様がいるとは言え、何があるかわからん。もしもの備えはあるが、怪我には気を付けろ。以上だ」
「「「「「はっ!」」」」」
「「「「はい」」」」
大まかな確認を終え、エッケンハルトさんの言葉でこの場を締める。
護衛さん達が短く答え、執事さんとメイドさん達が恭しく礼をした。
俺やクレアさん、ティルラちゃんもしっかりと頷き、無茶はしない事を心に留める。
アンネさんは……一人我関せずであくびを噛み殺していたが、後でクレアさんあたりに怒られそうだ。
やる事が決まって、皆が配置に付いた。
俺やエッケンハルトさん、ティルラちゃんとシェリーは、森の木々から数メートルの位置でレオと待機。
リーザとクレアさんとアンネさんはそこからさらに後ろ、川に近い場所で執事さんやメイドさん達と一緒にいる。
念のため、非戦闘員は俺達から離れるようにしていた。
川を背にしていたら、よっぽどのことがない限り襲われないからな。
もし川の向こうの森から魔物が来ても、こちらへ来る間に対処できるだろう。
あとは、この場に残る護衛さんのうち、ヨハンナさんはクレアさん達と一緒に、残る名前の知らない護衛さんは、エッケンハルトさんの隣にいる。
フィリップさん達森へ入る組は、レオが察知した場所へ向かう準備を終え、俺達よりも森に近い場所で待機していた。
「タクミ殿、そろそろ頼む」
「わかりました。――レオ、魔物の位置を教えてくれるか?」
「ワフ。……ワウワウ、ガウワフ」
レオによると、それなりに近い場所にオークが二体いるらしい。
通訳して場所をフィリップさん達に教え、向かってもらう。
森の中に目印になる物がないから、説明しづらいが、フィリップさん達にも感覚強化の薬草を食べてもらっているから、近付けばわかるだろう。
「では、行って参ります」
「うむ。気を付けるのだぞ」
「はっ!」
俺とレオからオークの場所を聞いたフィリップさん達が、エッケンハルトさんに礼をして森の中へ入って行く。
それぞれ魔物に備えるため、抜き身の剣を持ったままだ。
「……タクミ殿、待っているだけというのも、退屈だな……」
「エッケンハルトさん、まだフィリップさん達が行ったばかりですよ? 暇なのはわかりますが、もう少し我慢しましょうよ……」
「そうですよ、お父様! 何が来ても大丈夫なように、構えておくのです!」
「……ティルラは、少々身構え過ぎだな。そんな事だと、実戦で力を出せそうにないぞ? まぁ、初めての実戦だから仕方ないか。大抵の場合は、いつもの実力を出せない事が多いしな」
「そうなんですか?」
森へ入ったフィリップさん達を見送って数分、エッケンハルトさんが退屈そうにしながら、俺に向かって呟く。
待つ間、何もすることがなくて暇なのはわからないでもないが……それにしても、もう少し我慢できなかったのかなと思う。
俺が呆れ交じりに言った言葉に、ティルラちゃんが大真面目に同意する。
エッケンハルトさんの言う通り、確かにティルラちゃんは肩に力が入り過ぎだなぁ。
今朝までは、なんとか緊張しすぎないようにしていたんだが、さすがに実践前となるとそうなるのも仕方ないか……。
「うむ。まぁ、誰でも初めての実戦はな。人間同士の戦ではなく、オークという比較的御しやすい相手に実戦を経験するというのは、ティルラにとってありがたい事だろう。緊張や実戦という事への恐怖など、様々な要因で本来の半分程度しか力を発揮できない事が多いな」
「そうなんですね。まぁ、誰しも緊張はするものですし、怖いものですよね」
緊張や恐怖から実力を出し切れないというのは、実戦に限らずスポーツでもあり得る事だ。
俺には経験がないが、いつもと違う環境や大舞台で、練習ではできていた事を失敗するというのはよく聞く話。
逆に、本番に強い人もいるが……それは少数だろうな。
人間同士の戦というのは、経験したいと思わないが、この世界においてそれを想定しておく必要はあるのかもしれない。
その時に備えて、魔物相手に実戦を経験しておくというのは、戦争になった時に違う心持ちでいる事に繋がるのかなと思う。
人と魔物じゃ、勝手が違うのは当然だが、何も経験していないよりは全然マシだろうしな。
そう考えると、両方経験した事のある俺は、かなりの経験を積んでる事になるのか……どちらの時も必死だったから、あまり実感はない――。
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