朝の支度をリーザにじっくり見られました
「ぐぉー……ぐぉー……」
「……エッケンハルトさん、いつ寝たんだろう? それにしても、結構大きないびきだな」
テント内の離れた場所には、エッケンハルトさんが豪快にいびきをかきながら寝ていた。
しばらく、起きそうにないな。
とりあえずそっとしておこうと、テントから出る。
テント内には、俺とエッケンハルトさんしかいなかったようで、フィリップさんのシュラフも空だった。
「あ、パパ! 起きたー?」
「あぁ、起きたよ。おはよう、リーザ」
「うん、おはよう!」
「ワウ」
「キャゥー!」
「おはようございます、タクミ様」
「おはようございます、ライラさん」
テントから出てすぐ、川の方からリーザが俺を見つけて声を上げていた。
そちらに近付きつつ、リーザへと返して、その場にいた皆へ朝の挨拶。
シェリーは、足が付く程度の底の浅い場所で、水をパシャパシャさせて遊んでおり、その近くにリーザも一緒にいた。
そういう場所なら、泳がなくてもいいからシェリーも大丈夫なんだな。
レオは相変わらず、深い場所まで行って犬かきで泳いでいるな……泳ぐの好きだなレオ……運動のつもりなのかもしれないが。
そんなレオやシェリー、リーザを朗らかに見守るように、川辺に佇むライラさん。
そちらにも挨拶をして、朝の準備を始めた。
「……へぇー、パパってそんな事をしているんだねー」
「リーザには見せた事なかったかな? まぁ、男にも色々と準備は必要なんだよ」
川で顔を洗い、ついでに伸びていた髭を剃る。
さすがに慣れたので、髭剃り用の小刀でも怪我をする事なく綺麗に剃れた……と思う……鏡で確認できないから水面に映った自分を見るしかない。
俺が髭を剃る様子を、リーザが興味深そうに見ていて少し恥ずかしかったが、それを表に出さないように気を付けた。
リーザはいつも、俺が朝の用意をしている間、ティルラちゃんやライラさんに連れられて、部屋の外へ行って整えているから、見るのが初めてだったか。
興味深そうに見るのはいいんだが……女の子が男の髭を剃る様子を見ても、何も楽しくないと思うんだがなぁ……。
おや、ライラさんもにこやかに見てる……女性には珍しい光景だから、意外と好評?
……とはいえさすがに、積極的に見せるような事は考えないでおこう。
「さて、腹も膨れた事で、本日から本格的にオーク探しを……ふぁ~……」
「んん! 旦那様……」
「おぉう……すまない。あまり寝ていないのでな。ともかく、本日からオークを探し、討伐する事になる」
朝の支度をした後、リーザやレオ、シェリーに川から上がってもらい、ライラさんの料理を手伝う。
人数が多いから大変かと思ったが、もう一人のメイドさんもいてくれたので、すぐに終わった。
まぁ、俺は指示を受けて食材を切ったり、洗ったりするだけなんだけどな。
味付けと実際の調理は、ライラさんにお任せだ。
ちなみに、シェリーは今日の朝食までは皆と一緒の料理を食べる事になっている。
昼食以降は、自分でオークを狩って調理してもらうなりなんなり……というのがレオからの指令だ。
その後、協力して作った朝食を皆で食べ終わる頃に、エッケンハルトさんが起きてテントから出てくる。
寝るのが遅かったのもあるんだろうけど、やっぱり朝には弱いんだな。
エッケンハルトさんは朝食抜きのまま、支度が終わってすぐに皆を集める。
全員から注目される中、小規模な演説のように話し始めたエッケンハルトさんだが、肝心なところであくびをしていた。
隣にいたセバスチャンさんに咳払いと共に注意されて、気を取り直しながら話を再開。
……あれから、いつまで起きていたんだろう。
熟睡していたから、エッケンハルトさんがテントに戻って来て寝たのがいつなのか、気付かなかった。
ふと見てみると、クレアさんも同じく眠そうで、あくびを噛み殺していた。
「……っ」
俺からの視線を感じたのか、こちらを見たクレアさんは、自分があくびを我慢している事を見られたと、顔を背けて頬を染めていた。
やっぱり、そういう油断している姿を見られるのは恥ずかしいか……ちょっと可愛いと感じてしまった。
……もしかしたら、俺の頬も少し赤いのだろうか……?
ちなみに、クレアさんの隣にいるアンネさんは、眠そうというよりまだ疲れている様子だ。
昨日森の中を移動した疲れは、一晩では取れなかったらしい。
日頃運動をしたりしておらず、慣れていないのだから仕方ないか。
そう考えると、寝不足ながらも疲れていない様子のクレアさんは、同じ貴族令嬢でありながら、体力はある方なのか……エッケンハルトさんの娘と考えると、ちょっと納得だけどな。
ティルラちゃんは、皆の前に立つエッケンハルトさんの前で、真面目な雰囲気で話される事に集中している様子だ。
こちらからは表情が見えないが、もしかしたら今日から本番開始とばかりに、緊張して強張ってるのかもしれない。
「まずは、レオ様に気配察知をしてもらう。タクミ殿、レオ様、大丈夫かな?」
「ワフ!」
「はい、準備できています」
エッケンハルトさんから聞かれて、レオと一緒に返事をする。
事前に、レオには感覚強化の薬草を食べさせており、通常よりも広く魔物の気配を感じられるようになっているはずだ。
これで、大まかにオークがどのあたりにいるかを探るという手はずだ。
「うむ。オークがいる方向や場所がわかったら、そこへフィリップ達に向かってもらう。もしもに備えて、別の魔物やオークが散在する場合は近寄らないように注意する事」
「「「はっ!」」」
「そして、森へ入ってオークを発見した場合、そのままこちらへと挑発をし続けておびき寄せる。無理をする必要はないが、その時に数を減らせるなら減らしておく事。順番に戦わせる予定だが、基本は一対一の状況を作り出す事だからな」
「「「はっ!」」」
フィリップさん達は、森の中へ入ってレオが察知したオークの捜索と囮役だ。
複数いた場合は、途中で数を減らす役目でもあるが、危険な場合は無理せず連れてくるだけとなっている。
森へ入るのは、フィリップさんとニコラさんと、もう一人の護衛さん。
他の護衛さんとヨハンナさんは、ここに残って皆の護衛をする。
レオも同じく、残って皆を守る役目で、それだけで十分だろうと思ったりもするが、多くの人間が森へ入ると、別の場所にいる魔物を刺激する可能性もあるため、森へ入るのは三人でという事となった。
護衛さん達は、しっかり訓練を行った人達だから、失敗したり大きな怪我をする可能性は低そうだな――。
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