前回に続き見張りをする事が決まりました
セバスチャンさんに枝拾いを頼まれて、そちらへ向かう前に、気になった場所で視線を止めて聞く。
そこでは、テント設営をしているヨハンナさんの近くで、顔を真っ赤にしたエッケンハルトさんが人の半分程はある石……岩を持ち上げようとしていた。
全身に力を込めて持ち上げようとしてるから、顔が真っ赤になってるんだろうが……転がせばいいのに……多少角ばってはいても割と丸い岩だし、地面に埋まってもいないから、横から数人で押せば転がるだろう。
セバスチャンさんは石と言っていたが、人間一人で持ち上げるのは不可能なんじゃないだろうか?
近くにフィリップさんがいるし、ニコラさんがセバスチャンさんの指示を受けて、丸めの長い枝を地面に配置してるから、エッケンハルトさんが持ち上げるのを諦めるまで、やらせるつもりなんだろう。
まぁ、無理し過ぎないように祈っておこう。
こんなところで、エッケンハルトさんがギックリ腰になったりしないように……。
「さて、美味しい食事が済んだ後は、夜間の見張りについてです……」
ライラさんの作った、美味しい料理を頂いた後は、焚き火を囲んで深夜の見張り決め。
一つの焚き火を、エッケンハルトさんを含む俺達で囲み、また別の焚き火を使用人さんや護衛さん達が囲んでいる。
さすがに人数が多いため、一つの焚き火では足りなかったから、二つ用意してる。
夕食前、俺が手伝って拾った枝が役に立ったようだ。
「今回は人数も多いため、旦那様やクレアお嬢様。アンネリーゼ様は気になさる事なく、お休み下さい」
「うむ」
護衛さんが五人で、使用人さんがセバスチャンさん含めて四人と考えると、分担したら問題なく見張りがこなせるだろう。
エッケンハルトさんが頷く横で、今回は見張りに参加したいと言い出さないクレアさん。
前回と違って、酷く疲れているわけではないが、またセバスチャンさんに止められる可能性を考えて、控えているんだろう。
もちろんアンネさんが、見張りをすると言い出す事はない。
ある程度休めたのか、川へ到着した時のような様子ではないが、それでも表情にはっきりと疲労がにじみ出てる。
室内のベッドでゆっくり……というわけにいかなくとも、今夜はテントでぐっすり寝られるんだろうな。
安眠薬草を渡して、回復に努めてもらおうかとも一瞬考えたが、頼り過ぎも良くないので今日は様子を見る事にしよう。
明日以降で、疲れすぎているようだったら、疲労回復の薬草や、安眠薬草を使ってもらおうかな。
「……タクミ様、今回の見張りは担当されますかな?」
「え、いいんですか? 人数が多いんで、任せて下さいと言われると思っていましたけど……」
皆の様子を見ていた俺に、セバスチャンさんから見張りについて聞かれた。
てっきり、人数が多いから担当する必要はなく、ゆっくり休んで下さいとでも言われると思ってた。
「いえ、タクミ様の事ですので、我々だけに任せるのは気が引けると考えそうですからな。……違いましたか?」
「……いえ、違いませんね」
セバスチャンさんが俺を見て言う言葉に、苦笑で返す。
確かに、野営準備の時もそうだったが、全て人任せで……というのは気が引けてしまう性格だ。
さすがのセバスチャンさんは、俺がそういう性格であろうことはお見通しだったらしい。
まぁ、担当させてくれるのなら、皆のために見張りをしたいと思う。
俺が担当する事で、他の人達が休める時間が増えるだろうしな。
「はい、ですので担当して頂こうかと。もちろん、レオ様とご一緒にというのが条件になります。よろしいですかな?」
「大丈夫か、レオ?」
「ワフ!」
「私も、パパやママと一緒にいる!」
「んー……リーザ、夜遅くまで起きていられるのか? ゆっくり寝てた方がいいんじゃないか?」
前回同様、レオと一緒ならという条件付きだ。
今はエッケンハルトさんによる指導のもと、剣の鍛錬をしていて多少は戦えるようになってはいるが、察知能力まで上がったわけじゃない。
薬草があるとはいえ、レオと一緒に見張りをして、安全にするよう対策を考えるのは当然か。
隣でリーザを包むように丸くなっているレオに聞くと、顔を上げて任せろと言うように頷いて鳴いた。
それと一緒に、黙って話を聞いていたリーザが、俺達と一緒に見張りをしたいと言い出す。
一緒にいたいと思ってくれるのは嬉しいんだが……起きてられるのかな?
昨日は遅くまで起きて、今日は早く目が覚めて寝不足なはずだし、屋敷にいる時は深夜になるとすぐ眠気に襲われていた。
無理したら、多少は起きていられるだろうが……そこまでして見張りをする必要は、今回はないしな。
「頑張る! パパとママと一緒にいるため!」
「ここで頑張らなくても、一緒にいられるんだけどな……まぁ、起きていられたらな。寝てしまったら、テントに運ぶからな?」
「うん!」
「ふふふ、リーザちゃん、タクミさんレオ様によく懐いていますね?」
「まぁ、年齢的にも、甘えたい頃でしょうからね」
気合を入れて、できるだけ起きていると意気込むリーザ。
仕方ないなと思いつつ、リーザの言う事を聞いてしまうのは、甘い証拠なのかもしれない。
嬉しそうに頷くリーザを見ながら、レオとリーザとは逆隣に座っていたクレアさんに、声を潜めて笑いながら話しかけられる。
今まで甘える相手がほとんどいなかったリーザの事を思い、クレアさんに苦笑して返した。
これまで甘えられる相手と言えば、レインドルフさんだけだっただろうしなぁ。
まだまだ幼いリーザには、もっと甘えて欲しいと思う。
俺がリーザに対して甘すぎて、クレアさんやレオに呆れられる可能性というのも、あるかもしれないが……それはそれだ。
いや、レオはむしろ俺と同じかそれ以上に、リーザに甘そうだな……。
「では、タクミ様達には、最初の見張りを担当してもらいましょう。それでしたら、遅くなり過ぎず、リーザ様も起きていられるかもしれませんからな」
「すみません、お願いします」
「お願いします!」
「ワフ!」
俺とリーザの会話を、朗らかに見ていたセバスチャンさんが、俺達の担当を最初の見張りに決めてくれる。
それなら、いつも寝る時間よりも多少遅いくらいで済みそうだな。
大体、シェリーが盗み食いしてたのを捕まえた時より、一時間程度遅いくらい……かな?
その後は、特に反対意見が出る事もなく、スムーズに見張りの順番を決めて就寝する事になった――。
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