野営地の川付近に到着しました
メイドさんの言う手伝いを厳命される程に、自覚なく壊滅的な味付けというのは、一体なんなんだろう……?
なんでもかんでも混ぜてしまったり、砂糖を入れ過ぎたから塩を追加とか、そういう事なのか?
それとも、とにかく赤くて辛い味付けにしてしまうとかなのだろうか……。
少しだけ興味はあるが、厳命されているという程だから、試してみるというのは止めておいた方がいいか。
「私自身、どうしてそうなるのかわからないのですが……ともあれ、今回はライラを手伝う事に専念させてもらいます」
「ちょっと興味はありますが……そうですね、それがいいですね……」
不思議そうに言うメイドさんだが、聞いてる俺の方がもっと不思議に感じる。
ともあれ、そのメイドさんは味付けを担当する事なく、ライラさんを手伝う事だけに集中するようだ。
屋敷でちょっとだけ味見……というのなら良くても、今は他にも大勢いるんだし、その皆が食べられない物が出来上がってもいけないからな。
エッケンハルトさんは面白がるだろうが、レオやセバスチャンさんからは怒られそうだ。
「川が見えてきました!」
好奇心に動かされて、無謀な味付けを諦めつつ、メイドさんと話しているうちに、川辺へとたどり着いたようだ。
先頭にいるフィリップさんが、後ろにいる俺達全員へ聞こえるように声を出した。
話に集中してたが、確かに川の流れる音がはっきりと聞こえるな。
前方を見てみると、奥の方で木々が途切れ、遮られていない日の光で明るくなっている場所が見えた――。
川のほとり、背の低い草が生えている程度の場所で、ここまで来た全員が荷物を降ろす。
それらを一つの場所へ固めておき、執事さんの一人に管理を任せた。
「ふむ、中々いい所だな。川の流れる音が耳に心地良い」
「そうですねぇ……レオも楽しそうです」
周囲を見渡しているエッケンハルトさんと共に、川のせせらぎに耳を傾けながら、風景を楽しむ。
空気も美味しいし、緩やかな川の流れる音も相俟って、のんびり過ごすには丁度いい。
日本でなら、都会の喧騒を忘れて、大自然の息吹を――なんてキャッチコピーが付いて、キャンプ地になってそうな場所だな。
生憎と、ここにはオークなんかの魔物も出るから、安全ではないが。
エッケンハルトさんの言葉に答えながら、川の方へ視線をやり、目を細める俺。
そちらでは、早速とばかりに川へ飛び込んだレオが気持ち良さそうに泳ぎ、シェリーが溺れていた。
って……シェリー大丈夫か!?
と駆けて行こうとしたら、シェリーの様子に気付いたレオが、口で首の後ろを掴んで川から持ち上げた。
荒い息をしてるように見えるが、なんとか無事なようだ。
シェリー、泳げないんだな。
「お、リーザが川に入ろうか迷ってるぞ?」
「ですねぇ。……リーザって泳げますかね?」
エッケンハルトさんが、レオを追いかけて川のすぐ傍でリーザを見つける。
足の先を川の水に浸けたり、流れを感じて足を引いたりとして、どうしようか迷っているようだ。
その様子を見ながら、エッケンハルトさんに聞く。
泳いだりとかって、リーザはした事があるのかな?
「私に聞かれてもな……待てよ? 以前、タクミ殿と初めてリーザと会った時、綺麗な水を見るのは初めてとか言っていなかったか?」
「そういえば、そんな事も言っていたような……」
確かあれは……リーザを連れて屋敷に戻っている途中だったと思う。
泥水や雨水が基本的な飲み水だったリーザは、レオが魔法で出した綺麗で透明な水に驚いてたっけ。
さすがに、レインドルフさんがいる時は、ある程度綺麗な水を飲んでいたんだろうとは思うが、亡くなってからはスラムの標的にされてる事もあって、そうして喉の渇きをいやすくらいしかできなかったんだろう。
……よく病気にならなかったな。
ともあれ、透明度の高い綺麗な水というのを、見た事がなかったリーザにとって、大量に流れている川は恐ろしい物に見えてもおかしくない。
それでも中に入ってみようとしているのは、レオが楽しそうに泳いでいる事と、持ち前の好奇心がなせる事なんだろうな。
「レオ様がいるので、大丈夫だろうが……少々危ないな……」
「ですね。ちょっと行って来ます」
「うむ」
エッケンハルトさんに断って、リーザの所へ向かう。
「旦那様、テントを張りますのでこちらに。森へ入る条件として、立場は関係なく手伝えることは手伝うと言いましたよね?」
「……そうだったな……タクミ殿は行ってしまったし、仕方ない……」
川へ近づく俺の後ろで、セバスチャンさんとエッケンハルトさんの話し声が聞こえた気がしたが、気にせずそのままリーザの所へ。
エッケンハルトさん、テント設営頑張ってください……。
「リーザ、大丈夫か?」
「パパ! うん、大丈夫だけど……こんなに水が多いのは初めて……」
「そうだなぁ。屋敷の風呂場も広くて大量の水……お湯はないもんな」
「うん……」
俺の呼び声に、振り向いて破顔するリーザだが、すぐに川の方へ視線を戻して顔を曇らせる。
やっぱり、初めて大量の水があるのを見て、驚きと共に恐怖を感じてるようだ。
むしろ、ここで恐怖すら感じず、ためらいもなく川に飛び込んだりしなくて良かった。
初めてのリーザは、当然泳げないだろうし……もしもの時はシェリーが溺れてた時のように、助けてくれるだろうが、それでも危険な目に遭ってしまう事には違いない。
場合によっては、トラウマになって水に近付きたくなくなるかもしれない。
レオのように、風呂を嫌がるようになったりしたら、女の子として問題だしな。
「大量の水ってのは、危険だからな。ほら、水の中では息ができないだろう?」
「んー……よくわかんない……」
多くの水を見たリーザにとって、水中で息ができないという事をよくわからないようだ。
こういうことはあまり得意じゃないんだが……と思いつつ、リーザに水の危険性を説明する。
怖がり過ぎてもいけないから、少しだけだけどな。
さすがに、どざえもんの説明とかはしないようにしておいた。
こういう時セバスチャンさんがいてくれれば、喜々として説明してくれて助かるんだが……生憎と、テント設営を含めて、野営の準備中だから仕方ない。
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